大王(尊称)(読み)おおきみ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大王(尊称)」の意味・わかりやすい解説

大王(尊称)
おおきみ

一般には君主に対する尊称であるが、日本古代では天皇号成立以前の尊称として始まり、「だいおう」とも読む。大君とも書かれた。

 大王には大別して3種の内容があり、時期的にも区別しうるようである。第一は、主として5世紀代を中心としたもので、熊本県の江田船山(えたふなやま)古墳出土大刀(たち)銘、埼玉県の稲荷山(いなりやま)古墳出土鉄剣銘、和歌山県の隅田八幡宮(すだはちまんぐう)人物画像鏡銘にみられる。これらの銘文は日本風の発音をすべて字音仮名づかいで記しており、大王は「だいおう」と読むのが妥当。これらの大王は、当時の全国各地に吉備(きび)、毛野(けぬ)などの自立的政治権力が存在し、それぞれに王がいたと考えられることから、それらの王のなかで最高の権威と権力をもつという意味でヤマト政権の王の称号として用いられた。

 第二は、主として6世紀代を中心に、大后=おおきさき=皇后、大兄=おおえ=皇太子の称号とともに用いられたもので、この場合は「おおきみ」と読まれたと考えられる。この大王は単なる称号以上の意味をもつ。6世紀中葉ごろからヤマト政権は全国的支配のための原始的な官僚組織や統治機構(伴造(とものみやつこ)、国造(くにのみやつこ)、屯倉(みやけ)、部(べ)制など)を整えつつあり、大王はそうした専制国家の君主の地位を意味し、宮廷内の第一夫人が大后、次期の大王位継承資格をもつものが大兄という地位称呼をもつことと対応する。

 第三は、天皇号の成立以後の伝統的意味をこめた尊称としてのもので「大君」(おおきみ)と書かれる場合が多い。天皇号の成立時期については、7世紀初頭の推古(すいこ)朝とするのが通説であるが、天武(てんむ)・持統(じとう)朝とみる説もある。『日本書紀』舒明(じょめい)天皇即位前紀、同元年正月条に群臣の言を記す文章のなかに大王の語がみえる。天皇を大王または大君と記す事例は『万葉集』に数多くみられ、このほか『上宮聖徳法王帝説(じょうぐうしょうとくほうおうていせつ)』『元興寺伽藍縁起并流記資財帳(がんごうじがらんえんぎならびにるきしざいちょう)』にもある。律令(りつりょう)制では2~5世の皇親を王、女王と称するが、『日本書紀』の古訓などでは「おおきみ」と読む例が多い。

吉田 晶]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android