叩く(読み)タタク

デジタル大辞泉 「叩く」の意味・読み・例文・類語

たた・く【×叩く/×敲く】

[動カ五(四)]

㋐手や道具を用いて打つ。また、続けて、あるいは何度も打つ。「ハエを―・く」「肩を―・く」
㋑打って音を出す。「手を―・いて呼ぶ」「太鼓を―・く」
㋒強く打つ。なぐる。ぶつ。「棒で―・く」「尻を―・く」
㋓さかんに当たる。雨・風が打ちつける。「窓を―・く雨」
魚肉を包丁で打つようにして細かく切ったり柔らかくしたりする。「アジを―・く」

㋐攻撃を加えて相手を負かす。やっつける。「敵の精鋭を―・く」「出はなを―・く」
㋑厳しく仕込む。鍛える。「新弟子のうちに―・いておく」
㋒相手の言論・文章などを徹底的に批判する。強く非難する。「新聞に―・かれる」
相手の考えを聞いたり、ようすを探ったりする。打診する。「先方の意向を―・く」
値段をまけさせる。値切る。買いたたく。「二束三文に―・いて買う」
すっかり使ってしまう。はたく。「財布の底を―・く」
(多く「…口をたたく」の形で)さかんに、またいろいろに言う。「むだ口を―・く」「陰口を―・く」
(「門をたたく」などの形で)教えを請うためにたずねる。「師の門を―・く」
扇子などで演台をたたくところから》講談を演じる。「一席―・く」
10 将棋で、を打ち捨てる。
11 《鳴き声が戸をたたく音に似ているところから》クイナが鳴く。
「早苗とるころ、水鶏くひなの―・くなど」〈徒然・一九〉
打つ[用法]
[可能]たたける
[下接句]おとがいを叩く口を叩くしりを叩く底を叩く太鼓を叩く出端ではなを叩く門を叩く
[類語]打つ殴るぶつ小突くひっぱたく叩きのめす打ち据えるぶん殴る殴り飛ばす殴りつける張る食らわす噛ますぶち噛ますぶっ叩く張り飛ばす張り倒すぶちのめすぶっ潰す殴打する

はた・く【×叩く】

[動カ五(四)]
打ち払う。ほこりなどをたたいて払う。「障子を―・く」
平たいもので打つ。たたく。「ほおを―・く」「布団を―・く」
持っている金を使い尽くす。「財布の底を―・く」
相撲で、はたきこみの技をかける。「―・かれて土俵にはう」
物の表面に、粉などをたたくようにしてつける。「おしろいを―・く」
(興行などで)金銭上の欠損を出す。失敗する。
「―・きさうな芝居なり」〈黄・艶気樺焼
つき砕く。砕いて細かくする。
「枯れたるしきみを抹香に―・かせて」〈浮・新永代蔵〉
[可能]はたける
[類語](1払う払いのける/(2殴る打つ叩くぶつ小突くひっぱたく叩きのめす打ち据えるぶん殴る殴り飛ばす殴りつける張る食らわす噛ますぶち噛ますぶっ叩く張り飛ばす張り倒すぶちのめすぶっ潰す殴打する

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精選版 日本国語大辞典 「叩く」の意味・読み・例文・類語

たた・く【叩・敲】

  1. 〘 他動詞 カ行五(四) 〙
  2. 何度も繰り返して打つ。続けて打つ。→補注。
    1. [初出の実例]「栲綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) そだたき 多々岐(タタキ)まながり」(出典古事記(712)上・歌謡)
    2. 「をのをのたちかへりまいりたまへれば、御あふぎをたたきてわらはせ給に」(出典:大鏡(12C前)五)
  3. (手などを)打ち合わせて音を出す。
    1. [初出の実例]「さるべきことあらんには、つりどのにて手をたたけ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上下)
  4. 強く相手を打つ。なぐる。ぶつ。また、打撃を与える。やっつける。
    1. [初出の実例]「イヌワ ウッテモ tataitemo(タタイテモ) クチゴタエモ セズ」(出典:天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事)
    2. 「フィリッピンの米空軍は立ち上る前に完全に叩かれた」(出典:春の城(1952)〈阿川弘之〉一)
  5. 物を打つようにする。
    1. (イ) 物を打つような動作をする。
      1. [初出の実例]「時に鶺鴒(とつきとり)有りて飛び来りて其の首尾を揺(タタク)(〈別訓〉うこかす、はたらかす)」(出典:日本書紀(720)神代上(兼方本訓))
    2. (ロ) 風や水が物に強くあたる。
      1. [初出の実例]「みむろ山谷にや春の立ぬらん雪の下水岩たたくなり〈源国信〉」(出典:千載和歌集(1187)春上・二)
  6. 戸などを続けて打つような音を出す。水鶏(くいな)の鳴くのにいう。
    1. [初出の実例]「くひなはそこと思ふまでたたく」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    2. 「五月、あやめふく比、早苗とるころ、水鶏のたたくなど、心ぼそからぬかは」(出典:徒然草(1331頃)一九)
  7. ( 多く「口をたたく」の形で ) しゃべる。
    1. [初出の実例]「女はかしましう口をたたく者なり」(出典:玉塵抄(1563)一一)
  8. 相手の考えを聞いてみたり、物事の状態を調べたりする。
    1. [初出の実例]「叩、発動也。叩両端而竭者、言終始本末無尽也」(出典:論語古義(1712)五)
    2. 「一歩を進めて当時の書生の心の底を叩(タタ)いて見れば、自から楽しみがある」(出典:福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉緒方の塾風)
  9. 手きびしく非難する。
    1. [初出の実例]「わるい処をたたいて玉成せうとてぞ」(出典:百丈清規抄(1462)二)
    2. 「剔抉(すっぱぬき)を専門とする新聞で二三度叩かれた事はあるが」(出典:破垣(1901)〈内田魯庵〉二)
  10. スポーツや勝負事で相手を負かす。
  11. 相手方の言う値段や条件などを引き下げさせる。
    1. [初出の実例]「一度に売物に出しては、安値に叩(タタ)かれるし」(出典:真理の春(1930)〈細田民樹〉森井コンツェルン)
  12. 非常に安く売る。たたき売る。
    1. [初出の実例]「弟めは捻殺(ねぢころ)し、姉めは胴がらをたたく分ん別」(出典:浄瑠璃・花襷会稽褐布染(1774)七)
  13. すっかり使い果たす。「底をたたく」
  14. きびしく仕込む。たたきあげる。たたきこむ。
  15. ( 「手をたたく」から ) 売買が成立することをいう、酒問屋仲間の語。
    1. [初出の実例]「ちっともいくやつは鍋町かすじけへか来たら門前にたたかふとおもひやす〈もんぜんとはたたきばなしにうるといふこと たたかふとは手をたたかふといふ事〈略〉〉」(出典:洒落本・仕懸文庫(1791)二)
  16. ( 太鼓をたたくところから ) 芝居などを興行する。また、巡業する。比喩的に、つくりごとを言ったりしてだましすかすことをもいう。
    1. [初出の実例]「春狂言が大あたりで、半年の余も曾我をたたいた」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下)
  17. ( 「太鼓をたたく」から ) 他人の言うことに調子を合わせておべっかを言う。
    1. [初出の実例]「なある程こりゃ奇絶ですね〈略〉此儘にして置くのはと野だは大にたたく」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉五)
  18. 神仏を深く信仰する。心底から祈願する。
    1. [初出の実例]「叩千社躍、捧百幣走」(出典:新猿楽記(1061‐65頃))
  19. 将棋で、歩の手筋の一つ。駒の利きをかえたり駒組みを乱すために直接相手陣の駒の頭に歩を打つ。
  20. 性交する。
    1. [初出の実例]「見るはほうらくたたくには五十もん」(出典:雑俳・川柳評万句合‐安永七(1778)松四)
  21. 脅迫したり、強盗・窃盗を行なったりすることをいう、盗人仲間の隠語。
    1. [初出の実例]「俺を何かタタク(おどかす)気か」(出典:いやな感じ(1960‐63)〈高見順〉三)

叩くの補助注記

の「古事記」の例は、「ただく」と読んで「手で抱く」の意とする説もある。


はた・く【叩・砕】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 カ行五(四) 〙
    1. (つ)く。砕く。搗き砕く。砕いて粉末にする。粉にする。〔運歩色葉(1548)〕
      1. [初出の実例]「毎日薬はたかせ申事、はたき申者は御足軽衆之内年寄」(出典:上杉家文書‐(年月日未詳)(江戸)鉄砲一巻之事)
    2. うち払う。払いのける。ごみやほこりをたたいて落とす。
      1. [初出の実例]「敷ぶとんで銭箱の上をはたきながらすはる」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前)
    3. たたく。平たいもので打つ。なぐる。
      1. [初出の実例]「空に飛び交ふ赤蜻蜓を撲(ハタ)いて取らうと」(出典:五重塔(1891‐92)〈幸田露伴〉三)
    4. すっかりなくしてしまう。財産、持ち金、知恵などを使い尽くす。払い尽くす。
      1. [初出の実例]「大の字で食(めし)を五人前づつはたきまするといふたが」(出典:滑稽本・和荘兵衛後篇(1779)二)
    5. 身に受ける。蒙る。
      1. [初出の実例]「衆人の中にて強恥はたくよ」(出典:踊之著慕駒連(1854‐61頃))
    6. しくじる。失敗する。やりそこなう。損する。また、不評を蒙る。
      1. [初出の実例]「我場に成て胸だくだく、どうぞはたかねばよいがと思ふ心を」(出典:浮世草子・当世芝居気質(1777)一)
    7. 値切る。値段を安くさせる。まけさせる。
    8. 口に出す。吐く。ほざく。ぬかす。
      1. [初出の実例]「いいかげんに口をはたきやァがれ」(出典:洒落本・まわし枕(1789))
    9. 相撲で、相手の首や肩を上からたたいて前に倒す技をかける。
      1. [初出の実例]「突勝って進む鼻を、駒ははたいたが、太刀はよく残してつけ入り」(出典:相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉常陸、梅の爛熟時代)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 (手や足を)のばしたりひろげたりする。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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