日本大百科全書(ニッポニカ) 「綿」の意味・わかりやすい解説
綿
わた
棉とも書く。綿の繊維は被服材料を主に綿織物、充填(じゅうてん)材(詰め物)および衛生材料に用いられる。ワタは植物分類学上ではアオイ科に属しアメリカワタ、エジプトメン、ペルーメン、ブラジルメン、アジアメン(インドメン、中国メン)などがある。
ワタはだいたい0.6~1.2メートルに生育し花をつける。実は蒴果(さくか)で、これが成熟すると割れて真っ白な種子毛繊維(綿花(めんか))が現れる。これを摘み取り、種子と繰り綿とに分離し、さらに種子についている短い繊維をとる。この短い繊維はコットンリンターといい、レーヨン、アセテートの原料として用いられる。種子からは綿実油(めんじつゆ)をとる。繰り綿はほぐされ、古くは綿打ちを行ったが、近年はカード打ちにより莚綿(えんめん)し、ふとん、衣服の充填材などに用いられる。綿繊維はセルロース(繊維素)からなり、繊維長は短いもので25ミリメートル、長いもので40ミリメートルである。長い繊維は細く、短い繊維は太い。太く短い繊維はふとん綿、中入れ綿に用い、細い繊維は青梅綿(小袖(こそで)綿)に用いる。綿繊維の形態は両端がやや厚く扁平なリボン状をしており、緩やかなねじれがある。ねじれは紡績のとき柔軟性をもち可紡性を高め、中空は気孔率を高くし保温性を増す。さらに吸湿性、吸水性があり、大気中の状態に適応する特徴がある。細く長い繊維は糸に紡ぐのに用い、綿織物の織糸として用いる。また強度はかなり大きいが伸度は小さく、乾いた標準状態よりもぬれた状態のほうが強度が大で、洗濯に対してじょうぶである。「わた」は綿花の輸入以前はほとんど真綿(繭綿)をさしていた。綿花は平安時代初期に大陸より伝わったとされているが、まもなく中絶した。15世紀中ごろ、中国大陸、南蛮よりワタの種が入ってきて試作され、近世中期には東北、北陸を除いて全国的に普及した。とくに尾張(おわり)、三河、瀬戸内(讃岐(さぬき)、伊予、安芸(あき)など)、河内(かわち)、摂津で集荷され、その組織も整うようになった。しかし1896年(明治29)には、外国よりの綿花の輸入に押されて生産が止まり、それ以後は今日に至るまですべて輸入に頼っている。
綿には木綿綿(もめんわた)のほかに、真綿、絹綿、羊毛綿、カポック綿(パンヤ)、合繊綿、羽毛などがある。真綿は、玉繭を煮て方形または袋状に延ばしたもので、繊維が強く、切れることがなく、光沢があり、保温性に富んでいる。敷真綿として用いられる以外に、近年背中の大きさくらいにした袋真綿が、防寒用として老人などに好まれている。絹綿は、繭のけばや屑繭(くずまゆ)を用いたもので、保温性に富み軽く、掛けぶとんに用いるとよい。羊毛綿は、梳毛(そもう)を用い防虫加工をしたもの。弾力性、保温性が大きく掛けぶとん用に向く。カポック綿は「きわた」ともいい、インド、熱帯アフリカ、南アメリカに産する低木カポックノキの種子毛繊維で、紡績の原料としては不向きである。おもに枕(まくら)、クッション、椅子(いす)などの家具用の詰め物に用いる。また弾力性に富み、比重が小さいので、救命具の詰め物に用いられている。合繊綿には、テビロン綿、ナイロン綿、アクリル綿、ポリエステル綿などがあり、軽量で容積が大きく、含気性に富み保温性が大きいが、圧縮性が大きく、また耐熱性が低いなどから敷きぶとん、こたつぶとんには向かない。もっぱら掛けぶとん用として用いられる。
木綿綿は充填材(詰め物)、綿織物(縞(しま)木綿、絣(かすり)木綿など)、衛生・医療用の脱脂綿として用いられる。なお工業用として、別にロックファイバー(岩綿)、アスベスト(石綿)、ガラス繊維の綿などがある。
[藤本やす]