(読み)キヌ(その他表記)silk

翻訳|silk

デジタル大辞泉 「絹」の意味・読み・例文・類語

きぬ【絹】

の繭からとった繊維。
絹糸で織った織物。絹織物
[類語]羊毛純毛ウールカシミアモヘア木綿綿めん純綿真綿まわたコットンジュート本絹正絹しょうけん人造絹糸シルク化学繊維

けん【絹】[漢字項目]

[音]ケン(呉)(漢) [訓]きぬ
学習漢字]6年
〈ケン〉きぬ。「絹糸絹布正絹人絹素絹
〈きぬ(ぎぬ)〉「絹糸絹地絹織物薄絹生絹きぎぬ
[難読]生絹すずし紅絹もみ

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精選版 日本国語大辞典 「絹」の意味・読み・例文・類語

きぬ【絹】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 蚕の繭からとった繊維。
  3. 絹糸で織った織物。絹織物。また、布帛(ふはく)
    1. [初出の実例]「我におこせし 水縹(みはなだ)の 絹(きぬ)の帯を」(出典:万葉集(8C後)一六・三七九一)

けん【絹】

  1. 〘 名詞 〙 きぬ。きぬおりもの。
    1. [初出の実例]「はたちはかりのほうし、けんの衣にもんしゅのけさをかけ」(出典:御伽草子・天狗の内裏(室町時代物語集所収)(室町末))
    2. [その他の文献]〔後漢書‐陳寔伝〕

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普及版 字通 「絹」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

[字音] ケン
[字訓] きぬ

[説文解字]
[その他]

[字形] 形声
声符は(えん)。に涓・(けん)の声がある。〔説文〕十三上に「(そう)の麥(ばくけん)の色の如きものなり」とあり、は麦茎。その浅黄の光沢あるものに類するので黄絹という。卜文に(蚕)の字形がみえ、蚕示のように蚕神を祀ることも行われていた。王后親蚕の儀礼なども、かなり古い時代から行われていたようである。

[訓義]
1. きぬ、きぎぬ。
2. 羂と通じ、わな、わなをかける。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕絹 加止利(かとり) 〔和名抄〕絹 岐沼(きぬ) 〔名義抄〕絹 カトリ・キヌ・カク

[熟語]
絹光・絹・絹地・絹帖・絹扇・絹素・絹租・絹紬・絹帛・絹布・絹本・絹綿
[下接語]
純絹・書絹・正絹・生絹・素絹・絹・薄絹

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「絹」の意味・わかりやすい解説


きぬ
silk

昆虫が繭の生成時に排出する生物繊維から得られる繊維原料および製品で,商品化されるものは主としてカイコガの幼虫 (蚕) のものに限られる。
絹の生産と織物の歴史は古代にまでさかのぼるが,はっきりした伝承は残っていない。産業としての起りは中国で,前 3000年代なかばの記録がある。中国は長らくその原料と製造法を極秘にしていたが,前 1000年以降には他国との絹織物貿易が始り,数世紀のうちに,隊商が定期的にインド,中央アジア,ペルシアへ絹を運ぶようになった。前 140年頃,絹とともに養蚕が陸路中国からインドへ伝わったと考えられ,2世紀にはインドは国産の生糸と絹織物を船でペルシアへ輸出した。数世紀おくれて,日本も養蚕の技術を得て成功を収めた。パルティア帝国 (前 247~後 224) のもと,ペルシアは東西の絹貿易の中心地となった。絹の染色と紡績はシリアエジプトギリシア,ローマで発展した。職人は東洋産の生糸も用いたが,大半は東洋から絹織物としてもたらされたものを解体して利用した。絹の製造過程は当時はまだアジアに秘められた謎であった。やがて地中海地方一帯で,地元産の生糸への要望が強まった。ビザンチン皇帝ユスチニアヌス1世 (在位 527~565) は中国在住の2人のペルシア修道僧を説き,550年カイコガの幼虫を竹の杖のうろに隠しコンスタンチノープルへ持帰らせた。こうして少数の生きながらえた幼虫が広まり,19世紀にいたるまでのヨーロッパの養蚕の元となった。絹の生産は数世紀にわたってヨーロッパで栄え,特にイタリアの自治都市や 1480年以降のフランスで繁栄した。 1854年カイコガに伝染病が蔓延し,65年パスツールが研究依頼を受け原因を解明するとともに制圧手段を開発した。イタリアの絹産業は復興したが,フランスは復興にいたらなかった。一方では,日本が養蚕の近代化をはかり,全世界の生糸の大半をまかなうようになった。第2次世界大戦後,ナイロンなどの化学繊維が靴下類その他の衣類生産に代用され,絹産業は大幅に衰退した。しかし,その後も絹の贅沢品としての価値は高く,日本,韓国,タイでは現在も重要な生産品となっている。
絹の生産には,カイコガが卵から繭になるまでの飼育と,幼虫の餌となるクワの栽培が含まれる。カイコガの幼虫は約 600mから 900mの長さの切れ目のない繊維 (長繊維) を放出し,自身を囲み繭となる。成虫になると繭を破って出てくるので,繭の状態で蒸すか熱い空気にあてて殺してしまう。繭から繰取ったままの糸,すなわち生糸は,2本のフィブロインがコロイド状のセリシンの皮膜で包まれた構造のものの集りである。つなぎのセリシンを溶かし,繊維の端を見つけ,数個の繭をまとめて巻戻すか糸繰りにかける。細すぎる糸は糸繰りとよりの段階でより合され,太く丈夫な生糸にされる。糸の量とよりの向きで,さまざまな生糸がつくられる。セリシンは製造過程で材質保護の役目を果し,通常は繊維化の段階で石鹸水の中でゆでて除去する。この処理工程を生糸の精練といい,精練されてフィブロインだけになったものは練絹という。また,こわれた繭や製造過程で切れた短い繊維をより合せて生糸にしたものを紡績絹という。絹糸の太さはデニール (1デニールは長さ 450mで重さ 50mgのもの) で表わされる。金属塩などの仕上げ剤で重みを加え,ひだをつけるなどの処理をすることもある。セリシンを除去すると絹は 30%軽くなった柔らかく光沢のある半透明な糸になり,表面はなめらかで汚れにくくなる。また絹は1デニールで 4gまでの重さに耐え,濡れると強度は約 15%から 25%落ちる。絹繊維は最高約 20%伸びるが,2%以上の伸びは元に戻りにくい。綿,毛,レーヨンより密度が粗く,吸水性がよい。目方の3分の1までの湿気を吸収しても湿気を感じさせず,染色に非常に適している。毛より熱に強く,約 170℃で分解する。保管状態のよくないまま長い間放置すると強度を失い,長く日にさらされるといたみやすいが,かびることは少い。弱アルカリ溶液や通常のドライクリーニング溶剤には強い。乾燥時は特に摩擦で静電気が起りやすい。張りのある絹織物から連想されるいわゆるきぬずれの音や絹を裂くような音は,加工処理により生じたもので,本来の性質とするのは誤りである。

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化学辞典 第2版 「絹」の解説


キヌ
silk

絹は広義には,昆虫が巣をつくりそれがまゆの形になったとき,まゆを形成する繊維をいう.実用上は家蚕のほかに,柞蚕(さくさん),エリ蚕などのヤママユガ系野蚕,アフリカ原産のアナフェ野蚕などがある.絹の主成分であるフィブロイン単純タンパク質からなり,家蚕ではタンパク質濃度約30% で中部絹糸腺にゲル状に蓄えられ,さらに中部絹糸腺の異なるところから分泌される3種類のセリシン溶液により3層に被覆され,前部糸腺を経て繊維化し,吐糸によりけん引作用により引き出され,糸条を形成する.まゆ糸(繭糸:けんし)は三角形断面をもった2本のフィブロインのまわりをセリシンで包着した形をとっている.フィブロインのアミノ酸組成は,Gly(31%),Ala(43%),Ser(10%),Tyr(5%)が多い.一方,セリシンはSer(28%),Asp-glu(19%),Gly(12%)が多く,フィブロインの接着物質となっている.フィブロインはα-アミノ酸がペプチド結合(-NH-CO-)をして,分子量は大きい(再生フィブロインで約29万).分子配向度,結晶性とも良好である.セリシンは結晶性,配向性ともに悪い.これはせっけん,合成洗剤,アルカリによって溶解除去される(絹精練).除去の程度は製品の用途により異なる.野蚕絹のなかで柞酸絹は結晶部分の大部分が,ポリ-L-アラニンからなり,アナフェ絹ではアミノ酸組成はAla,Glyの2種類が主になっている.

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改訂新版 世界大百科事典 「絹」の意味・わかりやすい解説

絹 (きぬ)
silk

カイコの繭からとったフィブロイン(タンパク質の一種)を主成分とする長繊維。独特の美しい光沢をもつ。絹には家蚕絹(かさんきぬ)と野蚕絹(やさんきぬ)(柞蚕(さくさん)糸や天蚕糸などの野生蚕糸)があり,家蚕絹には生糸と練絹がある。繭糸を数本合わせて接着したのが生糸であり,繭糸から表面に膠着(こうちやく)しているセリシンを除いたのが練絹である。耐屈曲疲労性は悪いが,耐衝撃性は大きい。
絹織物 →繊維
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旺文社世界史事典 三訂版 「絹」の解説


きぬ

繭 (まゆ) からとった絹糸・絹織物の総称
殷 (いん) の卜辞 (ぼくじ) に絹に関する文字があり,『詩経』などにも黄河沿岸における絹の生産が記録されている。先秦以来,中国で絹は貢納品の中心とされ,貨幣的な役割を果たした。さらに中国の特産品として,漢以前から外国に輸出された。古代ローマへは,中央アジア経由の絹の道や南海をへて運ばれ,珍重された。古代ギリシア人・ローマ人が中国人をセレス(Seres),中国をセリカ(Serica)と呼んだのは,絹(ser,sericum)からきたとの説がある。その遺物は中国内外の古墳などから発掘されている。蚕種の輸出は禁じられていたといわれるが,6世紀にはビザンツ帝国に,12世紀にはシチリアからイタリア半島に,14世紀にはフランスに伝わり,コルベールの奨励で,17世紀以来,フランスでも絹織物業が繁栄した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「絹」の解説


きぬ

生糸で織った織物の総称
古来の高級衣料で,弓月君,漢織 (あやはとり) ・呉織 (くれはとり) らの大陸文化伝来に始まるといわれる。大宝令で調として絹・絁 (あしぎぬ) の貢納を規定,宮廷の織部司に大陸技術を導入し,地方に伝え,貢納させた。中世でも高級品は輸入品で,錦・綾・羅などが伝来したが,日明貿易により堺・博多など貿易港に金襴 (きんらん) ・緞子 (どんす) ・紗 (しや) などの生産が発生し,江戸時代には西陣が中心地となった。近世でも絹の着用は武士・富商らに限られる高級衣料であったが,需要が増大し,幕府・諸藩の保護奨励で国産生糸の増産とあいまって,博多織・結城紬 (つむぎ) ・上田縞 (じま) ・丹後縮緬 (ちりめん) ・桐生絹など各地に特産品を生んだ。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「絹」の解説

絹(きぬ)

中国では,養蚕と絹織物の技術は黄帝(こうてい)とその妃が広めたという伝説があるように,その淵源は新石器時代にさかのぼる。以来,衣料繊維として優れた性質を持った中国の絹は珍重され,文字どおりシルクロードと呼ばれた陸路と海路との2ルートから西方世界にもたらされた。12世紀に技術が伝えられたイタリア諸都市やリヨンでは絹織物業がおこった。また,漢代に伝えられた日本では以後主要産業として発展した。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「絹」の解説

きぬ【絹】

山形の日本酒。酒名は、絹のように柔らかで美しい酒質を目指して命名。原料米を35%まで磨き上げて醸す大吟醸酒。華やかな吟醸香とキレのある味わい。原料米は山田錦。仕込み水は月山の伏流水。蔵元の「小屋酒造」は文禄2年(1593)創業で県内最古。所在地は最上郡大蔵村大字清水。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「絹」の解説

きぬ

?-? 奈良時代の歌人。
男性の名の略称か,女性の名かは不明で,伝記も未詳。「万葉集」巻9に,大和吉野郡六田(むつた)(奈良県吉野町)付近の六田の川(吉野川)をうたった歌1首がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「絹」の意味・わかりやすい解説


きぬ

絹織物

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【紙】より

…これが〈竹簡〉であり〈木簡〉である。現在,漢代の竹簡,木簡が中国本土はもとより新疆ウイグル自治区などの辺境で多数発見されているが,漢代になると白絹を書写の材料とすることが盛行した。白絹に文字や絵を書いたものを〈帛書〉〈帛画〉と呼んでいる。…

【生糸】より

…生糸の触感がやや粗硬なのは,表面がセリシンによって覆われているからで,生糸をセッケンや弱アルカリ水溶液で精練するとセリシンは溶解してフィブロイン繊維のみとなる。生糸は精練により表面が平滑となり,絹特有の柔軟さ,優美な光沢,絹鳴りなどを生じる。製糸や絹加工は,前に述べた繭糸の二重構造とセリシンの熱水溶解性を巧みに利用して行われ,さまざまな絹織物が作られる。…

【絹市】より

…絹を主として取引する市。江戸時代,関東西部の織物生産地帯では,都市の問屋が市を,その地の織物を仕入れる機会として利用した。…

【絹織物】より

…経糸(たていと),緯糸(よこいと∥ぬきいと)に絹糸を用いて織りあげた織物の総称。中国で創出されたもので,高価な貴重品として,古来シルクロードの主要な交易品目に数えられ,古代ローマでは同じ目方の金と取引された。…

【着物】より

…袖は寛文・延宝(1661‐81)のころ7~8寸(21~24cm),貞享(1684‐88)に1尺(約30cm)となり,元禄(1688‐1704)以後さらにのびたが,1尺3寸が限界であった。寛永(1624‐44)ころ一部の伊達(だて)者が袖口を長くし,紅絹(もみ)の肌着をまとったが,これも風俗化せず,一時の流行でおわった。 男の着物の装飾は,形よりも材料,染色,模様に重点がおかれたが,それらは封建社会の身分制と結びついて,装飾そのものを支配した。…

【繊維】より

…中国では4000~5000年前の新石器時代の住居跡から糸紡ぎ用の紡錘車や裁縫用の骨製針が出土している。絹織物は中国,インド,日本において有史以前より技術が発達し,ヨーロッパへは6世紀ころから輸出され,その通商路はシルクロードとして有名である。毛織物は,獣皮のままの利用が長く続いたので,他の繊維よりやや利用は遅く始まり,ヘブライ人が最初に作ったとされ,ペルシアおよびローマに伝わり,さらに11世紀にイギリスへ技術が渡った。…

【有職織物】より

…経糸と緯糸によって作られる織物の四原組織のうち繻子(しゆす)組織を除くすべて,平組織(平織),斜文組織(),綟り(もじり)組織(綟り織)を網羅し,それぞれの組織の中にもさまざまな風合いのものがみられる。 平織では絹,絁(あしぎぬ),縑(かとり),練緯(ねりぬき),精好(せいごう)などが挙げられ,絹は上質の生糸を用いて織ったもの,絁は絹よりやや質の落ちる太細のある糸で織ったもの,縑は上質の生糸を精密に固く織ったものとされている。以上は経緯とも生糸で織り,生絹(すずし)と呼ばれてそのまま使うか,それを練って練絹として用いる。…

※「絹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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