〘他カ下一〙 む・く 〘他カ下二〙
① 物をまわして、ある方向をさすように向きを変える。その方向へ正面が位置をとるようにさせる。
※万葉(8C後)二〇・四三九八「夕潮に 舟を浮けすゑ 朝なぎに 舳(へ)牟気(ムケ)漕がむと」
※落窪(10C後)一「女、こなたのかたにうしろむけて、持たる物を折」
※書紀(720)神代上(丹鶴本訓)「如し吾在(あ)らさらましかは、汝(いまし)何そ能く此の国を平(むケ)む」
③ 神、霊などに供えものをささげて祈る。たむける。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
※日葡辞書(1603‐04)「マウジャニ ミヅヲ muquru(ムクル)」
④ その方角をめあてにする。目的地として、その方角を位置づける。目ざす。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)二「王子朝をせめたほどに楚へむけてにげていなれたぞ」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉一九「岡田は〈略〉足を二三歩その方へ向(ム)けた」
⑤ ある対象・目的・用途にそれをあてる。ふりむける。ふりあてる。充当させる。
※名語記(1275)三「をるを、他人に、むけては、をれ也」
※為兼和歌抄(1285‐87頃)「詞は三代集の中にてたづぬべくとも教へ、深く入りたる人にむけては、又かはる事多し」
⑥ ある所へ行かせる。やる。さしつかわす。さしむける。
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「親久を召て、内裏には兵を此方へむけられ候ふべきか」