〘形口〙 う・し 〘形ク〙
[一] 物事が思いのままにならないことを嘆きいとう心情を表わす。また、そのような心情を起こさせる物事の状態についても用いる。
① ある状態をいとわしく、不愉快に思うさま。いやだ。煩わしい。気に入らない。
※万葉(8C後)五・八九三「世の中を宇之(ウシ)と恥(やさ)しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「今までとまり侍るがいとうきを、かかる御使の、よもぎふの露分け入り給ふにつけても、いと恥づかしうなむ」
② 心が重苦しく閉ざされたさま。気持ちの晴らしようがなくて、つらく、やりきれない。
※万葉(8C後)一二・二八七二「逢はなくも懈(うし)と思へばいやましに人言繁く聞こえ来るかも」
※枕(10C終)三〇六「海はなほいとゆゆしと思ふに、まいて海女のかづきしに入るはうきわざなり」
③ つらい、やりきれないと思うような不本意な状態。自身にとっては、不遇、不運を嘆く意となり、他に対しては、みじめなさま、無残なさまを気の毒に思う意となる。
※源氏(1001‐14頃)明石「身のうきをもとにてわりなきことなれどうちすて給へるうらみのやるかたなきに」
④ 人につらいと思わせるような相手の状態。無情だ。冷淡だ。
※新古今(1205)恋四・一二六〇「あまのとをおし明けがたの月みればうき人しもぞ恋しかりける〈よみ人しらず〉」
[二] 動詞の連用形に付いて補助的に用いる。
① そうすることがためらわれる、いやだ、おっくうだなどの意を添える。
※古今(905‐914)恋二・五七五「はかなくてゆめにも人をみつるよはあしたのとこぞ起きうかりける〈素性〉」
② そうしていることがやりきれない、つらいなどの意を添える。
※山家集(12C後)下「ここをまた我住みうくてうかれなば松はひとりにならんとすらん」
[語誌](1)「倦(う)む」と同根か。「万葉」では数例であるが、「古今」以後用例は増加し続け、八代集全体では数量ともに「なし」に続く第二位、日記物語でも多用される。
(2)類義語の「つらし」が他人が冷淡・無情であるのを恨む外因的なものであるのに対して、「うし」は内因的で思いのままにならない状況や環境を自分のせいだととらえる。中世になるとこの区別が薄れ、やがて「つらし」に併合されていく。
う‐が・る
〘他ラ四〙
う‐げ
〘形動〙
う‐さ
〘名〙
う‐み
〘名〙