入る(読み)イル

デジタル大辞泉 「入る」の意味・読み・例文・類語

い・る【入る】

[動ラ五(四)]
人や物がある場所・範囲・状態などに移る。はいる。
㋐外から中に移動する。「道が山あいに―・る」「葷酒くんしゅ山門に―・るを許さず」
㋑移り動いて物の陰に隠れる。太陽や月が沈む。「日が山の端に―・る」
㋒特定の環境に身を移す。「渦中に―・る」「仏門に―・る」
㋓時が進行して、ある時刻・季節になる。「土用に―・る」
㋔心・目・耳などの感覚を通じて対象をとらえる。「目に―・るものすべてが珍しい」
㋕しだいに移ってある状態に達する。ある状態にまで深くはいっていく。「話が佳境に―・る」「悦に―・る」
㋖内部にくぼみ、裂け目が生じる。「茶碗にひびが―・る」
㋗いっぱい含まれる。こもる。「念の―・った仕事ぶり」
動詞の連用形に付いて、その動作や状態の程度が非常に深い、また、その動作に徹したり、その状態にすっかりなってしまったりする意を表す。「ぐっすり寝―・る」「心に染み―・る」「恥じ―・る」「恐れ―・ります」
(「いらせ給ふ」「いらせらる」などの形で)「来る」「行く」「居る」の意を表す。
御輿みこしの―・らせ給ふほどなど」〈大鏡・道長上〉
[動ラ下二]い(入)れる」の文語形
[補説]1は文語的な言い方で、現代語ではふつう「はいる」を用いる。しかし、「気にいる」「堂にいる」「有卦うけにいる」など慣用的な表現の中では現在でも多く用いられる。
[下接句]石をいだきてふちに入る有卦うけに入るえつに入る笑壺えつぼに入る気に入る鬼籍きせきに入るきょうに入る見参げんざんに入るしんに入る大声たいせい里耳りじに入らず手に入る堂に入る堂にのぼしつに入らず念が入る門に入るやまい膏肓こうこうに入る

はい・る〔はひる〕【入る/×這入る】

[動ラ五(四)]
ある区切られた空間の外から中へ移り進む。「映画館に―・る」⇔出る
中に加えられる。「不純物が―・る」「模様の―・った布」
あるものの中にあるものが生じる。「ガラスにひびが―・る」
ある制度に自分から加わる。「保険に―・る」
特定の社会・集団・学校などの一員となる。「大学に―・る」「テニスクラブに―・る」
一定の範囲・容量の中に収まる。「客席いっぱいに―・る」「一リットル―・る瓶」
自分のものになる。「大金が―・る」
気持ちや力などがこもる。「力が―・る」「練習に身が―・る」
利用できるよう設備される。「複写機が―・った」
10 目・耳などで感じとられる。「うわさが耳に―・る」
11 ある時期・地点に至る。「雨期に―・る」「月が山の陰に―・る」
[可能]はいれる
[下接句]穴があったら入りたい木が入る手が入る手が入れば足も入る手に入る・年季が入る・話に実が入るひびが入る身が入る・水が入る・耳に入る目に入る

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「入る」の意味・読み・例文・類語

い・る【入・要】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙
    1. [ 一 ]
      1. 外部から、ある場所、環境などに移る。はいる。
        1. (イ) 外から、ある物の中、ある場所の内へ移動する。また、移動して、その中にある。
          1. [初出の実例]「妹が寝(ぬ)る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ伊里(イリ)て寝まくも」(出典:万葉集(8C後)一四・三五五四)
          2. 「師走の二日京にいる」(出典:更級日記(1059頃))
        2. (ロ) 見える所から、物陰に移動する。その場から退く。奥へ引っ込む。特に、日、月が沈む。また、水中に没する。
          1. [初出の実例]「よひのまにいでて入(いり)ぬるみか月のわれて物思ふころにもあるかな〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇五九)
          2. 「出物(でもの)の舞楽の人体によりて、切拍子などにて入(いる)事あるべし」(出典:三道(1423))
        3. (ハ) 特定の環境の中に移る。宮中、仏門、学校などにはいる。
          1. [初出の実例]「斎宮は、去年(こぞ)内裏にいり給ふべかりしを、さまざまさはる事ありて、この秋入(いり)給ふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
          2. 「一度道に入(いり)て世をいとはん人」(出典:徒然草(1331頃)五八)
      2. ある限られた範囲内に取り込まれる。はいる。
        1. (イ) 仲間になる。含まれる。また、書物に載る。
          1. [初出の実例]「万葉集にいらぬ古き歌」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
          2. 「この文、〈略〉高野大師の御作の目録にいれり」(出典:徒然草(1331頃)一七三)
        2. (ロ) 心、目、耳などの知覚に取り入れられる。また、知覚できる範囲にはいる。
          1. [初出の実例]「何故か思はずあらむ紐の緒の心に入(いり)て恋しきものを」(出典:万葉集(8C後)一二・二九七七)
          2. 「お耳に入(イッ)たらお叱り遊すでござりませうよ」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)三)
        3. (ハ) 物と物、人と人などの間にはいり込む。はさまる。はまる。また、仲介する。
          1. [初出の実例]「茶屋あつかいにいりて、もっはずならばもたせう程に、先おまちやれ」(出典:虎明本狂言・犬山伏(室町末‐近世初))
      3. ある時期、時間になる。はいる。
        1. [初出の実例]「つれづれとあるほどに、彼岸にいりぬれば」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
      4. ある特定の状態、段階、境地などに達する。「技、神にいる」
        1. [初出の実例]「いみじう興にいらせ給へるほどに」(出典:大鏡(12C前)六)
      5. (気持、力などが)みちる。こもる。はいる。
        1. [初出の実例]「そなたざまには心もいらで、この御事のみいとほしくなげかる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
        2. 「見悪(みにく)い程窮屈に力が入(イ)ってゐる」(出典:永日小品(1909)〈夏目漱石〉声)
      6. 内に向かってくぼむ。くい込む。くぼみや裂け目ができる。はいる。
        1. [初出の実例]「海づらはややいりて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
        2. 「右の硝子に裂(ひび)の入(イ)った眼鏡」(出典:二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中)
      7. 付けられる。施される。はいる。
        1. [初出の実例]「金のほそ筋入(イッ)たる、羅紗仕立の股引(ずぼん)」(出典:西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六)
      8. ( 要 ) ある物、事などが要求される。
        1. (イ) (費用、時間、品物などが)必要になる。入用である。
          1. [初出の実例]「うちまきによねいるべし」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
          2. 「ついにゆく道には金もいらじか」(出典:仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)下)
        2. (ロ) ( 否定の表現を伴って ) 特に問題にしなくてもよい。
          1. [初出の実例]「物を知事、吾に勝れたらば歳の老少は入まいぞ」(出典:古文真宝笑雲抄(1525)二)
      9. ( 「いらせ給ふ」の形で ) 「ある」「居る」「来る」「行く」などの尊敬語。→いらしむ
        1. [初出の実例]「宇治の御幸ありて皇后宮ひきつづきていらせ給ひし」(出典:今鏡(1170)四)
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いられる。動詞の連用形に付く。
      1. すっかりそうなる、ほとんどそうなる意を表わす。「死に入る」「消え入る」「絶え入る」「寝入る」「冷え入る」など。
      2. せつに、深くそうする意を表わす。「思い入る」「念じ入る」「泣き入る」「恐れ入る」「痛み入る」など。
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ラ行下二段活用 〙いれる(入)

はい・るはひる【入・這入】

  1. 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙 ( 「はひいる(這入)」の変化した語 )
  2. 外部から、ある場所や環境などに移る。
    1. (イ) 外から、ある物の中やある場所の内へ移動する。また、移動して、その中にいる。
      1. [初出の実例]「片山のやぶのなかにはいり、あをのけにふし」(出典:平家物語(13C前)五)
    2. (ロ) 見える所から物かげに移動する。奥へひっこむ。日、月が沈むのにもいう。「日が西の山にはいる」
      1. [初出の実例]「ト大橋、伝兵衛、廓の者皆々這入る」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)口明)
    3. (ハ) 学校、会社など、特定の環境の中の一員になる。
      1. [初出の実例]「卒業して大学院へ這入って空間論と云ふ題目で研究して居たが」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三)
  3. ある限られた範囲内に取り込まれる。
    1. (イ) ある物の中に収まる。含まれる。また、つめこんだり、収容したりすることができる。「庶民の口にはいる」
      1. [初出の実例]「『ありゃあおめへ四合へへりやすぜへ』『そふはへへるめへ』」(出典:洒落本・世説新語茶(1776‐77か)粋事)
      2. 「非常に聴衆が入場(ハイ)ったナ」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉労働問題)
    2. (ロ) 新たにつけ加わる。割って入りこむ。また、仲間になる。
      1. [初出の実例]「三ケ月毎の書替の手数料と、利子が其儘に元金の中へ加入(ハイ)っていくから」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉六)
    3. (ハ) 金品や知らせなどが、手元に届けられる。「他社の情報が手にはいる」
      1. [初出の実例]「不時の金でも入(ハヒ)れば女房に卵甲の櫛一枚買ふて遣るよりは」(出典:新浦島(1895)〈幸田露伴〉七)
    4. (ニ) 心、目、耳などの知覚に取り入れられる。「頭にはいる」「目にはいる」
      1. [初出の実例]「僕等のいふ事は迚(とて)も、足下の耳にははいるまいけれど」(出典:交易問答(1869)〈加藤弘之〉上)
  4. 次第にある状態、時期などに達する。「夜にはいる」「明治時代にはいる」
    1. [初出の実例]「電気を消して寝る体勢に入ったが、なかなか眠れないでいる」(出典:蟹(1959)〈庄野潤三〉)
  5. 気持や力などがこもる。「力がはいる」「勉強に身がはいる」
  6. 物に傷、ひび、裂け目などができる。
    1. [初出の実例]「ヒビのはひった赤銅縁の眼鏡」(出典:苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉四)
  7. 付けられる。施される。「罫のはいったノート」「模様のはいった封筒」
    1. [初出の実例]「洋燈には、今しも火が点(ハヒ)った処である」(出典:はやり唄(1902)〈小杉天外〉一二)
  8. 湯を加えたりして飲物ができる。
    1. [初出の実例]「サア茶がはいったヨ」(出典:人情本・春色辰巳園(1833‐35)後)
  9. 剣道などで、技が決まる。
    1. [初出の実例]「素人の自分には、剣道の試合などは分るものでない。どちらの面がは入ったのか、どちらの小手がは入ったのか」(出典:天覧試合陪観記(1934)〈菊池寛〉)

入るの語誌

( 1 )名詞形「はひいり」「はいり」は中古から例があり、動詞「はひいる」から生じたと考えられる。
( 2 )動詞「はいる」の初期の例は「這う」の意が強く、挙例平家」も、覚一本では「はいり」であるが、百二十句本では「這(ハイ)入て」とあり、「這う」の意が薄れた後でも(ロ)の「幼稚子敵討」にも「這入る」の表記が用いられている。
( 3 )自動詞「はいる」に対する他動詞形は下二段動詞「いる(いれる)」である。

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