デジタル大辞泉
「其方」の意味・読み・例文・類語
そ‐ち【×其▽方】
[代]
1 中称の指示代名詞。そちら。そっち。
「御膳を―へこしらえよ」〈露伴・五重塔〉
2 二人称の人代名詞。下位の者に対して用いる。おまえ。なんじ。
「―の事ぢゃが、何事を言ふぞ」〈虎明狂・張蛸〉
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その‐かた【其方】
※
源氏(1001‐14頃)
胡蝶「内の
大殿の君だちは、この君に引かれて、よろづに気色ばみわびありくを、その方のあはれにはあらで、下に心苦しう」
[2] 〘名〙 それ以後。
※大唐西域記長寛元年点(1163)一「茲(こ)れ自り厥後(ソノカタ)、時政虞多し」
[3] 〘代名〙
① 対称。同等以上の
相手をさしていう。あなた。→
そのほう①。
※
御伽草子・岩竹(古典文庫所収)(室町末)上「そのかたの姫ぎみを、きさきにまいらせとのちょくしなり」
② 他称。相手側の、またはすぐ前に話題になった
人物をさし示す(中称)。「そのひと」をさらに敬意をもって呼ぶとき用いる語。
※
吾輩は猫である(1905‐06)〈
夏目漱石〉一〇「其かたの様に御化粧をすれば金田さんの倍位美しくなるでせう」
そ‐な‐た【其方】
〘代名〙
① 他称。相手側に近い方向や、話題にのぼった方向をさし示す(中称)。そちら。
※
多武峰少将物語(10C中)「常にさはがしうおはしますらむにとぶらはせ給ふを喜びてぞ、そなたにも参らまほしきを」
※源氏(1001‐14頃)
鈴虫「北の御障子も取りはなちて、
御簾かけたり。そなたに人々はいれ給」
② 対称。下位の相手、もしくは対等の相手に用いる。「こなた」より相手を低く遇し、「そち」よりは待遇価値が高い。
※発心集(1216頃か)八「そなたには興福寺へいませ、我は〈略〉東大寺へまからんと云て」
[語誌]②は、中世では丁寧な言い方で、同等あるいは目下の者に対して
親愛とごく軽い敬意を表わしたが、近世では敬意を失い、対等もしくは目下に対して用いられた。
そっ‐ち【其方】
〘代名〙 (「そち(其方)」の変化した語)
① 他称。
(イ) 相手側の方角をさし示す(中称)。
※杜詩続翠抄(1439頃)五「此先薤がそっちに多と聞たり」
(ロ) 二つ以上の事物のうち相手側に近い事物をさし示す(中称)。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)初「そっちじゃあねへ。コウ姉さんそっちのをみせな」
② 対称。対等もしくは対等以下の相手をさし示す。
※洒落本・妓者呼子鳥(1777)三「コレそっちのはなしばかりせずと、ちっとこっちへも、はなしをまはしてくれろ」
その‐ほう ‥ハウ【其方】
〘代名〙
① 対称。対等もしくは下位の相手に対し武士・僧侶などが用いる。町人が用いるときは荘重な表現となる。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)九「我死て後位を其の方に伝んと云也」
② 他称。相手側に近い方向をさし示す(中称)。そっち。
※古活字本毛詩抄(17C前)一六「其の方の人が内でめされよ。こなたへ来てをかれ事はいやで候」
③ 他称。相手側の物事、もしくは相手に近い物をさし示す。また、二つあるうちの相手に近い物をさし示す。
※風流線(1903‐04)〈泉鏡花〉四八「其の方がおもしろい〈略〉唯、あんな雲だといって了へば其ッ切です」
そ‐ち【其方】
〘代名〙
① 他称。相手側のいる方向をさし示す(中称)。そっち。そちら。
※万葉(8C後)二・一九九「引き放つ 箭の繁けく 大雪の 乱れて来れ(一云)霰なす 曾知(ソチ)より来れば」
※史記抄(1477)一三「御内は、そちからにげさしめ、我はこちからにげふと云て」
② 対称。中世以降使用された語で、①の転用。多く下位の相手に用い、主として武士・男性が用いた。「そなた」より敬意が低い。
※史記抄(1477)一四「そちがもったる方書を、すっと棄て」
そち‐ら【其方】
〘代名〙
① 他称。
(イ) 相手側の方向・場所や、二つ以上の事物のうち相手側に近い事物をさし示す(中称)。〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕
※狂言記・丼礑(1660)「なぜに又そちらへ行かしゃったぞ」
(ロ) 相手側の、もしくは相手の近くにいる他人をさし示す(中称)。
② 対称。下位の相手をさす。おまえたち。また、おまえ。
※史記抄(1477)一七「そちらが知らうず事ではないぞ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報