叩・敲(読み)たたく

精選版 日本国語大辞典 「叩・敲」の意味・読み・例文・類語

たた・く【叩・敲】

〘他カ五(四)〙
① 何度も繰り返して打つ。続けて打つ。→補注
古事記(712)上・歌謡「栲綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) そだたき 多々岐(タタキ)まながり」
※大鏡(12C前)五「をのをのたちかへりまいりたまへれば、御あふぎをたたきてわらはせ給に」
② (手などを)打ち合わせて音を出す。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「さるべきことあらんには、つりどのにて手をたたけ」
③ 強く相手を打つ。なぐる。ぶつ。また、打撃を与える。やっつける。
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「イヌワ ウッテモ tataitemo(タタイテモ) クチゴタエモ セズ」
※春の城(1952)〈阿川弘之〉一「フィリッピンの米空軍は立ち上る前に完全に叩かれた」
④ 物を打つようにする。
(イ) 物を打つような動作をする。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「時に鶺鴒(とつきとり)有りて飛び来りて其の首尾を揺(タタク)(〈別訓〉うこかす、はたらかす)」
(ロ) 風や水が物に強くあたる。
※千載(1187)春上・二「みむろ山谷にや春の立ぬらん雪の下水岩たたくなり〈源国信〉」
⑤ 戸などを続けて打つような音を出す。水鶏(くいな)の鳴くのにいう。
蜻蛉(974頃)中「くひなはそこと思ふまでたたく」
徒然草(1331頃)一九「五月、あやめふく比、早苗とるころ、水鶏のたたくなど、心ぼそからぬかは」
⑥ (多く「口をたたく」の形で) しゃべる。
※玉塵抄(1563)一一「女はかしましう口をたたく者なり」
⑦ 相手の考えを聞いてみたり、物事の状態を調べたりする。
※論語古義(1712)五「叩、発動也。叩両端而竭者、言終始本末無尽也」
福翁自伝(1899)〈福沢諭吉緒方の塾風「一歩を進めて当時の書生の心の底を叩(タタ)いて見れば、自から楽しみがある」
⑧ 手きびしく非難する。
※百丈清規抄(1462)二「わるい処をたたいて玉成せうとてぞ」
※破垣(1901)〈内田魯庵〉二「剔抉(すっぱぬき)を専門とする新聞で二三度叩かれた事はあるが」
⑨ スポーツや勝負事で相手を負かす。
相手方の言う値段や条件などを引き下げさせる。
真理の春(1930)〈細田民樹〉森井コンツェルン「一度に売物に出しては、安値に叩(タタ)かれるし」
⑪ 非常に安く売る。たたき売る。
浄瑠璃・花襷会稽褐布染(1774)七「弟めは捻殺(ねぢころ)し、姉めは胴がらをたたく分ん別」
⑫ すっかり使い果たす。「底をたたく」
⑬ きびしく仕込む。たたきあげる。たたきこむ。
⑭ (「手をたたく」から) 売買が成立することをいう、酒問屋仲間の語。
洒落本・仕懸文庫(1791)二「ちっともいくやつは鍋町かすじけへか来たら門前にたたかふとおもひやす〈もんぜんとはたたきばなしにうるといふこと たたかふとは手をたたかふといふ事〈略〉〉」
⑮ (太鼓をたたくところから) 芝居などを興行する。また、巡業する。比喩的に、つくりごとを言ったりしてだましすかすことをもいう。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下「春狂言が大あたりで、半年の余も曾我をたたいた」
⑯ (「太鼓をたたく」から) 他人の言うことに調子を合わせておべっかを言う。
坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉五「なある程こりゃ奇絶ですね〈略〉此儘にして置くのはと野だは大にたたく」
神仏を深く信仰する。心底から祈願する。
※新猿楽記(1061‐65頃)「叩千社躍、捧百幣走」
将棋で、歩の手筋の一つ。駒の利きをかえたり駒組みを乱すために直接相手陣の駒の頭に歩を打つ。
⑲ 性交する。
※雑俳・川柳評万句合‐安永七(1778)松四「見るはほうらくたたくには五十もん」
⑳ 脅迫したり、強盗・窃盗を行なったりすることをいう、盗人仲間の隠語。
※いやな感じ(1960‐63)〈高見順〉三「俺を何かタタク(おどかす)気か」
[補注]①の「古事記」の例は、「ただく」と読んで「手で抱く」の意とする説もある。

たたき【叩・敲】

〘名〙 (動詞「たたく(叩)」の連用形の名詞化)
① (敲) 江戸時代の刑罰の一種。罪人の肩、背、尻を鞭で打つもの。軽・重の二種があり、江戸では牢屋同心が小伝馬町の牢屋の門前で執行した。八代将軍吉宗の時代から行なわれた。
※禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・一〇三・享保五年(1720)「一、敲 数五十敲、重きは百敲」
② 料理で、魚・鳥肉を包丁で細かく叩くこと。また、その料理。〔新撰類聚往来(1492‐1521頃)〕
※雑俳・若とくさ(1790)「これもよい・叩きで喰はす秋鰹」
③ 「たたきの与次郎」のこと。また、そのうたう歌。
※歌謡・淋敷座之慰(1676)目録「吉原太夫浮世たたき〈略〉吉原太夫紋尽しのたたき」
④ ③の拍子をとり入れた、浄瑠璃のふし。
※浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)三「しげる竹切て、タタキ(かき)上のする笹の葉は、亡(なき)魂おくる輿車」
⑤ (腰をたたいて出すところからという) 腰にさげて携帯するもの。印籠(いんろう)など。腰さげ。
※虎寛本狂言・膏薬煉(室町末‐近世初)「腰成るたたきより膏薬を透頂香種取出し」
⑥ 石の面を突いて細かい突きあとをつけたものをいう、石工仲間の語。
⑦ 漆塗りで、細かいしわを寄せたものをいう、漆工仲間の語。
⑧ (「たたきつち(叩土)」の略。「三和土」とも書く) 赤土、石灰、砂利などににがりをまぜ、水でねってたたき固めること。また、そうして作った土間。現代ではセメントで固めた所もいう。
※松屋会記‐久好茶会記・慶長元年(1596)三月八日「路地 たたき 路地也」
⑨ なめし革で扇子の形に作ったもの。落語家や講釈師などが、たたいて拍子を取るのに用いる。
⑩ 落語や講釈で、前座に出る未熟な者をいう。
⑫ 強盗をいう、盗人仲間の隠語。〔隠語輯覧(1915)〕
※浅草(1931)〈サトウハチロー〉留置場の幽霊「『たたきらしい。〆(しめ)た』政戸は、小声でかう言った。強盗がつかまったのだ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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