原子力規制委員会(日本)(読み)げんしりょくきせいいいんかい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

原子力規制委員会(日本)
げんしりょくきせいいいんかい

原子力の安全確保を一元的に担う日本の行政組織。英語名はNuclear Regulation Authorityで、略称NRA。原子力規制委員会設置法(平成24年法律第41号)に基づいて設置。2011年(平成23)3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の際、内閣府原子力安全委員会、経済産業省の原子力安全・保安院、文部科学省の放射線モニタリング部門、経済産業省所管の独立行政法人原子力安全基盤機構などの縦割り行政組織が危機回避に向けてうまく機能しなかった。この教訓を踏まえ、2012年9月、こうした行政組織を一元化し、環境省の外局として発足した。国家行政組織法第3条に基づく「三条委員会」とされ、政治や各省庁から高い独立性をもち、公正取引委員会や国家公安委員会などと同様に、予算や人事を独自に管理できる。アメリカやフランスなどでは原子力規制機関を、原子力推進機関から独立させるのが潮流になっており、日本も原子力規制委員会の発足により、これに近い体制となった。

 委員会は原子力発電関連の専門家である委員長と委員4人の計5人で構成し、合議制で方針や処分を決定する。任期は5年で、国会の同意を得て内閣総理大臣が任命する。初代委員長には、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めた田中俊一(1945― 。原子核工学専攻)が就任したが、野党の反対により国会の同意を得ない変則的発足となった。委員会傘下に事務局として原子力規制庁を置き、原子力発電所の検査などの実務を担う。発足時に、経済産業省や文部科学省などの職員約500人が原子力規制庁職員となった。規制庁の独立性を保つため、職員には原子力推進に関係する出身省庁へ戻れない「ノーリターンルール」を適用した。なお、原子力規制委員会所管の独立行政法人であった原子力安全基盤機構は2014年3月に廃止され、原子力規制庁に統合された。

 大災害やテロリズムなどで深刻な原発事故が起きた場合、原子力規制委員会が危機対応の要となり、原子炉格納容器から気体を放出する「ベント」のほか、原子炉への海水注入、自衛隊への出動要請などについて、危機回避に向けた指揮権全般をもつ。内閣総理大臣は原子力規制委員会の判断を覆すことはできず、危機に際し首相官邸は過剰介入できない仕組みとした。日本国内の原子力発電所再稼働の可否を判断する安全基準づくりのほか、周辺に活断層がある原子力発電所の調査・安全性の判断、原子力発電所の運転制限期間である40年後に廃炉にすべきかどうかの判断なども行う。既存の原子力発電所に、多重電源や排気システムなどの最新技術導入を義務づける「バックフィット制度」を適用し、不備があれば、原子力規制委員会が運転停止や廃炉を命じることができる。このほか原発事故に備えた防災指針づくり、自治体による避難訓練計画策定なども担う。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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