割符(読み)ワリフ

デジタル大辞泉 「割符」の意味・読み・例文・類語

わり‐ふ【割(り)符】

木片などの中央証拠となる文字を記し、また証印を押して、二つに割ったもの。当事者どうしが別々に所有し、後日その二つを合わせて証拠とした。符契符節。割り札。わっぷ。
後日の証拠となるもの。
「握る―は通用しない」〈漱石虞美人草
さいふ(割符)
[類語]ラベルレッテル荷札名札貼り札貼り紙付箋鑑札伝票証票証紙ステッカーゼッケンシールワッペンカードタグネームプレート

わっ‐ぷ【割符】

わりふ」の音変化。「いと割符

さい‐ふ【割符】

中世、遠隔地へ送金するために組んだ為替手形。わりふ。切符きりふ

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精選版 日本国語大辞典 「割符」の意味・読み・例文・類語

わり‐ふ【割符】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 木片や竹片などに証拠となる文字などをしるし、それを二つに分割したもの。木の札などに文句・文字などを書き、中央に証印を押し、これを二つに分けたもの。当事者どうしが別々に所有し、後日その半分ずつを合わせて正当な当事者であることの証拠とした。わりふだ。符節。符契。わっぷ。
    1. [初出の実例]「木契とて、内記におほせて木にて割符をつくりて、上卿その国に給ふといふ四字を書きて内記に給へば、内記刀と石とを随身して二つにわりて、取合せて上卿に奉るなり」(出典:御代始鈔(1461頃)御譲位の事)
    2. 「預けの具足可渡之由わりふの貝判来る」(出典:多聞院日記‐天正一七年(1589)一一月二一日)
  3. 一般に、後日の証拠となるもの。
    1. [初出の実例]「割封(ワリフ)のため此かたきぬつかはす」(出典:浮世草子・本朝桜陰比事(1689)四)
  4. 中世、為替(かわし)を組む時に発行された手形。切符。さいふ。〔塵芥(1510‐50頃)〕
    1. [初出の実例]「南三介高野千日こもり代を往生院万福院の内良慶に申付之、替事わりふ申合遣之」(出典:多聞院日記‐天正四年(1576)七月二五日)
  5. ( ━する ) 物品を貯蔵、移動する時に、員数などを照合・確認すること。
    1. [初出の実例]「此外あまり兵粮於之者、右応人数割苻、蔵へ可入置也」(出典:島津家文書‐文祿二年(1593)七月二七日・豊臣秀吉朱印状)
  6. わっぷ(割賦)

さい‐ふ【割符】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「さい」は「さき」の変化したもの )
  2. 中世、遠隔地間の送金手段である替銭を行なう際に振り出された手形。多くの場合、一通につき額面十貫文とし、一種の有価証券として機能した。きりふ。きって。わりふ。
    1. [初出の実例]「合拾貫文者〈且参貫文上〉(花押)。右、件御かゑせに、このさいふふみたうらい三ケ日のうち、この御つかいに京とのにしこうちまちのやとにて、さたしわたしまいらせられ候へく候」(出典:安芸厳島神社反古経裏文書‐応長元年(1311)七月一二日・明仏替銭状)
  3. 江戸時代、証文、証判、証拠の意に用いる。
    1. [初出の実例]「私所持仕候代々の印形、濃州青野ゲ原御合戦の時、首帳面に記し候首、先祖へ御預りの筋、集房と申文字の判為割符下置候」(出典:地方凡例録(1794)八)

わっ‐ぷ【割符】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 「わりふ(割符)」の変化した語。
  3. いとわっぷ(糸割符)」の略。
    1. [初出の実例]「此一通は来夏船の割符(ワップ)」(出典:浄瑠璃博多小女郎波枕(1718)上)
  4. わっぷ(割賦)

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改訂新版 世界大百科事典 「割符」の意味・わかりやすい解説

割符 (わりふ)
gē fú

一つの竹や木や銅の表面に文字などを記し,それを二つに割って別々に所持し,両者を合わせることで互いに相手を信用する方法。

 中国では一種の身分証明用のふだとして使用され,剖符とも記す。この制度は,《周礼(しゆらい)》《孟子》に〈符節〉〈符節を合す〉などの語が見えるように,統一秦以前から存在していた。最初は竹の節(ふし)を用い,節のところを縦に割いたものであったことがその名の由来であろう。統一国家になると,特に中央の指令を使者が地方に伝えるとき符が用いられる。漢での主要な符として〈銅虎符〉と〈竹使符〉があり,ともに長さ6寸(10cm余)程度,右半分を中央に,左半分を地方長官のもとにおいた。前者は銅製で虎の形をしたもので軍事に関する連絡用(虎符),後者は竹の節をかたどった銅製のもので軍事以外の重要事項の連絡に用いられた。このほか,漢では一定の関所に限って使用される通行証としての符も存在しており(過書),また符節をあつかう官として〈符節令〉が中央に置かれた。割符の制度は漢以後,近代まで続く。唐代では銅虎符にかわり鯉をかたどった(唐王室の李姓と同音による)〈銅魚符〉が使用され,門下省に符節担当官〈符宝郎〉が置かれた。以後,宋・明と割符の使用は,基本的には漢とあまり変わらないが,明には別に外国貿易にあたって諸外国に分かち与えた割符〈勘合符〉がある。なお,日本の中世に用いられた為替手形については〈割符(さいふ)〉の項を参照されたい。
執筆者:


割符 (さいふ)

中世の為替手形。金銭や米穀の預り証書をいう。本来は木や竹などの札に証明となる文字・文句を書き,中央に証印を押して,これを二つに分割したもの。振出人支払人とが別々に所有し,支払の際に受領人の持参した割符と支払人所持の割符を合わせて証拠とする。支払人は割符の裏に支払期日を書いて(裏付),支払の証明とする。支払を拒否された割符を違割符という。鎌倉時代のころからこうした割符を利用した為替行為がはじまり,それは替銭・替米などとも呼ばれたが,室町時代になって商品流通や遠隔地間交易がいっそう展開すると,京都,山崎,堺,坂本などに割符を取り扱う専業の商人があらわれ,割符屋,割符人と呼ばれた。割符はまた切符,切手,わりふとも呼ばれ,宰符,際符,細符などとも書かれた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「割符」の意味・わかりやすい解説

割符(さいふ)
さいふ

鎌倉期以降、遠隔地へ送金する際に替銭(かえぜに)を手形に組んで使用した為替(かわせ)手形。「わりふ」ともいう。室町時代の代表的な国語辞典『下学集(かがくしゅう)』では「切符(きっぷ)」と同意義とされている。鎌倉後期以降、年貢の銭納化や隔地間交易が盛んとなり、銭貨流通が拡大した。しかし銭貨は重量がかさみ持ち運びに不便であったため、割符が活用されるようになった。南北朝末期から室町前期にかけて成立したといわれる『庭訓往来(ていきんおうらい)』に「湊(みなと)々の替銭、浦々の問丸(といまる)、同じく割符を以(もっ)て之(これ)を進上す」とあり、すでにこの時期に割符による取引が一般化していたことがわかる。割符の運用例として、東寺(とうじ)領備中(びっちゅう)国新見荘(にいみのしょう)(岡山県新見市近辺)では、荘内の市場にくる畿内(きない)商人に年貢米を売却し、その代金が割符に組まれて東寺へ送られ、東寺では指定された割符屋でこれを現金化している。このほか旅行途上での資金不足などから借銭し、その返済を代人による他地払いで行う旨を約束する割符もあった。これには利息がつけられるのが一般的である。割符による取引は信用取引であるから、これを支える有力商人が必要であり、割符屋、替銭屋が出現した。しかし当時はかならずしも割符の支払人(割符屋)と振出人(割符主)との関係が円滑にいったわけではなく、換金を拒否される場合も生じた。このような割符を「違割符(ちがいさいふ)」と称した。

[鈴木敦子]

『『中世日本の商業』(『豊田武著作集 第2巻』1982・吉川弘文館)』


割符(わりふ)
わりふ

文字やしるしを木片や竹片などに書き、それを二つに割ったもの。それらを別々に所有しておき、のちに二つを合わせて真偽確認の証拠とした。「わっぷ」はその音便であり、「割札(わりふだ)」「割符(さいふ)」「切符(きりふ)」ともいう。

[藁科勝之]

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百科事典マイペディア 「割符」の意味・わかりやすい解説

割符【さいふ】

切符とも記。中世の為替(かわせ)手形。鎌倉時代,地方の荘園・公領からの年貢銭の輸送に代わる方法として,また訴訟費・旅費を送る際にも用いられた。室町時代には,遠隔地取引に従事する商人たちの商取引にも使用され,京都・堺・坂本などに割符を扱う専業商人が現れた。後の為替・両替制度の起源をなす。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「割符」の解説

割符
さいふ

「わっぷ・わりふ」とも。切符・切手とも。中世の為替手形。形式は不定だが,送金額や受取人・支払人(替銭屋(かえせんや))の名などが記され,これを受取人が指定の替銭屋に提示すると,一覧払いの場合はただちに換金され,期限払いの場合は替銭屋が裏付(うらづけ)を行い,そこで指定日に支払われた。裏付を拒否された割符は違割符といい,その場合は受取人から送金依頼人に返送されて,割符を振り出した替銭屋に補償を請求する。

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旺文社日本史事典 三訂版 「割符」の解説

割符
さいふ

中世,遠隔地に金銭を送付するために用いられた為替手形
切符ともいう。鎌倉時代,荘園年貢の運送に多く利用されたが,室町時代には商業取引,貸借の決済の方法として発達。専門に扱う替銭屋・割符屋と呼ばれる商人に払い込み,為替手形を組んで送金した。為替 (かわせ(かわし)) ・替銭 (かえせん) ともいい,米を用いるのを替米といった。

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普及版 字通 「割符」の読み・字形・画数・意味

【割符】かつぷ

わりふ。

字通「割」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の割符の言及

【為替】より

…銭を対象とするものを替銭(かえぜに∥かえせん∥かわしぜに∥かわし)と呼び,米を対象とするものを替米(かえまい∥かわしまい)といった。また利用された手形・証書を割符(さいふ∥わりふ∥かわし),切符(きつぷ),切紙(きりがみ)などと呼んだ。替銭・替米は,(1)年貢の輸送などの遠隔地への米銭送付に際して,荘園あるいはその近傍の都市で手形に替え,これを荘園領主に送付し,京都,山崎,奈良,堺などで米銭で受け取る場合と,(2)米銭の借用に際して,荘園年貢を引当てとし,荘園現地での支払を約束する手形を振り出す場合との両義を意味した。…

【分散】より

…江戸時代における破産をさす語。割賦(割符)(わつぷ)ともいう。しばしば〈身代限(しんだいかぎり)〉と混同され,明治初年には両者が制度的に合体するが,江戸幕府法上は,裁判所による強制執行としての〈身代限〉と,債権者・債務者間の契約による〈分散〉とを,明確に区別している。…

【為替】より

…銭を対象とするものを替銭(かえぜに∥かえせん∥かわしぜに∥かわし)と呼び,米を対象とするものを替米(かえまい∥かわしまい)といった。また利用された手形・証書を割符(さいふ∥わりふ∥かわし),切符(きつぷ),切紙(きりがみ)などと呼んだ。替銭・替米は,(1)年貢の輸送などの遠隔地への米銭送付に際して,荘園あるいはその近傍の都市で手形に替え,これを荘園領主に送付し,京都,山崎,奈良,堺などで米銭で受け取る場合と,(2)米銭の借用に際して,荘園年貢を引当てとし,荘園現地での支払を約束する手形を振り出す場合との両義を意味した。…

【為替】より

…銭を対象とするものを替銭(かえぜに∥かえせん∥かわしぜに∥かわし)と呼び,米を対象とするものを替米(かえまい∥かわしまい)といった。また利用された手形・証書を割符(さいふ∥わりふ∥かわし),切符(きつぷ),切紙(きりがみ)などと呼んだ。替銭・替米は,(1)年貢の輸送などの遠隔地への米銭送付に際して,荘園あるいはその近傍の都市で手形に替え,これを荘園領主に送付し,京都,山崎,奈良,堺などで米銭で受け取る場合と,(2)米銭の借用に際して,荘園年貢を引当てとし,荘園現地での支払を約束する手形を振り出す場合との両義を意味した。…

【護符】より

…これは符籙(ふろく)ともいわれ,道士にとっては免状にあたるもので,彼らはこれをたいせつに封印し,御守としてつねに身につける。 符がこのような霊力をもつとされるのは,符に割符(わりふ)の意味があるのと関係するだろう。割符は権威あるものから特許された権利を保証するもので,もともと竹や木のふだを半分に割り,与えるものと与えられるものとが半分ずつをもって,必要なときに照合するものであった。…

【割符】より

…本来は木や竹などの札に証明となる文字・文句を書き,中央に証印を押して,これを二つに分割したもの。振出人と支払人とが別々に所有し,支払の際に受領人の持参した割符と支払人所持の割符を合わせて証拠とする。支払人は割符の裏に支払期日を書いて(裏付),支払の証明とする。…

【木契】より

…日本古代の律令制下で三関の開閉の際に用いられた木製の割符。関契ともいう。…

※「割符」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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