萩(市)(読み)はぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「萩(市)」の意味・わかりやすい解説

萩(市)
はぎ

山口県北西部、日本海沿岸の農林水産、観光都市。1932年(昭和7)市制施行。1955年三見(さんみ)、大井(おおい)、見島(みしま)、六島(ろくとう)の4村を編入。2005年(平成17)田万川(たまがわ)、須佐(すさ)の2町および川上むつみ、旭(あさひ)、福栄(ふくえ)の4村と合併した。面積は合併前の138.26平方キロメートルから698.31平方キロメートルと5倍に拡大した。従来の萩平野を中心とした地域に加えて、南の中国山地の支脈をなす山地帯、東の阿武(あぶ)台地、さらにその北の島根県境までを含めている。大島、相島(あいしま)、見島など日本海の離島を有する。人口4万4626(2020)。沿岸部をJR山陰本線と国道191号が走り、国道262号が南へ延びて山陽沿岸の山口、防府(ほうふ)両市へ通じている。また、萩・三隅道路が通り、国道490号が宇部市に通じ、315号が周南市に通じる。

三浦 肇]

歴史

市域北部の大井は弥生(やよい)・古墳期の遺跡が多く分布し、条里遺構も残っていて、阿武国造(くにのみやつこ)の本拠といわれる所。『和名抄(わみょうしょう)』には阿武、椿木(つばき)、三島(みしま)の郷名がみられる。萩から約45キロメートル沖合いの離れ島見島にはジーコンボとよばれる7~10世紀の特異な古墳群があって、国指定史跡となっている。萩三角州平野は古代後期になって牛牧庄(うしまきのしょう)として開かれ、中世には川島庄とよばれていた。近世初頭、防長二国に封じられた毛利輝元(もうりてるもと)が指月(しづき)山南麓(ろく)に居城を構え、三角州平野に新しく城下町を建設、しだいに市街の発達をみ、城下58町が成立し、幕末における人口は3万人以上に達した。その主要部は平野の北半部の高燥地に立地し、中央部は長く低湿地として残り、しばしば洪水被害を受けたので、新堀川や藍場(あいば)川が開削された。幕末から明治維新にかけて吉田松陰(しょういん)、高杉晋作(しんさく)、伊藤博文(ひろぶみ)、木戸孝允(きどたかよし)など多くの人材が輩出し、現在もその旧宅が保存され国の史跡に指定されているものも多い。1863年(文久3)藩庁の山口移転後はしだいに衰微し、明治以降もほとんど近代工業の発達をみず、市制施行後も人口の変動は少なく、県北部の地方的中心都市にとどまっている。田(た)町、唐樋(からひ)町、御許(おもと)町に商店街地区、土原(ひじはら)、江向(えむかい)一帯に官公庁地区を形成し、人口集中地区となっている。

[三浦 肇]

産業

かつて農産の首位を占めたナツミカンは近年著しく減産したが、なお城下町萩の代表果樹である。沿岸には大型延縄(はえなわ)漁船の母港越ヶ浜(こしがはま)、玉江浦(たまえうら)のほか、大井の湊(みなと)や浦(うら)、小畑(おばた)、鶴江、三見浦(さんみうら)、見島など漁村が多く、萩漁港の水揚げ高は年5000トンを超え、水産加工では焼き抜きかまぼこを特産する。伝統工芸としては萩(長州)藩御用窯として発達した萩焼があり、長く茶陶としての技法を伝え、三輪(みわ)窯、坂窯など100近くもの窯元があり、優れた陶芸作家も輩出している。現在では茶器のほかに、花器、酒器、食器など多種類の製品がつくられている。北部の田万川地域ではタイやハマチ養殖、須佐地域ではイカの一本釣り漁業が行われている。中部のむつみ地域ではダイコン、福栄地域では高原野菜栽培が盛ん。南部の川上、旭両地域は農林業が主産業で、良材を産出する。

[三浦 肇]

観光・文化財

沿岸一帯は北長門(きたながと)海岸国定公園に含まれ、複式小火山の笠山(かさやま)、海跡湖の明神池(みょうじんいけ)、海水浴場の菊ヶ浜海岸、玄武岩島群の六島諸島など自然の景観に優れる。また萩城跡松下村塾(しょうかそんじゅく)、東光寺、毛利家墓所など多くの史跡をもち、厚狭(あさ)毛利家萩屋敷長屋、口羽(くちば)家住宅、菊屋家住宅(ともに国指定重要文化財)などの武家屋敷や商家の遺構がよく保存されている堀内、平安古(ひやこ)(ともに重要伝統的建造物群保存地区)、呉服町、南古萩(ふるはぎ)町の城下町景観(国史跡)、および松本川河口で廻船(かいせん)、水産業の商業地として発展した浜崎、農村でありながら萩往還の宿駅機能を有していた佐々並市(ささなみいち)の町並(ともに重要伝統的建造物群保存地区)は全国的に広く知られる。そのほか、福栄地域の森田家の住宅は国の重要文化財、川上地域のユズ、ナンテンの自生地は国の天然記念物に指定されている。また、須佐湾は北長門海岸国定公園の一中心をなしている。1996年(平成8)山口県立萩美術館・浦上記念館が開館した。異色の観光都市として2009年には年間220万の観光客が訪れている。

[三浦 肇]

世界遺産の登録

2015年(平成27)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として、萩反射炉、恵美須ヶ鼻(えびすがはな)造船所跡、大板山たたら製鉄遺跡、萩城下町、松下村塾が世界遺産の文化遺産に登録された。

[編集部]

『『萩市誌』(1959・萩市)』『『萩図誌』(1978・萩青年会議所)』『『萩市史』全3巻(1983~1989・萩市)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android