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能装束 のうしょうぞく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

能装束
のうしょうぞく

能に用いる装束類の総称。衣装のほか,鬘帯 (かつらおび) ,腰帯角帽子 (すんぼうし) などのかぶりものも含める。舞台衣装として完成されるのは江戸時代からで,表着直衣 (のうし) ,狩衣長絹唐織など,着付に厚板 (あついた) ,厚板唐織,縫箔 (ぬいはく) ,摺箔 (すりはく) ,熨斗目 (のしめ) など,袴類に指貫 (さしぬき) ,長袴,大口,半切 (はんぎれ) などがあり,年齢,性別,役柄によって用いる装束が規定されている。

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デジタル大辞泉の解説

のう‐しょうぞく〔‐シヤウゾク〕【能装束】

を演じるときに演者が身につける装束。能面を除いたすべてのもので、かぶり物鬘(かずら)から足袋まで含まれる。特に、唐織(からおり)厚板(あついた)摺箔(すりはく)縫箔(ぬいはく)など染織技法の粋を尽くした豪華で気品の高いものが多い。能衣装

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百科事典マイペディアの解説

能装束【のうしょうぞく】

能の衣装。仮髪(かはつ)(かつら),冠の類を含む。有職(ゆうそく)の装束の転用や変形もあるが,桃山時代から元禄期にかけて豪華な独自なものに発達した。やや大ぶりで,かたい線のデザインが特徴。
→関連項目

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世界大百科事典 第2版の解説

のうしょうぞく【能装束】

能楽の舞台衣装。広義には面(おもて)(能面,狂言面)を除く扮装用具のすべてを指し,狭義には衣服および鬘帯(かつらおび),腰帯などの付属の布製品を指す。染織工芸,デザインなどの分野では〈能衣装〉の用語が使われていて,能楽用語としても中世末から近世初期の伝書類には〈衣装〉の語が頻用されているので,元来この語を用いることは不当ではないはずだが,現在は必ず〈装束〉と呼称する。
[史的変遷]
 創成期の能装束がどのようなものであったかは,遺品も伝わらず記録も乏しいので不明だが,今日わずかに残されている室町末期から桃山時代にかけての装束を見ると,基本的な形や種類は現在使用されている能装束と大差はない。

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大辞林 第三版の解説

のうしょうぞく【能装束】

能で演者が身に着ける衣装。帽子・冠や足袋などまでを含めていう。小袖類では唐から織り・厚板あついた・摺箔すりはく・縫箔ぬいはく・熨斗目のしめ・白綾しらあやなど、広袖類では直衣のうし・狩衣かりぎぬ・法被はつぴ・長絹ちようけん・水衣みずごろも・舞衣まいぎぬ、袴はかま類では大口おおくち・半切はんぎり・指貫さしぬき、裃かみしも類では素袍すおう・直垂ひたたれなどがあり、他に袖のない上着の側次そばつぎ、帯・鬘帯かずらおびなどがある。能衣装。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

能装束
のうしょうぞく

能に用いる扮装(ふんそう)の総称。狭義には演能用の布製品であるが、広義には演者が身につけるもので、能面を除くすべてをさし、烏帽子(えぼし)、冠、仮髪の類も含まれる。衣装とはいわず、かならず装束と呼称する。
 世阿弥(ぜあみ)時代の装束は、日常の衣装の流用、リアルな扮装程度だったと推定される。『風姿花伝(ふうしかでん)』には、女に扮する場合の注意として「いかにもいかにも袖(そで)の長き物を着て、手先をも見すべからず。帯などをも弱々とすべし」とある。唐織(からおり)などの豪華な能装束が製作されるようになったのは、室町末期から桃山時代にかけてとされ、今日舞台でみる能装束の様式は、演出の固定化された江戸中期にほぼ完成された。現存最古の能装束は、観世宗家に伝わる足利義政(あしかがよしまさ)拝領のもので、江戸時代の徳川家、井伊家、細川家ほかの大名家の装束も多く保存されている。
 能装束は第一級の日本の伝統工芸作品であり、その美術的価値も高い。能装束に用いられる技術は織物が主体で、それに刺繍(ししゅう)、箔(はく)押しが用いられ、染めはほとんど用いられず、後世の友禅(ゆうぜん)染めなどは、まったく能装束に導入されなかった。代表的な唐織は、金銀箔の糸を加えた豪華なもので、すべて織りで模様を浮き出してある。西陣織の技術の発達と、能を愛した大名たちの財力によるものである。男の役や強い神、鬼などの着る狩衣(かりぎぬ)、法被(はっぴ)、側次(そばつぎ)、半切(はんぎり)(半切(はんぎれ)とも)などは金襴(きんらん)や錦(にしき)が多用され、かつては中国からの輸入裂(ぎれ)が用いられた。有職(ゆうそく)の装束をそのまま流用したものに、貴人の指貫(さしぬき)や直衣(のうし)、男の平服としての素袍(すおう)、官女の着る緋長袴(ひのながばかま)がある。ごわごわした袴である大口(おおぐち)、腰に結んで前に垂らす腰帯(こしおび)、男の役にも女にも用いる長絹(ちょうけん)は有職の転化したものである。長絹や、能独特のデザインとされる舞衣(まいぎぬ)、あるいは単(ひとえ)狩衣、単法被には、絽地金襴(ろじきんらん)や顕文紗(けんもんしゃ)が用いられる。ダスターコート風の無地の外衣である水衣(みずごろも)も、能独特のものである。織り方で「しけ」「よれ」の区別があり、また縞(しま)物もある。金銀の箔で模様を摺(す)り出した摺箔(すりはく)、刺繍と箔で文様をつくる縫箔(ぬいはく)も、主として女性の役に用いる。摺箔の三角の鱗(うろこ)の連続模様は、鬼女の性を表す決まりになっている。なお、能の装束の絹に対し、狂言は麻を主調としている。
 普通、舞台で用いられる能面の100種程度に比べ、装束の種類はさほど多くない。単(ひとえ)・袷(あわせ)の別、織り方の変化や、無地か模様かといったことを別にすると、着付けのたぐい六、上衣(小袖の類)六、外衣(袍(ほう)の類)九、袴のたぐい四といった程度で、基本の扮装の類型は90種程度である。しかし、装束の取り合わせや、つけ方(唐織を例にとれば、ワンピース的用法のほか、ツーピース的なつけ方、右袖脱いだ着方など六通りの変化がある)、単と袷の違い、帽子、烏帽子、冠、仮髪などの変化、鬘(かつら)を締める鬘帯(かづらおび)、また腰の前に垂らす腰帯の選択などで、類型を破るくふうを凝らす。これも、基本を極端に少なくして、無限を表現しようとする能の理念によるものである。
 能装束には細かに揺れ動く縮緬(ちりめん)の類を用いないから、そのデザインはむしろ直線的な明快さ、張りの強い材質の重厚さに貫かれ、木彫りの能面と、幾何学的に抽象化された演技とに調和する。また様式化が極度に進んだため、むしろ面や装束が演出を規制するともいえる。たとえば、若く美しい女性の役は「紅(いろ)入り」といって赤い色の装束を用い、母親の世代や中年以降は「紅(いろ)無し」、つまり赤を用いず、これを演出の大きな基準とする。3年の孤閨(こけい)に耐えかね、夫を恨みつつ死んでいく「砧(きぬた)」のシテを、新婚まもない妻とし「紅入り」とするか、性的に円熟した「紅無し」の年齢に設定するかは、大きな曲目の解釈の相違である。また胸元にわずかにのぞく襟の色の選択一つによっても、演出が左右されるほどである。曲目や流儀により決まりの組合せがあり、模様まで指定される場合がある。昔は専門の物着方(ものきせかた)がいたが、現在では後見が着せる。同じ装束でも時代によってつけ方に変化と洗練がみられるのは、女性の役の基本の扮装に、五流の能と山形県の黒川能に大きな差があることをもっても知られる。世阿弥時代の絵には、鬼の役が「けがりは」とよばれる沓(くつ)を履いているが、今日では履き物はいっさい用いず、すべて白足袋(しろたび)で、足の運びの美しさを強調する。[増田正造]
『山辺知行著『能装束文様集』(1969・檜書店) ▽増田正造著『能のデザイン』(1976・平凡社) ▽切畑健・増田正造編『井伊家伝来 能装束百姿』(1984・平凡社)』

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世界大百科事典内の能装束の言及

【織物】より

…今日各地に残る伝統的工芸織物の多くは,土地の自然環境や歴史的特質を反映して成長したものである。 西陣を中心として発達してきた高度な技術を要する紋織物は,幕府の政策的な能楽の奨励と隆盛にともない江戸中期には能装束として花咲き,唐織をはじめ金襴,紋紗,金紗,絽金などの意匠や技術のうえに素晴らしい発展がみられた。また小袖の発達にともなって生じた近世服飾史上の最も大きな特色の一つは,女帯の発達である()。…

【能】より

…同じく女面に,般若(はんにや),蛇(じや)など。能面
【能装束】
 能装束は実生活の被服から出発して,しだいに舞台専用の形状と用法を備えるにいたったものである。たとえば公家の使用する狩衣(かりぎぬ)は,身ごろも袖も1幅半であるが,能装束では完全に2幅となっている。…

※「能装束」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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