合宿の意味を少し広げて考えると,若者宿や娘宿の慣習,寄宿舎や寮,あるいは塾の伝統なども含まれることになろうが,今日〈合宿〉といえば,訓練,教育,研究など特定の目的を効果的に達成するために,複数の人々が比較的短い一定期間,泊まりこんで起居を共にしながら行う集団的活動を意味する。この意味で合宿は,もともと学生スポーツ界の用語として使われはじめ,明治末から大正期にかけて広く定着していったものと思われる。現在では,オリンピックをはじめとする各種のスポーツ大会のための強化合宿,プロ野球のキャンプ,大学のゼミ合宿,共同研究合宿,企業や官庁や宗教団体の研修合宿等々,さまざまの領域で合宿という方式が用いられるようになり,合宿の内容や機能も多様化している。
合宿の本来の機能は,訓練,教育,研究などの活動を集中的,組織的に行うことによって,その達成効果を高める点にあるが,同時に,参加メンバーの間の心理的連帯感を強めるという働きも大きい。もちろん,〈連帯〉効果が間接的に〈達成〉効果を助長する場合が多いが,ときには〈達成〉効果以上に,あるいはそれとは独立に,連帯感の形成や強化が重視される場合もある。合宿はまた,一定期間にわたって参加者の生活を全面的に統制できるという面をもっているので,人間管理の手段として,さらには一種の〈洗脳〉の手段としても機能しうる。たとえば企業の新入社員研修合宿や宗教・思想団体の研修合宿などには,このような側面が強くあらわれている。戦前の学生スポーツ界における合宿,さらには若者宿や寄宿舎の伝統にまでさかのぼって考えれば,合宿にはもともと参加者の〈自治〉の要素が含まれていたといえるが,現代の合宿においては,この要素は衰退し,むしろ上からの〈管理〉〈統制〉の要素が強くなってきている。これは,企業や官庁などの研修合宿のみならず,スポーツ界の強化合宿などにも当てはまる一般的傾向であるといえよう。
執筆者:井上 俊
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