復活(トルストイの小説)(読み)ふっかつ(英語表記)Воскресение/Voskresenie

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

復活(トルストイの小説)
ふっかつ
Воскресение/Voskresenie

ロシアの作家レフ・トルストイの長編小説。1899年刊。巨大な歴史小説『戦争と平和』、19世紀末の愛と生の情念を描く『アンナ・カレーニナ』とともに彼の三大作品と称される。

 女囚マースロワの裁判に陪審員として臨席したネフリュードフ公爵は、裁きを受けるべき目の前の被告が、彼が青年時代に情欲のままに犯した小間使カチューシャであることを知り、驚きと悔恨に良心を責められる。彼女は妊娠を理由に彼の伯父の邸(やしき)を追われ、娼婦(しょうふ)に身を落とし、ある商人を毒殺したという科(とが)で法廷に引き出されていた。裁決が下り、無実でありながら手続の誤りで彼女はシベリア流刑となるが、ネフリュードフは不幸をもたらした罪を償うために彼女との結婚を決意し、後を追う。シベリアへの途次、彼はなにくれとなく彼女を保護し、刑事犯の組から政治犯の組へ組み入れて労働を軽減させるなどするが、その政治犯のなかにいた1人の若者シモンソンから彼女との結婚を知らされ、新たな悩みに思い苦しむ。しかし、実はこの結婚には、カチューシャがネフリュードフの将来を思い、心では彼を愛しながらも、やむをえず別れる、という事情の介在があった。そして、ある一夜、ネフリュードフは宿屋聖書を開き、福音書(ふくいんしょ)のなかに自らの更生道しるべをみいだす。

 円熟したみごとな心理描写、当時の社会組織や法律の不備を鋭くえぐる筆致、70歳を過ぎてもなおトルストイが偉大な作家であることの特質をよく示すこの作品は、知人コーニから聞いた話を骨子として書かれたので、初めは「コーニの手記」と題されていた。なお、作者は作品中でギリシア正教を批判したことが遠因となって、1901年宗務省から破門された。日本では1914年(大正3)に島村抱月(ほうげつ)の芸術座で上演されて以来、広く『カチューシャ物語』の名で知られている。

中村 融]

『『復活』(中村白葉訳・岩波文庫/原久一郎訳・新潮文庫/米川正夫訳・角川文庫)』

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