ある事を企画・発起して,その事案の実行を上位者に願い出,許可を請う文書をいう。もともとは起請文とは区別して用うべき文書名であるが,後にはこの両者は混同して用いられるようになり,起請が単に起請文の省略として用いられたり,誓約の行為そのものを指して使われている場合も多い。古文書学でいう起請の古い例としては《続日本後紀》や《三代実録》などに見え,9世紀ごろ大宰府などから中央に政策等の実行を申請した内容のものが多く,また,《本朝文粋》には兼明親王が小倉山に作ろうとした山荘について,そこでの生活の抱負をのべた10世紀後半の文章が〈山亭起請〉として収められている。しかし,これらより新しい,実物が現存する起請は,ほぼすべてが寺院の制式・規範等を定めたもので,上位者の許可を求めるという性格の文書ではない。しいていえば,仏・神・祖師の証明にもとづいて,制式を作成したという点に,従来の起請との関係を求めることができようが,むしろこうした性格の起請は,後代の置文や寺僧等の連署起請文の先駆形態であると考えた方がよいであろう。有名な,元暦2年(1185)正月に文覚が神護寺興隆のためにたてた〈四十五箇条起請〉がその例である。なお,この文覚の起請もその一例だが,ほかにも起請には手印を押した例が多く,これは作成者の強い意志の表白と理解されている。
→起請文
執筆者:千々和 到
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…寺社は宗教的領主であるから,宗教教団護持の法と所領支配の法とが混在する。一寺一社の規模では,宗祖や所領支配開始者の設定する起請・規式などが成文法の中心となる。970年(天禄1)の天台座主良源の起請,1185年(文治1)の神護寺文覚の起請などがその例である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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