一つの文(センテンス)またはある脈絡をもって二つ以上の文の連続したものが,一つの完結体として前後から切り離して取り上げられるとき,これを文章という。文もそれ自体完結したものではあるが,文章の脈絡の中においては,低次の部分をなすにすぎない。長い文章では,いくつかの文が部分的にまとまって段落をなすのが普通で,小さい段落が互いに結合しつつしだいに大きい段落をなして,ついに一つの文章をなす。その各段階の段落も,それ自身文章と見ることもできる。このような低次から最高次の文章へとまとめていく脈絡は,それぞれの段階での主題に導かれて,ついには文章全体としての一つの主題に統括されるわけである。
文章は,広義には話しことばの場合を含むが,狭義にはそれを談話として除外する。表現主体が1人の場合だけでなく,多数が交替して主題を追う場合もある。また,用語の形式がきわめて限定された俳句や和歌などの作品も,一つ一つが文章をなすと考えられる。しかし一般に文章というときは,書きことばで文の長く連続した散文形式のものをさす。これらの文章は,その執筆目的から,特定の相手と交信するための文(書簡文),事実を記録し報道するための文(記事文),知識を秩序だてて保存し解説するための文(解説文),読み手に味わわせ考えさせ行動させるための文(文芸作品や論説文)等に分けられようが,その主題の展開法,段落構造については,書簡文に起筆・問候・本文・結尾・署名・宛名・追伸と列序する書式があるほか,漢詩で起・承・転・結,仏経で序分・正宗分・流通分,また西洋修辞学(レトリック)で序論・説話・証明・結論,また冒頭・本文・結尾などの区分が一般に説かれる。知的な内容の文章にあっては特に,理解を容易にするために,展開の標準形式が定まっていることは必要である。一つの文章を通じての用語上の特質としては,文語体と口語体の別,口語体では特に文末形式によってダ調,デアル調,デスマス調の別を設けるが,一方,作者または流派の個性的な表現上の特色が,文体論の対象として取り上げられる。
なお,文法研究上で従来,文章法,文章論などと呼ばれてきた部門があるが,それはシンタクスにあたり,主として文法上の〈文〉の構造に関するもので,構文論などと呼ぶのがふさわしい。〈文章〉の構造の研究は,従来文法論の範囲では取り上げられなかったが,文法論の一部門とする考え方も現れている。
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
文がいくつか集まり、かつ、まとまった内容を表すもの。内容のうえで前の文と密接な関係をもつと考えられる文は、そのまま続いて書き継がれ、前の文と隔たりが意識されたとき、次の文は行を改めて書かれる。すなわち、段落がつけられるということであり、これは、書き手がまとまった内容を段落ごとにまとめようとするからである。この、一つの段落にまとめられる、いくつかの文の集まりを一文章というが、よりあいまいに、いくつかの文をまとめて取り上げるときにそれを文章と称したり、文と同意義としたりすることもあるなど文章はことばの単位として厳密なものでないことが多い。これに対して、時枝誠記(ときえだもとき)は、文章を語・文と並ぶ文法上の単位として考えるべきことを主張し、表現者が一つの統一体ととらえた、完結した言語表現を文章と定義した。これによれば、一編の小説は一つの文章であり、のちに続編が書き継がれた場合には、この続編をもあわせたものが一つの文章ということになる。俳句、和歌の一句・一首は、いずれも一つの文章であり、これをまとめた句集・歌集は、編纂(へんさん)者の完結した思想があることにおいて、それぞれ一つの文章ということになる。
[山口明穂]
『時枝誠記著『日本文法 口語篇』(1950・岩波書店)』
…日常生活では〈文〉と〈文章〉とをあいまいに使うことが多いが,言語学などでは,英語のsentenceにあたるもの(つまり,文字で書くとすれば句点やピリオド・疑問符・感嘆符で締めくくられるおのおの)を文と呼び,文が(あるいは後述の〈発話〉が)連結して内容のあるまとまりをなしたものを文章(テキスト)と呼んで区別する。文とは何かについては,文法学者の数だけ定義があるといわれるほどで,とりわけ日本の国語学では,ただ定義を論じるのみならず,文の文たるゆえんを問おうとするようないささか哲学的な論議も従来から盛んに行われてきた。…
※「文章」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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