デジタル大辞泉 「肝」の意味・読み・例文・類語
きも【肝/▽胆】
2 内臓の総称。五臓
3 胆力。気力。精神力。「―の太い人」
4 物事の重要な点。急所。「話の―」
5 思慮。くふう。
「あまりに―過ぎてしてけるにこそ」〈沙石集・七〉
[補説]「肝に据えかねる」という言い方について→腹に据えかねる[補説]
[類語](1)はらわた・腑・心胆/(4)大切・重要・
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
一般に広く内臓を指す語。胆とも書く。《万葉集》135歌の中に〈肝向(きもむか)ふ心を痛み〉とあり,〈きもむかう〉は心にかかる枕言葉である。枕言葉として通用しえたのは,当時の内臓についての知識が一般化していた度合を示すものだが,この〈きも〉は肝臓と同一とは言いがたい。胆囊としばしば混同され,他方では心や魂を指す語だったからである。〈肝が太い〉(《宇治拾遺物語》),〈胆に銘ずる〉(《平家物語》),〈肝をくだく〉(《蜻蛉日記》),〈肝をつぶす〉(《太平記》),〈肝を冷やす〉(同)などと言う。〈肝〉の〈干〉は根幹の意で,肝臓は内臓の根幹とされたから,魂もここに宿ると考えられたのである。陰陽道では肝に竜が配置された。《日本書紀》などに言う延夜美(えやみ)は熱性流行性疾患群だが,これに用いられたのが竜胆である。ただし,竜胆はリンドウで,その根は解熱剤でなく健胃剤として用いられる。肝臓が重症の病に効くという話も古くからあり,日本の童話に竜王の嫁の病を猿の生肝(いきぎも)で治すため,クラゲが使いに行くが,猿の生捕りに失敗する話がある。これは《諸経要集》巻十六の〈仏本行経〉にほとんど同じ話があるから,インドに由来するものであるが,インドからチベットや朝鮮に伝播して同工異曲の話として残ってもいる。一方,アフリカのスワヒリ族にも,鮫王の病のために猿の心肝を得ようとするが,連れ出された猿が心肝を樹上に残して来たと言い逃れて助かる話がある。旧約聖書外典《トビト書》に,魚の肝臓をいぶせばいかなる憑物(つきもの)も人から逃げるとある。
肝臓を魂の座とみたのは西欧も同じで,古来動物の肝を食べたのは,その動物と関係する神の力を得るためだった。また欲望や感情の宿る座ともされた。ルクレティウスの《物の本質について》には,肝臓に燃える欲望の燠(おき)を消すという表現が見られ,旧約聖書の《エレミヤ哀歌》には〈わが肝はわが民の娘の滅びのために,地に注ぎ出される〉の句がある。人間に火を与えた罰としてカウカソス山上につながれたプロメテウスが,大ワシに毎日肝臓をついばまれることになったのも,肝と魂との相関があるからである。臆病者の肝臓は血の気がないために白いと考えられた(シェークスピア《十二夜》)。占星術的医学では,感情や欲望を生み出す欲望体が肝臓に位置を占めて大きな中心渦をつくり,この肝臓をユピテル(木星)がおもに支配しているとした。古代中国の医学が五臓(肝心脾肺腎)に五行(木火土金水)を配したように,占星術では日月を含む七遊星を内臓諸器官にふり分けていた。
魂と内臓との関係はプラトンの《ティマイオス》にさかのぼる。これによれば,魂の獣的な部分は理性的なものに注意を払おうとせず,日夜幻想に惑わされるので,神は肝臓をつくってその住いとし,この迷いを防ごうとした。肝臓が厚く滑らかで苦味を含むのはそのためで,魂に発する思考力は,肝臓の中を動いて鏡の中におけるようにみずからを映すという。また肝臓が託宣の臓器とされる理由も述べている。臓器託宣については〈肝臓〉の項を参照されたい。
執筆者:池澤 康郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ギリシア語ではhēparといい,この語幹hēpa‐が肝炎hepatitis,肝臓癌hepatomaなどに用いられている。日本では古くは肝(きも)と呼ばれ,五臓六腑の一つとされる。…
※「肝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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