日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
イオン(ギリシアの伝説)
いおん
Iōn
ギリシアの伝説で、イオニア人に名を与えたとされる人物。アテネ王エレクテウスの娘クレウサは、アポロン神に誘惑されてイオンを生むが、処置に困ってこれを捨て、クストスと結婚する。クストスは、舅(しゅうと)エレクテウスの死後アテネ王となるが、夫婦は子宝に恵まれないため、子が授かるように神託を求めてデルフォイに赴く。神託は、神殿を出て最初に出会う者をわが子とせよというものであったが、その者こそアポロンの計らいで無事成長したイオンであった。ところがクレウサは彼をクストスの隠し子と誤解し、老僕の協力を得てこれを毒殺しようとするが露見し、逆に窮地に陥る。だがここで巫女(みこ)ピティアが介入し、母子の再認が成立して大団円となり、ともにアテネへ戻ってイオンはイオニア人の祖となる。
以上はエウリピデスの劇によって知られている伝承であるが、イオンをクストスの実子とする異伝もあり、そこでもイオンは、紆余(うよ)曲折ののちアテネ王となり、イオニア人の祖となっている。
[丹下和彦]