三関(読み)さんげん

精選版 日本国語大辞典 「三関」の意味・読み・例文・類語

さん‐げん【三関】

[一] 上代、都の防備のために設けられた三つの関所。都が大和国(奈良県)の平城京にあったときには、伊勢国(三重県)の鈴鹿の関、美濃国(岐阜県)の不破の関、越前国(福井県)の愛発(あらち)の関。のちに、都が山城国(京都府)の平安京に移ると、愛発の関が廃されて近江国(滋賀県)の逢坂の関(あるいは勢多の関)が置かれた。大事が起こった時は都から使と兵が派遣された。
※続日本紀‐和銅元年(708)三月乙卯「勅。大宰府帥大弐。并三関及尾張守。始給傔仗。其員、帥八人、大弐及尾張守四人、三関国守二人、其考選事力及公廨田、並准史生
[二] 古代、蝦夷(えみし)に備えて設けられた三つの関所。磐城(福島県)の白河の関、常陸(茨城県)の勿来(なこそ)の関、羽前(山形県)の念珠(ねず)が関。奥羽三関
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)白川の関「中にも此関は三関の一にして、風の人、心をとどむ」

さん‐かん ‥クヮン【三関】

[1] 〘名〙
① 仏語。禅の修行者が通らなければならないとした三つの関所。黄龍が、対立する偏見を捨てたところに真のさとりがあることを示すために唱えた教説で、ほかに兜率高峰などもこれを説いた。三関語。
② 人の、目と耳と口の総称

さん‐せき【三関】

さんげん(三関)(一)〔書言字考節用集(1717)〕

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デジタル大辞泉 「三関」の意味・読み・例文・類語

さん‐かん〔‐クワン〕【三関】

古代、都の防備のために設けられた三つの関所。平城京の時は、伊勢鈴鹿すずか美濃不破ふわ越前愛発あらち平安京に都が移ると、愛発の関が除かれ、近江おうみ逢坂おうさかの関が加えられた。
奥羽白河勿来なこそ念珠ねずの三つの関所。

さん‐せき【三関】

さんかん(三関)

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改訂新版 世界大百科事典 「三関」の意味・わかりやすい解説

三関 (さんかん)

日本古代律令制下における最重要の関。伊勢国鈴鹿関,美濃国不破関,越前国愛発(あらち)関の三つであり,おのおの東海道東山道北陸道が近江国から隣国に国境を越えた地点に位置した。軍防令によると,これらの関には兵士と鼓吹,軍器が置かれ,国司が関司として守固した。三関は天皇,太上天皇の病,没等の不穏な事態や,反乱が発生した際に固関使(こげんし)が派遣され閉鎖され,京における反乱者の東国逃亡,事態の波及の防止をめざした。三関国の国司は関契(木契)を保管したが,これは一種の割符で半片は後宮の蔵司が保管し,固関と開関のために用いられた。関所は過所(かしよ)を用いて通行したが,関の中でも三関は不法通行に対する刑がとくに重く,例えば過所なしで関を通過する私度の罪は徒1年とされた。789年(延暦8)7月交通阻害の要因になるとして三関は停廃されたが,その後も上述のような事態発生の際は固関が行われた。ただし810年(弘仁1)9月平城上皇の平城遷都計画に対処する固関以降は,愛発関にかわり近江国逢坂(おうさか)関が三関の一つとなった。なお,蝦夷対策として陸奥国におかれた白河関,勿来(なこそ)関,念珠(ねず)関を奥羽三関ともいう。
関所
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三関」の意味・わかりやすい解説

三関
さんかん

夷狄(いてき)の侵入から帝都を防衛するために置かれた古代の三つの関所。伊勢(いせ)国(三重県)鈴鹿(すずか)関、美濃(みの)国(岐阜県)不破(ふわ)関、越前(えちぜん)国(福井県)愛発(あらち)関がこれである。鈴鹿関は後の東海道関宿付近、不破関は中山道(なかせんどう)の関ヶ原、愛発関は海津(かいづ)から七里半越により疋田(ひきた)に出るまでの塩津(しおつ)からきた街道との交差点付近にあったと考えられる。646年(大化2)の大化改新の詔(みことのり)に「斥候(うかみ)、防人(さきもり)とともに関塞(せきそこ)(関所)を置け」とあるのによって設けられたものである。708年(和銅1)には三関国守のことが『続日本紀(しょくにほんぎ)』にみえている。平時には国司が警備するが、反乱、譲位、天皇・上皇・皇后の崩御、摂政(せっしょう)・関白の死去に際しては、朝廷は固関使(こげんし)を派遣して固めさせた。789年(延暦8)廃止されてのち、愛発関が逢坂(おうさか)関にかわって三故関といわれた。

[田名網宏]

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百科事典マイペディア 「三関」の意味・わかりやすい解説

三関【さんかん】

古代,畿内から東日本への道に置かれた三つの関。東海道は伊勢(いせ)の鈴鹿(すずか)関,東山道は美濃(みの)の不破(ふわ)関,北陸道は越前(えちぜん)の愛発(あらち)関。畿内防備のためとする説に対し,反乱者の畿内脱出を妨げるためとする説が有力。789年,三関は停廃されたが,その後も非常時には閉鎖が行われた。810年,愛発関に代わって近江(おうみ)に逢坂(おうさか)関を置いた。
→関連項目関東・関西関所

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三関」の意味・わかりやすい解説

三関
さんかん

奈良,平安時代に都を守るため設置された3つの関所。『令義解』に,伊勢の鈴鹿関,美濃の不破関,越前の愛発関 (あらち) がみえるが,平安時代中期,愛発に代り近江の逢坂関が加わった。反乱や譲位,天皇,上皇,皇后の崩御など国家の大事に際しては,特に中央から固関 (こげん) 使 (→固関 ) を派遣して守備した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「三関」の解説

三関
さんげん

伊勢国鈴鹿関(三重県亀山市),美濃国不破(ふわ)関(岐阜県関ケ原町),越前国愛発(あらち)関(福井県敦賀市)の総称。その設置は天智朝と考えられる。東方からの侵入に備えるよりも,中央での反乱が東国に波及するのを防ぐことが主たる機能であり,反乱,天皇の譲位・死亡などに際しては,関を閉じ警固にあたる固関(こげん)が行われた。三関は789年(延暦8)に廃止されたが,以後も固関は存続した。810年(弘仁元)からは愛発関にかわって近江関が入り,ふつうこれは近江国逢坂関(滋賀県大津市)をさすと考えられるが,「二中歴」などは同国勢多関(大津市)を三関の一つとする。

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とっさの日本語便利帳 「三関」の解説

三関

奈良・京都を守るために設置された関所。▽伊勢鈴鹿関(すずかのせき)、美濃不破関(ふわのせき)、越前愛発関(あらちのせき) ※後、愛発関に代わり、近江逢坂関(おうさかのせき)または近江勢多関(せたのせき)
奥羽三関▽勿来関(なこそのせき)、白河関(しらかわのせき)、念珠ケ関(ねずがせき)

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旺文社日本史事典 三訂版 「三関」の解説

三関
さんげん

古代,畿内防衛のために置かれた三つの関所
奈良・平安初期のころ,東海・東山・北陸道の要地に設けられた伊勢鈴鹿・美濃不破 (ふわ) ・越前愛発 (あらち) の3関をいう。平安中期以後,愛発関は衰微し近江の逢坂 (おうさか) 関にかわった。平常は国司が警備。平安末期廃止された。

三関
さんせき

さんげん

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世界大百科事典(旧版)内の三関の言及

【愛発関】より

…近江との国境付近にあり,敦賀市南部の山間部,追分,疋田,道口等に比定されているが不詳。東海道の伊勢国鈴鹿(すずか)関,東山道の美濃国不破(ふわ)関とともに三関の一つ。三関は天皇・太上天皇が没したり反乱の発生等のとき閉鎖され,京における反乱者の東国逃亡の防止をめざした。…

【鈴鹿関】より

…東海道伊勢国に置かれ,古代とくに重視された三関の一つ。三重県鈴鹿郡関町にあったが遺跡は不明。…

【関所】より


[古代]
 646年(大化2)正月のいわゆる〈大化改新詔〉に関塞を置くとあり,672年(天武1)壬申の乱に際し鈴鹿関の名が見えるが,制度として確立したのは律令制下であろう。衛禁律の不法通行に対する処罰規定により,関には(1)三関,(2)摂津関,長門関,(3)その他の関,の3ランクあったことがわかる。(1)は伊勢国鈴鹿(すずか)関,美濃国不破(ふわ)関,越前国愛発(あらち)関(後に近江国逢坂関にかわる)で,最重視され,重大事発生の時に固関(こげん)された。…

【不破関】より

…672年の壬申(じんしん)の乱では,《日本書紀》に〈不破之道〉をふさぐとみえ,臨時的な施設が置かれたと推測される。そして乱後の7世紀末~8世紀初めに恒常的な設備が置かれたが,701年(大宝1)に成立した大宝律令では,伊勢鈴鹿(すずか)・越前愛発(あらち)とともに,律令国家にとって最も重要な三関の一つとして,美濃不破関が設定された。そして美濃国は関国とよばれ,関には検問所とともに土塁・隍(ほり)などの防衛設備が築かれ,現在の関ヶ原町小関(こぜき)には脇路の北国街道を抑える小関が置かれたとみられる。…

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