在・坐(読み)ます

精選版 日本国語大辞典 「在・坐」の意味・読み・例文・類語

ま・す【在・坐】

[1] 〘自サ四〙
[一]
① 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬う。いらっしゃる。おられる。
万葉(8C後)三・二四三「大君は千歳に麻佐(マサ)白雲三船の山に絶ゆる日あらめや」
源氏(1001‐14頃)明石「海にます神の助けにかからずば潮のやほあひにさすらへなまし」
② 特に、この世にいる、生存する意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
古今(905‐914)哀傷・八五二「君まさで煙絶えにし塩釜のうらさびしくも見えわたるかな〈紀貫之〉」
③ 「行く」「来る」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
※万葉(8C後)一七・三九九六「我が背子が国へ麻之(マシ)なばほととぎす鳴かむ五月はさぶしけむかも」
[二] 補助動詞として用いる。他の動詞連用形に付いて、動作の継続の意を添える「(て)ある」「(て)いる」を敬っていう。また、単に、その動詞に尊敬の意を付け加える。…ていらっしゃる。…になる。
書紀(720)推古二〇年正月・歌謡「やすみしし 我が大君の 隠り摩須(マス) 天の八十蔭 出で立たす 御空を見れば」
※万葉(8C後)一五・三七七四「我が背子が帰り来麻佐(マサ)む時の為命残さむ忘れ給ふな」
[2] 〘他サ下二〙 ((一)を下二段に活用させて、使役性の他動詞としたもの) 使役の対象を敬って用いる。いらっしゃるようにさせる。
※書紀(720)顕宗即位前(図書寮本訓)「是に悉くに郡の民を発(おこ)して宮を造る。不日(ひもへす)して権(かり)安置(マセ)奉る」
[語誌](1)上代においては、「います」と同様、対等以上の相手に対する尊敬語として広く用いられた。とくに補助動詞としての用法が多い。
(2)中古になると、「まします」「いでます」のように固定した形で用いられるほかは、和歌などで神を対象とする場合など、多くは、特殊な場合に用いられ、中世には姿を消したと思われる。

まし‐ま・す【在・坐】

〘自サ四〙 (動詞「ます(在)」を重ねたもの) 「ます(在)」よりも敬意が強く、中古では、神仏皇族について用いられることが多い。また、和文体が「おわします」「おわす」を多用するのに対し、これは、漢文訓読体に用いられる傾向がある。
[一]
① 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬う。いらっしゃる。おいでになる。
※書紀(720)仁徳即位前(前田本訓)「天皇幼(いときな)うして聰明(と)く叡智(さかしくマシマス)
② ものなどがあるの意を、その所有主を敬っていう尊敬語。おありになる。おありである。
※書紀(720)雄略四年二月(前田本訓)「是時百姓咸に言さく、徳(いきほひ)(マシマス)天皇(すへらみこと)なり、とまうす」
[二] 補助動詞として用いる。
形容動詞の連用形、または、体言に断定の助動詞「なり」の連用形「に」の付いたもの(さらに、これらに助詞「て」の付くこともある)に付いて、叙述の意を添える「…である」を敬っていう。…でいらっしゃる。
※大和(947‐957頃)二五「宿徳にてましましける大徳のはやう死にけるが室に、松の木の枯れたるを見て」
※山家集(12C後)下「大海の潮干て山になるまでに君は変らぬ君にましませ」
② 動詞の連用形(またはそれに助詞「て」の付いたもの)に付いて、「…てある」「…ている」の意を敬っていう。特に、尊敬の意を強める助動詞「す」「さす」と共に「せまします」「させまします」の形で用いることが多い。…ていらっしゃる。…なさる。
※高野本平家(13C前)四「鳥羽殿には、相国もゆるさず、法皇もおそれさせ在(マシ)ましければ」
[補注]上代語の「おほまします」との関係は明らかでない。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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