北海道南西部に位置し、後志支庁
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
北海道南西部の半島で,南部は東側の亀田半島,西側の松前半島に分かれる。東側は内浦湾,西側は日本海に面し,南側は津軽海峡を隔てて本州と相対する。一般的には地形的にまとまった黒松内-寿都(すつつ)低地帯以南の突出部で,渡島,檜山2支庁からなる道南と呼ばれる範囲を指すが,ここでは地質学的に違いの見られる石狩地溝帯以南の,石狩,胆振(いぶり)支庁の一部と後志(しりべし),渡島,檜山支庁の全域について述べる。この地域は地質学的には東北地方の延長で,古生層が基盤となり,その上に新第三紀層が重なる。半島の東部には多くの火山が噴出し,余市岳,ニセコ火山群,支笏火山群,有珠(うす)火山群,羊蹄山,駒ヶ岳,横津岳,恵山(えさん)などの火山がある。半島の中央部には遊楽部(ゆうらつぷ)岳,乙部岳,大千軒岳などの渡島山地が走り,その主峰は,古生層を貫いた花コウ岩からなる。平野に乏しく,函館平野のほか天ノ川,厚沢部(あつさぶ)川,利別(としべつ)川(後志),尻別川,岩内川などの流域に小さな沖積平野,俱知安(くつちやん),濁川(森町)に小盆地があるにすぎない。また沿岸には海岸段丘が発達するが,その幅は狭く,農地としてはあまり利用されていない。植物分布からみると,アスナロ,ブナの自然林の北限ともなっており,自然環境全体としては本州北部に類似している。
この半島は本州からの日本人(和人)の移住が道内で最も早かった地域で(記録に残されているものでは室町時代にさかのぼる),当時の移民の集落は現在の函館から江差の沿岸部に限られていた。1600年(慶長5)松前藩の成立後は,アイヌとの交易圏は半島部を越えて道内全域に広がった。道内最初の和人による水稲栽培は,18世紀初めごろに函館平野西部の大野町文月(現,北斗市)で始められたが,平地に乏しいという自然条件に制約されて半島全体としてはあまり農業は発達しなかった。
函館平野では稲作を中心に園芸作物も作られ,一部にはリンゴ園も見られる。八雲,今金,長万部付近では酪農が行われているが,道東,道北に比べてその規模は小さい。俱知安を中心とした地域は畑作が盛んで,ジャガイモ,テンサイなどが作られている。半島の西側は,江戸時代からニシン漁場として開けたが,明治以後は衰退し,さらに近年は近海の水産資源が枯渇して過疎化が進行している。半島の南岸は古くからコンブ漁の盛んな地域で,今日でもコンブ,ワカメの養殖が行われているが,全体として経済的には沈滞している。鉱山資源も北斗市の旧上磯町の石灰岩を除くと,見るべきものはない。明治以後北海道内陸の開発が急速に進められ,鉄道が普及するにつれて半島部は経済的にも文化的にも取り残されていった。さらに航空路の発達によって北海道の玄関口としての函館の重要性も低下したが,半島南端福島町から津軽海峡の海底を掘削している青函トンネルが完成し,88年3月より津軽海峡線も開業したため,道南への経済効果が期待されている。
執筆者:奥平 忠志
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北海道南西部にある半島。寿都(すっつ)町と長万部(おしゃまんべ)町を結ぶ黒松内低地帯(くろまつないていちたい)以南の地域で、南部の津軽海峡に突き出た部分は東側の亀田半島(かめだ)、西側の松前半島に分かれる。東は内浦湾、西は日本海に面する。奥羽山脈の延長部で古生層を基盤とし、その上に緑色凝灰岩の福山層に始まる新第三紀層がのる。黒松内低地帯の東部は火山活動が激しかった所でニセコアンヌプリ、羊蹄山(ようていざん)、駒ヶ岳(こまがたけ)、恵山(えさん)などの火山が多い。半島の大部分が渡島山地で構成され、平地に乏しく、大野川流域の函館平野(はこだてへいや)のほか、厚沢部(あっさぶ)川、後志利別(しりべしとしべつ)川などの河谷沿いに小平野や小盆地が開ける。函館平野の北斗(ほくと)市文月(ふみづき)は道内の稲作発祥の地であるが、現在農業の顕著な発展はみられない。日本海沿岸は江戸時代からニシン漁で栄えた地であるが、現在水産業は不振である。松前藩を中心に道内ではもっとも早く開けた地で、松前町、江差(えさし)町などには史跡が多い。
[瀬川秀良]
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