日本大百科全書(ニッポニカ)「指切り」の解説
指切り
ゆびきり
契約の一形式。ローマ人やゲルマン人の間では契約の締結に一定の形式を要した。たとえばローマで当事者双方が問答によって債権債務を発生させる口頭契約の一種にpromissioがあった。promissioはpro(前に)mittre(置く)の名詞形であって、問答に際して当事者が互いに右手を伸ばして握手したのに由来し、それが契約の意味になった。日本では契約の締結にあまり形式を問題にしなかったが、指切りはそのまれな例である。指切りによって約束することは現在でも子供の間に行われているが、古く指のことを手と称したこともあるので、指切りはすなわち手切りであり、手切りが訛(なま)って「ちぎり」すなわち契約の意味になったといわれる。
[石井良助]
民俗
今日でも、子供が約束をかならず守るという誓いのしるしとして、相手同士の指を組み合わせて(おもに小指を曲げてひっかけ合う)唱え言をする。「指切り、かまきり、嘘(うそ)いうものは、地獄の釜(かま)へぽったりしょ」(東京都)、「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」(神奈川県)、「いびきり、いびきり、3年過ぎたら、乳から下へくされよ」(愛知県)などと唱える。また、ヘビとかトカゲを指さした場合、指切りをしないと指が腐るといって、両手の人差し指と親指とで輪をつくり、ほかの子に人差し指でその輪を切ってもらうものがある。これは東京都や福島・神奈川県の例が知られているが、もっと広い範囲に行われていたらしい。さらに、遊女が相愛の男に対して、誓約の証(あかし)に小指を切ることがあった。
[高野 修]