デジタル大辞泉 「余情」の意味・読み・例文・類語
よ‐じょう〔‐ジヤウ〕【余情】
2 詩歌などで、表現の外に感じられる趣。特に、和歌・連歌・俳諧などで尊重された。よせい。
[類語]
( 1 )歌論用語としては、古くは、①の挙例の壬生忠岑「忠岑十体」までさかのぼる。そこでは、詩的表現の本来的特質として認識されている。次いで、藤原公任の「和歌九品」では最高位・上品上の和歌には「詞妙にして余り心さへある也」の評価がある。
( 2 )「余情」を詩的表現機能として真に自覚して実践した藤原俊成は、韻律やイメージ効果による複雑微妙な情調世界を和歌表現の本質として、本歌取りや体言止めなどの技法によって構成される余情美の種々相を「艷」「あはれ」「幽玄」などと称した。
( 3 )俳諧においては、「和歌には余情といひ、俳諧にはにほひといふ」〔俳諧・十論為弁抄‐九〕とあるように、「にほひ」に繋がっていく。
近世までの読み癖では〈よせい〉。言語表現などにおのずからなごりとしてただよう芸術的香気や情趣。〈余韻〉などともいう。すでに中国詩論に用例を見るが,日本でも,〈其情有余〉(《古今集》真名序),〈詞標一片,義籠万端〉(壬生忠岑《和歌体十種》余情体),〈あまりの心さへあるなり〉(藤原公任《和歌九品》上品上)など,歌体の一つまたは最高の歌の条件とされ,歌論などで重視されている。平安時代,すでに〈余情幽玄体〉(藤原宗忠《作文大体》)という言葉も見えるが,〈なにとなく艶にも幽玄にもきこゆる〉(《慈鎮和尚自歌合》跋)など藤原俊成により自覚された幽玄理念や,〈余情妖艶体〉(《近代秀歌》)などという定家の和歌理念も,余情表現を本性としている。和歌,連歌,俳諧などが第一義の文学であった時代では,余情は文学表現上とくに重要な理念であり,能楽論や茶道・花道などに及ぼす影響もすくなくなかった。日本人の美意識を深く規制し,現代にまで至っているといえよう。余情表現を大きく分類すると,修辞技巧などを凝らして複雑微妙な表現を意図する方向と,〈いひおほせて何かある〉(《去来抄》先師評)など,逆に簡潔性を志し〈表現を惜しむ〉方向との二つがあった。
→幽玄
執筆者:上条 彰次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「よせい」「あまりの心」ともいう。言外の情趣。『古今(こきん)集』序では表現と内容との間の不調和と考えられているが、壬生忠岑(みぶのただみね)の『和歌体十種(わかのていじっしゅ)』の「余情体」を経て藤原公任(きんとう)(966―1041)の『九品和歌(くほんわか)』に至り、完成された表現のもつ一属性としてとらえられる。平安末期、詩的言語についての自覚が高まり、ことばの映像や情調を意図的に重層させる手法が現れ、新古今歌風の母胎となるが、その特色を藤原俊成(しゅんぜい)(1114―1204)は「あまりの心」、藤原定家(ていか)(1162―1241)は「余情妖艶(ようえん)」とよんでいる。その後この系統の余情は、定家偽書の『三五記(さんごき)』などを経て正徹(しょうてつ)(1381―1459)、心敬(しんけい)(1406―75)に至り、最高の歌体である「幽玄体」の特色とされた。すなわち「言い残して理(ことわり)なき」表現のもつ効果であるが、一方、二条為世(ためよ)(1251―1338)は逆に平明な表現のなかに、また冷泉(れいぜい)派の今川了俊(りょうしゅん)(1326?―1420?)もありのままの描写すなわち「見様体(けんようのてい)」において、それぞれ深い感情や情調の流露することを余情とみている。その後二条派が歌壇主流となるにしたがい、為世風の説が一般的となった。
[田中 裕]
…〈余韻〉などともいう。すでに中国詩論に用例を見るが,日本でも,〈其情有余〉(《古今集》真名序),〈詞標一片,義籠万端〉(壬生忠岑《和歌体十種》余情体),〈あまりの心さへあるなり〉(藤原公任《和歌九品》上品上)など,歌体の一つまたは最高の歌の条件とされ,歌論などで重視されている。平安時代,すでに〈余情幽玄体〉(藤原宗忠《作文大体》)という言葉も見えるが,〈なにとなく艶にも幽玄にもきこゆる〉(《慈鎮和尚自歌合》跋)など藤原俊成により自覚された幽玄理念や,〈余情妖艶体〉(《近代秀歌》)などという定家の和歌理念も,余情表現を本性としている。…
※「余情」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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