差す(読み)サス

デジタル大辞泉 「差す」の意味・読み・例文・類語

さ・す【差す/指す】

[動サ五(四)]
(差す)
㋐(「射す」とも書く)まっすぐに光が照り入る。光が当たる。「西日が―・す」
㋑潮が満ちてくる。また、水が増して入り込む。しみ込む。「潮が―・す」「氾濫した川の水が床下まで―・してきた」「井戸に廃水が―・す」
㋒何かのしるし・気配などが自然と外に現れる。「ほおに血の気が―・す」「景気にかげりが―・す」
㋓ある種の気分・気持ちが生じる。きざしてくる。「眠けが―・す」「魔が―・す」「気が―・す(=気がとがめる)」
㋔平熱より高くなる。熱が出る。「熱が―・す」
㋕枝や根が伸び広がる。草木が伸びて出る。「枝葉が―・す」
(指す・差す)
㋐指などで目標とする物や場所・方向を示す。指さす。「指で―・して教える」「後ろ指を―・される」「時計の針が七時を―・している」
㋑人や物をそれと決めて示す。指名する。また、密告する。「文中のそれは何を―・しますか」「生徒を―・して答えさせる」「犯人を警察に―・す」
㋒その方向へ向かう。目ざす。「南を―・して飛ぶ」
物差しで寸法を測る。
縦横の寸法を―・してみた」〈三重吉・桑の実〉
㋔指物を作る。
㋕将棋で、駒を動かす。また、対局する。「将棋を―・す」「一局―・す」
㋖物を手で持って上げる。両手で高く上げる。「米俵を―・す」
㋗傘などをかざす。
㋘肩に担ぐ。になう。「駕籠かごを―・す」
㋙舞で、手を前方に伸ばす。「―・す手引く手」
㋚相撲で、相手の脇の下に手を入れる。「右を―・す」
㋛競馬などで、ゴールの直前で先行するものを追い抜く。「―・して首の差で勝つ」

㋐雲などが、立ちのぼる。
「八雲―・す出雲の児らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ」〈・四三〇〉
㋑さしつかえる。
「ちとお寺に―・す事ある」〈浄・薩摩歌
[可能]させる
[補説]「指す」「差す」「射す」「刺す」「注す」「点す」「挿す」「鎖す」などと、いろいろに漢字が当てられるが、本来は同一の語。
[下接句]嫌気が差す影が射す気が差す図星を指すたなごころを指す鳥影とりかげが射す魔が差す指一本も差させない指を差す
[類語]指差す指し示す示す名指す名指し指示指摘指定指名

さ・す【差す/注す/点す】

[動サ五(四)]
酒をすすめる。「杯を―・す」
ごく少量の液体をある部分にそそぎ入れる。「目薬を―・す」「ギヤに油を―・す」
液体をほかの液体や容器の中へ少し、または少しずつ加え入れる。「花瓶に水を―・す」「吹きこぼれないように冷水を―・す」
補い加える。つぎ足す。「炭を―・して火気を強める」
ある部分に色をつける。「べにを―・す」
しるしや訓点などをつける。「朱点を―・す」
火をともす。
「まづ紙燭しそく―・して」〈竹取
[可能]させる
[類語]注ぐ盛るよそう淹れる盛り付ける盛り込む盛り合わせる注ぎ込むぎ込む流し込む流れ込む注入注水注油

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「差す」の意味・読み・例文・類語

さ・す【差・指・射】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 サ行五(四) 〙 ( 「さす(刺)」と同語源 )
    1. [ 一 ] 人や物事を、それと決めて示す。
      1. 指や物でその方を示す。それと示すために、その方向へ指や物を伸ばす。指さす。
        1. [初出の実例]「多かりし人の中よりのびあがり見奉りて指(および)をさしてものを申しかば」(出典:大鏡(12C前)六)
      2. 目あてとしてその方へ向ける。目ざす。
        1. [初出の実例]「鶴(たづ)が鳴き葦辺を左之(サシ)て飛び渡るあなたづたづし独りさ寝(ぬ)れば」(出典:万葉集(8C後)一五・三六二六)
        2. 「四条よりかみさまの人、皆北をさして走る」(出典:徒然草(1331頃)五〇)
      3. それとはっきり定める。指定する。指名する。
        1. [初出の実例]「兵衛の尉はなれてのち、臨時の祭の舞人にさされていきけり」(出典:大和物語(947‐957頃)一一三)
        2. 「見脈にして病を指(サ)す」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)前)
      4. 派遣するために任命する。また、ある役目に定めて派遣する。
        1. [初出の実例]「ふたほがみ悪しけ人なりあた病(ゆまひ)わがする時に防人(さきもり)に佐須(サス)」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三八二)
        2. 「農夫田舎のわざなれば、庭の夫にさされ、なくなく京へのぼりつつ」(出典:幸若・いるか(室町末‐近世初))
      5. その人と名を示して、評判する。また、密告する。
        1. [初出の実例]「彼御謀叛の御談合の人数にやさされ給ひけん、三井寺まで流され」(出典:随筆・戴恩記(1644頃)下)
      6. 事実をそれと推測する。言いあてる。
        1. [初出の実例]「取って見しょ・としさいてみや丸頭巾」(出典:雑俳・西国船(1702))
    2. [ 二 ] 手で物を上にあげる。
      1. 両手であげて持つ。
        1. [初出の実例]「其勢百騎ばかり旗ささせて下る程に」(出典:平家物語(13C前)一二)
        2. 「イシヲ sasu(サス)〈訳〉重い石を手で頭上にあげる」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
      2. かさなどを持って、それで身をおおう。かざす。
        1. [初出の実例]「飛ぶ車一ぐしたり。羅蓋さしたり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      3. 額などの前に手をさしかける。
        1. [初出の実例]「マカゲヲ sasu(サス)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      4. 肩にかつぐ。「駕籠をさす」
    3. [ 三 ] 手などを前の方に伸ばす。
      1. 手や足を前方に伸ばす。
        1. [初出の実例]「手を指し、足を動かす事、師の教へのままに動かして」(出典:花鏡(1424)動十分心動七分身)
      2. 碁で、石を置く。また、将棋などで駒を動かす。
        1. [初出の実例]「碁打ち果てて、けちさすわたり、心とげに見えて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)空蝉)
      3. 物さしを当ててはかる。
        1. [初出の実例]「今のまに雪の厚さを指てみる〈孤屋〉 年貢すんだとほめられにけり〈芭蕉〉」(出典:俳諧・炭俵(1694)上)
        2. 「縦横の寸法を測(サ)して見た」(出典:桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉二五)
      4. ( から転じて ) 箱、たんすなどを作る。
        1. [初出の実例]「イレモノ ハコナドヲ sasu(サス)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
        2. 「経箱をささせ角(すみ)をとり」(出典:咄本醒睡笑(1628)三)
      5. 手などで押す。また、触れる。
        1. [初出の実例]「成村は前俗衣と喬(そば)の俗衣のかはとを取て、恒世が胸を差(さし)て只絡(からみ)に絡(からめ)ば」(出典:今昔物語集(1120頃か)二三)
        2. 「『大切な物を、手さすな手さすな』トいひいひ片付ける」(出典:歌舞伎・桑名屋徳蔵入船物語(1770)三)
      6. そろばんの玉を指で押し上げて、数を加える。
        1. [初出の実例]「算盤の珠をさしたり減(ひ)いたり」(出典:雲は天才である(1906)〈石川啄木〉一)
      7. 相撲で、相手の脇腹と腕の間に手を入れる。
        1. [初出の実例]「立上るや否や直に左を差して褌(みつ)を取り」(出典:相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉常陸山、梅ケ谷時代の壮観)
    4. [ 四 ] 張りめぐらしたり、組んだり、結んだりして設けかまえる。
      1. 張り渡す。
        1. [初出の実例]「橘のにほへる園にほととぎす鳴くと人告ぐ網佐散(ササ)ましを」(出典:万葉集(8C後)一七・三九一八)
      2. (いおり)、またはその一部を造る。
        1. [初出の実例]「いほりさす(なら)木陰にもる月の曇ると見れば時雨降るなり〈瞻西〉」(出典:詞花和歌集(1151頃)冬・一五〇)
      3. 帯、紐などを結ぶ。
        1. [初出の実例]「この帯をさす事、大嘗会・今年の内宴になんさしつる」(出典:宇津保物語(970‐999頃)忠こそ)
        2. 「手械足枷を入れ、首に綱をさし、土の籠(ろう)にぞこめられける」(出典:曾我物語(南北朝頃)五)
      4. 弓の弦を作る。
        1. [初出の実例]「引かたぬきて弓弦指つきて居たりける所に」(出典:延慶本平家(1309‐10)四)
        2. 「わがさいた弦(つる)ならば引かばやわり来ひやれ」(出典:歌謡・田植草紙(16C中‐後)晩哥壱はん)
      5. 矢をつがえる。
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 サ行五(四) 〙 ( 「さす(刺)」と同語源 )
    1. ( 射 ) 光が照ってはいり込む。また、光が照って物に当たる。
      1. [初出の実例]「上毛野(かみつけの)まぐはしまとに朝日左指(サシ)まきらはしもなありつつ見れば」(出典:万葉集(8C後)一四・三四〇七)
      2. 「夜涼やむかひの見世は月がさす〈里圃〉」(出典:俳諧・続猿蓑(1698)夏)
    2. 草木がもえ出る。また、枝が伸び出る。
      1. [初出の実例]「滝の上の 御舟の山に 瑞枝(みづえ)(さし)(しじ)に生ひたる 栂(とが)の樹の」(出典:万葉集(8C後)六・九〇七)
      2. 「若葉さす野辺の小松をひきつれてもとのいはねを祈る今日かな」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
    3. 勢いよく立ちのぼる。
    4. 潮がみちてくる。
      1. [初出の実例]「わかの浦に月のいでしほのさすままによるなく鶴の声ぞかなしき〈慈円〉」(出典:新古今和歌集(1205)雑上・一五五六)
    5. 熱、色などが表に出てくる。
      1. [初出の実例]「ネッキガ sasu(サス)〈訳〉熱がだんだん出てくる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「蒼味の注(サ)した常の頬に」(出典:行人(1912‐13)〈夏目漱石〉帰ってから)
    6. 火が出る。失火する。
      1. [初出の実例]「首座寮指火、皆出合撲滅之」(出典:蔭凉軒日録‐長享元年(1487)一二月二六日)
    7. ねむけ、いやけ、ある種の気持などが知らないうちに生じる。きざしてくる。
      1. [初出の実例]「じひ心さしこそせずとも、せめて寺参りなり共せうとて参る」(出典:咄本・山岸文庫本昨日は今日の物語(1614‐24頃))
      2. 「直に魔のさすと言なア世の中の当然だから」(出典:滑稽本・七偏人(1857‐63)三)
      3. 「いい心持になって眠気がさしたから」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉二)
    8. 姿や影などがちらっと現われる。
      1. [初出の実例]「鳥影のさすを見るに付けても」(出典:人情本・恩愛二葉草(1834)初)
    9. さしつかえる。さしさわりがある。江戸時代の遊里などにおいて、先客が既にあって支障がある。
      1. [初出の実例]「少(すこし)もさすあひてはいふにおよばず」(出典:仮名草子・都風俗鑑(1681)三)
    10. 手ぬかりがある。油断する。
      1. [初出の実例]「『何ぞお和物(かず)になるものが』〈略〉『へへさすものぢゃないワイ、大方今夜要らうと思うて』」(出典:歌舞伎・伊達競阿国戯場(1778)三つ目)
    11. ( 「気がさす」の形で ) 気がとがめる。落ち着かなくなる。
      1. [初出の実例]「已むを得ず書見は始めたが、気が侵(サ)して読むではゐられぬ」(出典:多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前)
    12. ( [ 一 ][ 一 ]から転じたものか ) 歩いて行く。また、速く歩く。〔名語記(1275)〕

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