握る(読み)ニギル

デジタル大辞泉 「握る」の意味・読み・例文・類語

にぎ・る【握る】

[動ラ五(四)]
手の指全部を内側へ曲げる。また、そのようにして、物をつかんだり、持ったりする。「こぶしを―・る」「ペンを―・る」「車のハンドルを―・る」
物事をとらえて自分のものとする。手中に収める。「実権を―・る」「政権を―・る」「大金を―・る」
重要な事柄を確実につかむ。「相手の弱みを―・る」「秘密を―・る」「証拠を―・る」
握り飯握りずしを作る。「好みのねたを―・ってもらう」
ゴルフなどの勝負事で、金品を賭ける。
つか[用法]
[可能]にぎれる
[下接句]キャスティングボートを握る・采柄さいづかを握る財布のひもを握る手に汗を握る手を握る
[類語](1つか持つ携える捧げる捧げ持つ手にする把持する把握する捕まえる/(2押さえる制する掌握する確保する保持する独占する占有する支配する手中に収める・我が物にする・統治君臨制覇制圧征服圧伏管理管轄統轄統御統率宰領さいりょう監督統制取り締まり独裁専制治世べる領する牛耳ぎゅうじ

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精選版 日本国語大辞典 「握る」の意味・読み・例文・類語

にぎ・る【握】

  1. 〘 他動詞 ラ行五(四) 〙
  2. 手の五本の指を内に曲げる。また、指を曲げて固くものを締め持つ。
    1. [初出の実例]「御狩(みかり)(ひとの)門に入隠れて乞(ものこ)ふ者の過(す)ぐるを待ちて手を捲(ニギル)遙に撃(うつまね)す」(出典:日本書紀(720)継体二三年四月(前田本訓))
    2. 「手にひらめる物さはる時にわれ物にぎりたり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  3. 手中におさめる。自分のものにする。掌中に帰す。掌握する。
    1. [初出の実例]「おなじ巣にかへりしかひの見えぬかないかなる人か手ににぎるらん」(出典:源氏物語(1001‐14頃)真木柱)
    2. 「セカイヲ タナゴコロニ niguiru(ニギル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
  4. 重要な事柄を確実につかむ。
    1. [初出の実例]「何か、的確な証拠を刑事が握(ニギ)って来たものであらうと」(出典:金(1926)〈宮嶋資夫〉二三)
  5. 握鮨(にぎりずし)握飯をつくる。
    1. [初出の実例]「女みづから其の飯をにぎりて食はするに」(出典:古今著聞集(1254)一〇)
  6. カルタをする。
    1. [初出の実例]「たりませぬ・おかさん起てにぎらしゃれ」(出典:雑俳・軽口頓作(1709))

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「握る」の意味・わかりやすい解説

握る
にぎる

「つかむ」ことのできる手の獲得と、その手を自由意志でコントロールすることができる能力をもつことで、人間は文化を獲得してきた。「握る」は、こうした「つかむ」行為のなかの手の運動機能の一つである。「握る」運動は、母指(ぼし)と他の4本の指が対立位にあるときの運動で、狭義の「つかむ」も「つまむ」も同じ働きであるが、「握る」は母指に対向する指の数や、位置に若干の相違がある。握る運動は、日常の生活のなかで経験するように、握る物体の大きさ、形状、重量や表面性状などの物理的性質の影響を受ける。したがって、その物体を確実に把握するための効果的な握りができるように、絶えず運動の修正が行われ、これを「接触反応」とよんでいる。たとえば、紙挟み洗濯挟みのような固い物体を強くつまんだとき、指先にひずみが生じるのは、指先の軟組織に介在する可塑性が握る運動を修正し、握りを確実にしているのであり、また、スポンジのような軟らかい物体では、物体のほうが変形して握りを確実にしている。

 握るという実際上の運動の結果は、ちょうど物理学でいう「結合」にあたり、固体を固定する状態である。結合は、固体の運動が一方向にだけ遮断される一面的結合、二方向への運動が遮断される対称面結合、そして運動がいくつかの方向で遮断される多面的結合とがあるが、「握る」運動もこの原理に従って行われる。

 つまり、「握る」は次のように分類できる。(1)手掌で重い物を支える場合には一面的な握り(平面的な握り)である。(2)母指と示指(人差し指)による「つまむ」運動や、示指と中指との間でたばこなどを挟むときのように、二つの運動すなわち二方向から物を保持する場合には、対称面の握りとなる。(3)三つ以上の運動が組み合わされて行われる多面的な握りは、ドアのノブを回したり、包丁やドライバーを使ったりする際など日常生活のなかで多くみられ、もっとも安定した「握る」運動である。

[内田 謙]

対称面固定の「握る」

母指と示指で行われる「つまむ」運動をいう。(1)たとえば、ピンや針などの微細な物体をつまむ際の対称面固定の動作である。母指と示指の指の関節(指節間関節)のすべては曲げられ、指先は軽く接触している(指尖(しせん)つまみ)。(2)小さな紙挟みやクリップなどの口を広げる際に、そのつまみ部分を力強くつまむ動作である。示指の基部(近位)にある指の関節は浅指屈筋の働きで強く曲げられ、末端(遠位)の指関節は伸ばされて、この部位に走行する深指屈筋が指伸筋と拮抗(きっこう)作用してトーヌス収縮を生じ、強い力を加えることが可能になる(指頭つまみ)。(3)施錠のとき、小さなキーをつまんで回す際の母指の指頭掌側面と示指の橈側(とうそく)面とでつまむ動作。この場合、示指の長軸方向に構成される「てこ」の末端(遠位指節間関節)に、母指によって圧が加えられ、示指の外転(指を開く運動)に作用する背側骨間筋がこの圧に拮抗することによって強くつまむことができる(指頭・側つまみ)。さらに強い力を必要とする場合には、母指の位置は示指の中節骨にある。また、示指と中指との間にたばこなどを挟む動作も対称面固定の一つで、この運動は指の内転(開いた指を閉じる運動)に作用する、掌側骨間筋の働きによるものである(指間・側つまみ)。(4)物体が大きく、3本の指では把握できない場合に、4本あるいは5本の指を使ってつかむ動作。たとえば球状のものを握るとき、母指、示指および中指の指頭で保持し、環指(薬指)や小指は物体が滑らないように制止する役割を果たしている。また大きな瓶の蓋(ふた)を回して開ける場合、母指は他の指と対立位にあって、この際、母指と小指がつくる角度は215度にもなり、物体の固定は遠位指節間関節とそれに作用する深指屈筋が働いている(五指間つかみ)。

[内田 謙]

多面的固定の「握る」

対称面固定に比べ、物体を安定させて「握る」ことができる。(1)手の正常な働きの多くは3点固定による「握る」動作である。鉛筆を握ったり、取っ手のついたカップを持ったりするときなど、母指および示指、中指のそれぞれの指先掌側面で行われる動作で、バランスを伴う正確な握りはこの方法で行われる。握りの際の手のバランスを保つ役割をしているのが環指と小指である(三指間握り)。(2)4点以上で固定される「握る」動作。この握りは、3点固定の「握る」動作に手掌部位における固定が加わったもので、ドライバーを使うときにみられ、もっとも安定性が得られる握りである(中心集中性握り)。(3)強く握る動作は、大きなハンマーの柄(え)を握るときにつくられる握りこぶしなどにみられる。これは物体をもっとも強く把握するときのもので、それぞれの指は強い屈曲位をとり、母指がそれらの指の背面にあって力を加えることができるので、手の力を集中することができ、強い力が出せる。このとき小指は、小指球筋の働きによりロック機構の役割を果たしている(全手掌握り)。

 また、同じ全手掌握りでも小さな釘(くぎ)を打つような場合には正確なハンドリングが要求されるために、ハンマーの柄の保持は「握る」と「つまむ」の二つの運動が複合して行われる。つまり、ハンマーの柄のうち、強い力のかかる部分は、屈曲された3本の指(中指・環指・小指)と手掌との間に握り込まれる。釘の頭をたたくような微妙なコントロールを必要とする部分は、母指と示指との間につくられる変形つまみにより保持される。(4)バッグを手に提げたり、物を運んだりする際にみられる「握る」動作に手鉤(てかぎ)握りがある。それぞれの指のすべての関節は強く屈曲し、母指は内転して示指の橈側に添えられているだけで、あまり働くことはない。いわゆるヒトの手と機能的に似ている類人猿の種属にみられる原初的な握りのタイプである。

[内田 謙]


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