行政官庁が人の身体の自由を拘束する制度で,旧憲法下の旧行政執行法(1900公布)で認められた即時強制の一手段。ドイツ法制のVerwahrungにならって制度化された。行政執行法は,行政官庁が,泥酔者,瘋癲(ふうてん)者,自殺を企てる者,その他救護を要すると認める者に対して検束を加えること(保護検束),および,暴行,闘争その他公安を害するおそれのある者に対して検束を加えること(予防検束)を認め,検束の期間は翌日の日没までに制限していた。この検束の制度は,人権思想の十分に確立されていなかった旧憲法の下で,警察による政治,思想,労働運動の弾圧の手段として濫用された。たとえば,警察当局が危険視する政治的集会に参加しようとする者を,警察署で検束し,一度釈放したのちただちにふたたび検束し,または,他の警察署へ身柄を送るなど,〈むし返し〉〈たらい回し〉などと称せられる脱法的な運用がなされた。新憲法の下で,このような検束を認めていた行政執行法は廃止され,新しく制定された警察官職務執行法は,かつての予防検束のようなものは認めず,保護検束にあたるものを〈保護〉と称して認めている。それによれば,警察官は,精神錯乱または泥酔のため,自己または他人の生命,身体または財産に危害を及ぼすおそれのある者,および,迷い子,病人,負傷者等で適当な保護者を伴わず,応急の救護を要すると認められる者を発見したときは,とりあえず,警察署,病院,精神病者収容施設,救護施設等で保護し,事後すみやかに家族等へ通知するなど所定の措置をとらなければならない。さらに,警察の保護は原則として24時間以内とされ,これを超える場合は簡易裁判所の裁判官の許可状を要する(許可される延長期間の限度は保護の時点から起算して5日以内)とされ,保護の制度が濫用されないようにはかられている(3条)。
執筆者:広岡 隆
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旧行政執行法(明治33年法律第84号)に規定されていた即時強制の一種。警察官が一時的に人の身体の自由を拘束して警察署など一定の場所に連行して留置することをいう。翌日の日没に至らない限度で検束を加えることができた。泥酔者、自殺を企てる者、その他救護を要すると認める者に対し必要な場合に行う保護検束と、暴行、闘争その他公安を害する虞(おそれ)のある者に対しこれを予防するため必要な場合に行う予防検束が認められていた(同法1条)。しかし、とりわけ予防検束について、一応、翌日の日没までとする期間限定が設けられていたものの、これを更新することで長期間の身柄拘束がなされ、思想運動や労働運動の弾圧に乱用される弊害を生じた。そのため行政執行法は1948年(昭和23)6月14日に廃止された(昭和23年法律第43号)。
現行の警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)では、「保護」という観念で保護検束にあたるものだけを規定し、厳重な要件と制限のもとにこれを認め、保護の時間も原則として24時間以内とされ、簡易裁判所の裁判官の許可状がある場合でも通じて5日以内に限られている(同法3条3項・4項)。予防検束は、むろん認められていない。
[内田一郎・田口守一]
字通「検」の項目を見る。
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