ウラン(放射性元素)(読み)うらん(英語表記)Uran ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウラン(放射性元素)」の意味・わかりやすい解説

ウラン(放射性元素)
うらん
Uran ドイツ語

アクチノイドに属する放射性元素の一つ。原子番号92、元素記号U。天然に存在する元素のなかで最大の原子番号をもつ。英語名uraniumからウラニウムといわれることもあるが、学術用語としてはウランが正しい。

[岩本振武]

歴史

1789年、ドイツのクラプロートが閃(せん)ウラン鉱(ピッチブレンド)の中に含まれていることを発見し、1781年土星の外側に発見された新惑星である天王星Uranusにちなんで命名された。この命名は、のちにロシアのメンデレーエフが提出した周期表の最後に置かれたこの元素にふさわしく、人工合成された93番元素および94番元素がネプツニウム(海王星Neptune)およびプルトニウム冥王星(めいおうせい)Pluto)と命名されるもとになった。単体金属は1842年にフランスのペリゴーEugène Melchior Péligot(1811―1890)によって単離されたが、1896年フランスのベックレルは、黒色紙で遮光されている写真乾板がウラン化合物によって感光する現象をみいだし、それが放射能発見の端緒となった。

[岩本振武]

存在

質量数217から242に至る20種を超える人工同位体が知られており、いずれも放射性である。天然同位体には234(ウランⅡ UⅡ)、235(アクチノウランAcU)、238(ウランⅠ UⅠ)の半減期の長い3種が存在するが、238が99%以上を占める。地殻中には低濃度で広く分布し、金や銀よりも元素存在度は大きい。しかし、濃縮された鉱床は比較的少なく、閃ウラン鉱およびウラン雲母(うんも)族の鉱物を含む鉱石が主要な資源となり、カナダ、南アフリカ、アメリカ、オーストラリア、ブラジルなどに産出する。日本では、岐阜県東濃(とうのう)地区、岡山・鳥取県境の人形峠などで産出するが、核燃料としてのウランは輸入に依存している。海水中にも数ppb含まれているため、これを濃縮回収する方法も検討されている(ppbは割合を表す単位で10億分率をいう)。

[岩本振武]

製法

原鉱石の種類に応じた適当な酸塩基処理を施すと、ウランはウラン酸塩として黄褐色の塊状物質になる。これをイエローケーキとよんでいる。イエローケーキを酸に溶解し、溶媒抽出法、イオン交換法、電解還元法などによって精製してから四フッ化ウランUF4とし、これを還元すると金属ウランを得る(核燃料としてのウランは別の方法で精製される)。

[岩本振武]

性質

金属ウランは銀白光沢を示し、室温では斜方晶系に属する構造をとるα(アルファ)ウランとなる。667℃で正方晶系のβ(ベータ)ウラン、772℃で等軸晶系(体心立方)のγ(ガンマ)ウランに転移する。αウランは熱膨張率の異方性が大きく、金属ウラン棒を核燃料として直接利用する際の難点の一因となっている。

 金属は反応性に富み、空気中で容易に表面が酸化され、加熱すれば発火して八酸化三ウランU3O8を生ずる。水素、窒素、ハロゲン、一酸化炭素その他とも高温で反応し、化合物を生ずる。塩基には侵されにくいが、酸には溶解して+3価、+4価のイオンとなる。知られている酸化数は+Ⅱから+Ⅵまでの各段階であるが、一般には+Ⅵが安定で、+Ⅳがそれに次ぐ。+ⅣではU(SO4)2・9H2Oのような塩をつくるが、+Ⅴ、+Ⅵでは水溶液中で加水分解を受け、ジオキシドウランイオン(ウラニルイオン)UO2+またはUO22+となるか、あるいはヘプタオキシドジウラン(Ⅵ)酸イオン(二ウラン(Ⅵ)酸イオン)U2O72-、テトラオキシドウラン酸イオン(ウラン(Ⅵ)酸イオン)UO42-になる。金属ウランをフッ化水素と反応させるとフッ化ウラン(Ⅳ) UF4となるが、フッ素と反応させれば六フッ化ウラン(Ⅵ) UF6となる。

[岩本振武]

核燃料としてのウラン

1934年フェルミ(イタリア→アメリカ)らはウランを中性子照射するとβ線が放出されることを発見した(天然ウランの同位体はすべてα崩壊する)。その理由は、当時はまだ不明であった。1938年ドイツのO・ハーンとシュトラスマンは、ウランを熱中性子照射するとウランの原子核が分裂し、クリプトンやバリウムなどの、原子番号がウランより小さい元素の放射性同位体を生ずるとともに、ウランの原子核内で核子(陽子、中性子)を凝集させていたエネルギーの一部も放出されることをみいだした。1939年フェルミは、この核分裂の際には中性子も生じ、それを利用すれば核分裂反応を連鎖的に進行させ、したがって多量のエネルギーを連続的に取り出す可能性のあることを示唆した。その後多くの研究者がその可能性に挑み、まず中性子が実際に発生することが明らかになり、ついで熱中性子によって分裂するのはウラン235であることも示され、また、ウラン238がプルトニウム239に変換され、そのα崩壊によってウラン235を得る可能性も示された。1942年12月2日、フェルミらの研究グループは、シカゴ大学の競技場のスタンドの地下で人工制御核分裂連鎖反応の実験に成功した。現在ではこの競技場は取り壊され、跡地には小さな記念碑が残されているのみであるが、この実験が人類に与えたインパクトはきわめて大きい。

 現在のウランを核燃料とする原子炉では、ウラン235が利用されるが、その天然の存在比は約0.7%にすぎず、利用に供する前には235同位体の濃縮が行われる。気体の分子運動速度は分子量の平方根に反比例するため、歴史的にはまず、フッ化ウラン(Ⅵ)での235UF6238UF6との拡散速度の差を利用するガス拡散法が採用された。しかし、理論的分離係数(両分子の質量比の平方根)は1.0043と小さく、大量の電力と水を必要とする。ヨーロッパや日本のような原子力後発国では、遠心力の差を利用した遠心分離法が開発されているが、所要電力がガス拡散法と比較して格段に小さい利点がある。235を濃縮したウランは、合金、あるいはセラミックス(ウランの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物など)として用いられる。

[岩本振武]


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