アメリカのウイルス学者。カリフォルニア州サクラメント生まれ。1974年カリフォルニア大学デービス校で動物学の学士号を、1981年カリフォルニア工科大学で生化学の博士号を取得した。そのまま同大学で博士研究員を務めた後、1986年ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学医学部の助教授となり、1995年に同大学教授に就任した。2001年ロックフェラー大学教授となり、同年から2018年まで同大学C型肝炎研究センターの所長などを務めた。
当初は動物学に関心があったが、蚊などが媒介するRNA(リボ核酸)ウイルス感染症に興味が移り、カリフォルニア工科大学では黄熱病の原因ウイルス(黄熱ウイルス)のゲノム同定に取り組み、ワクチン開発にも貢献した。ワシントン大学に移った1980年代は、黄熱ウイルスと同じフラビウイルス科で、非A非B型肝炎の原因として注目されていたC型肝炎ウイルス(HCV)の研究にのめりこんだ。当時、アメリカの製薬会社カイロンChiron(現、ノバルティス)にいたマイケル・ホートン(のち、カナダ・アルバータ大学教授)によって、C型肝炎ウイルスのゲノムのクローンが抽出されたと報告されていた。しかし、HCVをチンパンジーに接種しても、肝炎を発症しなかった。実験室でのC型肝炎ウイルスの複製などに取り組んでいたライスは、HCVがチンパンジーの中で増殖しないのは、ウイルス増殖に不可欠な遺伝子が変異したためではないかと予測。ウイルスのゲノム配列の末端の変異しやすい部分を取り除き、その必須部分が入ったウイルスを人工的につくり、チンパンジーの肝臓に注射した。すると肝臓の中で、ウイルスは増殖し、やがてチンパンジーは肝炎症状を呈したと1997年に発表した。これによってC型肝炎ウイルスが単独で肝炎を引き起こすことが証明された。
2001年にロックフェラー大学に移ったライスは、HCVが肝細胞に感染する際に必須となる数種類のタンパク質を発見。このタンパク質を阻害することで、ウイルスの増殖が抑えられることを確認した。これによって画期的な新薬「ハーボニー」(一般名:ソホスブビル・レジパスビル配合剤)が、アメリカ食品医薬品局(FDA)から2013年に承認(日本での承認は2015年)され、多くの生命を救っている。
世界保健機関(WHO)などによると2015年末時点で、世界でC型肝炎ウイルス感染者は約7100万人と推定されるが、HCVの発見で、1990年代に入ると輸血される血液すべてでC型肝炎ウイルスの検査が行われるようになり、新たな感染は激減した。ウイルスの研究が進み次々に新たな治療薬も開発されている。
ライスは、2005年にアメリカ科学アカデミー会員。2015年ロベルト・コッホ賞、2016年にラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞を受賞。2020年「C型肝炎ウイルス発見」の功績で、オルター、ホートンとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
[玉村 治 2021年2月17日]
イギリスの映画監督。チェコスロバキアのオストラバ(現、チェコ東部の都市)に生まれる。12歳のときイギリスに渡る。ケンブリッジ大学を卒業、映画批評に健筆を振るったのち、1956年、リンゼイ・アンダーソンらと、戦前のドキュメンタリー運動の流れをくむ「フリー・シネマ」運動を起こす。劇映画第一作『土曜の夜と日曜の朝』(1960)はアラン・シリトーの長編小説を映画化したもので労働者階級の若者の反骨精神をリアルにとらえた佳作。その後も『裸足(はだし)のイサドラ』(1968)、『フランス軍中尉の女』(1981)など、寡作だが質は高い。
[宮本高晴]
土曜の夜と日曜の朝 Saturday Night and Sunday Morning(1960)
モーガン Morgan : A Suitable Case for Treatment(1966)
裸足のイサドラ Isadora(1968)
熱い賭け The Gambler(1974)
ドッグ・ソルジャー Who'll Stop the Rain(1978)
フランス軍中尉の女 The French Lieutenant's Woman(1981)
ジェシカ・ラングのスウィート・ドリーム Sweet Dreams(1985)
もうひとつのラブストーリー Everybody Wins(1990)
アメリカの政治学者、政治家。11月14日、アメリカ南部アラバマ州バーミングハムで生まれる。父は大学理事、母は音楽教師。比較的裕福な家庭で育つが、黒人ゆえの差別も体験する。学業は優秀で、15歳で大学に進んで政治学を学び、19歳でデンバー大学を卒業。1981年からスタンフォード大学政治学教授となる。1986年にはロシア政治の専門家としてアメリカ外交問題評議会の国際問題研究員となり、1989年から1991年までの冷戦崩壊の時期には、国家安全保障会議ソ連・東欧担当部長、後に同上級部長を務める。
その後、スタンフォード大学での学究生活に戻ったが、共和党大統領候補になったブッシュの外交顧問になり、ブッシュ当選後の2001年1月には大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に就任した。妥協を嫌う強硬派として知られ、アフガニスタン戦争、イラク戦争などの「テロとの戦い」を積極的に推進した。ブッシュ再選後の2005年1月には国務長官に就任、大統領の側近中の側近としてアメリカ外交への影響力をいっそう強めた。2009年ブッシュ大統領の任期満了に伴い、国務長官を退任。
[土生修一]
アメリカの劇作家。ニューヨーク市出身。夜学で学び弁護士資格を得るが、文筆に専念、映画のフラッシュ・バック手法をいち早く用いた『公判』(1914)で注目される。その後しばらくアマチュア演劇の制作、演出などに関与。表現主義的幻想により機械文明を風刺した『計算器』(1923)、庶民の群れを安アパートを舞台に写実した『街の風景』(1929。ピュリッツァー賞受賞)が形式的実験と社会的主張が合致して好評を得る。以後は幻想的作品『夢みる乙女』(1945)以外は不振で、アメリカ近代劇の確立発展期にもっとも長く関与した作家として、芸術性と興行性のジレンマに悩んだ。50を超える長短の戯曲のほか、小説4編と自伝1編がある。
[森 康尚]
『杉木喬訳『街の風景』(1936/改定・1939・健文社)』▽『中川龍一訳『夢みる乙女』(『現代アメリカ文学叢書』1951・早川書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ドイツの技術者。電話の発明者として知られる。ゲルンハウゼンでパン屋の子として生まれ,幼くして孤児となった。フリードリヒスドルフのガルニエル学校とフランクフルト・アム・マインのハッセル学校で学んだあと,職人修業をした。ガルニエル学校の教師となり,自宅で電気の実験をした。1860年に電話を発明し,翌年フランクフルト・アム・マインの物理協会で電話機を実演した。ライスの電話では,送話器は人間の耳を模擬して,振動膜にとりつけた白金線が音によって動いて電気回路の接触状態を変えるようになっていた。受話器はコイルの中で編棒が振動するようになっていた。ライスは,彼の電話を〈テレフォン〉と名づけた。ライスの電話はヨーロッパ各地で紹介されたけれども,その重要さは十分には認められず,彼は失意のうちに死んだ。これには,当時ドイツでもっとも権威があった学術誌《物理化学年報》の編集者ポッゲンドルフJ.C.Poggendorffがライスの研究報告掲載を拒否したことも影響している。ライスの死後にアメリカのA.G.ベルが,別個に電話を発明し実用化した。
執筆者:高橋 雄造
アメリカの劇作家。夜学で法律を学び,弁護士資格を取得したが,劇作と演出に転じた。処女作《公判》(1914)では映画のフラッシュバックの手法を応用して注目され,《計算器》(1923)では人間のロボット化を表現主義的手法で風刺して評判になった。代表作《街の風景》(1929)はニューヨークの場末のアパートに住む貧しい人々の悲劇を自然主義的に描いたもの。後期の作では空想的な女性の意識の流れを追った《夢見る乙女》(1945)がおもしろい。《大旅行》(1951),《勝利者》(1954),《熱情への糸口》(1958),《廃虚の恋》(1963)などの最後の作品群の中には代表作となるような成功作は見あたらない。劇壇の指導者としても功労があった。
執筆者:西田 実
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(紺野哲也)
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…例えば電信機は1829年にロシアのシリングP.L.B.Schilling(1786~1837)により実現されており,静止画像を伝送するファクシミリの原形は43年にイギリスのベインAlexander Bain(1810‐77)が発明し,基礎的な実験も行われていた。電話についてはその原理を54年にベルギーのブールサールCharles Bourseul(1829‐1912)が提案し,61年にはドイツのライスJohann Phillip Reis(1834‐74)が実験を行っている。
[電信の始まり]
電気通信の実用化は電信から始まっている。…
…例えば電信機は1829年にロシアのシリングP.L.B.Schilling(1786~1837)により実現されており,静止画像を伝送するファクシミリの原形は43年にイギリスのベインAlexander Bain(1810‐77)が発明し,基礎的な実験も行われていた。電話についてはその原理を54年にベルギーのブールサールCharles Bourseul(1829‐1912)が提案し,61年にはドイツのライスJohann Phillip Reis(1834‐74)が実験を行っている。
[電信の始まり]
電気通信の実用化は電信から始まっている。…
※「ライス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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