マイヤー(Julius Robert von Mayer)(読み)まいやー(英語表記)Julius Robert von Mayer

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マイヤー(Julius Robert von Mayer)
まいやー
Julius Robert von Mayer
(1814―1878)

ドイツの医者物理学者エネルギー保存則を最初に着想した一人。ハイルブロンに生まれ、チュービンゲン大学医学部で医学を学ぶが、1837年秘密学生組織に参加したことを理由に大学から追放された。1838年医師国家試験に合格して開業した。1840~1841年オランダ商船船医として熱帯地方に航海し、このときに船員からの採血が、温帯での採血より鮮やかな色をしていることに気づいた。これについて、人体内での酸素の消費によって得られる「力」(当時「力」は「エネルギー」をも意味する幅広い用法をされており、この場合は化学的エネルギーをさす)は、人体から発散する熱と人間の運動によって消費される熱の和であり、熱帯ではそのいずれの熱の消費も少なく、酸素の消費も少ないので血液が鮮やかになる、と考えた。「エネルギー」の転換と保存性を確信したマイヤーは帰国後に物理学数学を学び、5か月目に論文を投稿したが、専門誌から掲載を拒否された。この論文では「エネルギー」にあたる力学的形式を決定できないでいたが、1842年の論文「非生物的自然の諸力について」では、その量が従来から力学で使われていたビス・ビバ(「活力」、現在の運動エネルギー)に相当することを述べ、さらに定積比熱定圧比熱の比から熱の仕事当量を計算してみせた。論文は「原因は結果に等しい」という原則から導出されたような論述であったため、しばしば思弁的・形而上(けいじじょう)学的と評価されるが、それにとどまらない積極性をもっていた。1845年の第三論文では「すべての物理学的・化学的過程において、力は一定に保たれる」とし、ポテンシャル、運動、熱、電気、磁気、化学の各「力」の相互転化を、実験的例をあげ一般的に論じた。

 1850年、大衆紙において彼の先取権に疑問が出され、家族の不幸も重なって自殺を図ったが失敗、1852年以降、各地の病院を転々とし、1878年結核により死去した。

 マイヤーのエネルギー保存則の定式化における貢献については、ジュールとの先取権論争が行われたが、ヘルムホルツは1852年ごろマイヤーの先取権をいち早く認め、クラウジウスはマイヤーの一般的考察を高く評価し、またチンダルはマイヤーの影響を受けた。

[高山 進]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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