(読み)イ

デジタル大辞泉 「為」の意味・読み・例文・類語

い【為〔爲〕】[漢字項目]

常用漢字] [音](ヰ)(呉)(漢) [訓]なす する なる ため
行う。なす。する。「為政者有為うい・ゆうい営為行為作為所為人為天為無為むい・ぶい
[名のり]さだ・しげ・す・すけ・た・ち・なり・ゆき・よし・より
[難読]以為おもえらく為替かわせ所為せい為体ていたらく何為なんすれぞ・なにをかなす為人ひととなり

ため【為】

利益があること。役立つこと。「にならない本」「子供のを思う」
原因・理由。わけ。「雨のに延期する」
目的や期待の向かうところ。「健康のに運動をする」
一定の関係のあること。…にとっては。「私のには叔父にあたる」
[類語]利益便益益体一利裨益ひえき実利メリット・得る所

た【為】

ため。多く格助詞「に」または「の」を伴って用いる。
たつあれは求めむあをによし奈良の都に来む人の―に」〈・八〇八〉

す【為】

[動サ変]す(為)る」の文語形

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精選版 日本国語大辞典 「為」の意味・読み・例文・類語

する【為】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 サ行変 〙
    [ 文語形 ]〘 自動詞 サ行変 〙 なんらかの動きやけはいが現われる。
    1. (からだや心のある状態、また、ある外界の刺激や自然現象などが)起こる。また、起こったのが感じられる。
      1. [初出の実例]「われのみや夜船は漕ぐと思へれば沖への方に楫(かぢ)の音須(ス)なり」(出典:万葉集(8C後)一五・三六二四)
      2. 「些し頭痛がするから」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)
    2. ある状態になる。また、ある状態である。
      1. [初出の実例]「旅に之(シ)て物思ふ時にほととぎすもとなな鳴きそ吾が恋まさる」(出典:万葉集(8C後)一五・三七八一)
      2. 「とうとう根気負がして黙って仕舞った」(出典:行人(1912‐13)〈夏目漱石〉帰ってから)
    3. ( 「…む(ん)とす」「…う(よう)とする」などの形で ) もう少しで、ある作用が起こりそうな状態になる。また、もう少しであることをしそうな状態になる。
      1. [初出の実例]「狭井河よ 雲立ち渡り 畝火山 木の葉さやぎぬ 風吹かむと須(ス)」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「入道かたぶけうどするやつがなれるすがたよ」(出典:平家物語(13C前)二)
    4. ( 時を表わす語のあとに付けて ) 時間がたつ。「もう一週間もすれば」「しばらくすると」
      1. [初出の実例]「後三日か五日かして其人を挙て此官に除せられよ、我は退べし」(出典:史記抄(1477)一五)
      2. 「暫らくしてから『まづ兎も角も』と気を替へて、懐中して来た翻訳物を取出して読み初めた」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)
    5. ( 金額などを表わす語のあとに付けて ) …の金額である。…の価値がある。「千円する本」「いくらした?」
      1. [初出の実例]「かみにつつみても、万疋もする物じゃと云程に、心得てかうてこひ」(出典:虎明本狂言・粟田口(室町末‐近世初))
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 サ行変 〙
    [ 文語形 ]〘 他動詞 サ行変 〙
    1. ある動作や行為を行なう。
      1. [初出の実例]「呉床居(あぐらゐ)の 神の御手もち 弾く琴に 儛(まひ)須流(スル)女 常世にもかも」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「あさましういみじけれど、声をだにせさせ給はず」(出典:源氏物語(1001‐14頃)浮舟)
    2. ( 形容詞連用形、助詞「に」「と」などのあとに付けて )
      1. (イ) ある状態、あるものにならせる。
        1. [初出の実例]「梅の花咲きたる園の青柳はかづらに須(ス)べく成りにけらずや」(出典:万葉集(8C後)五・八一七)
        2. 「男ならば、大臣の子とせよ。女ならば、わが子にせん」(出典:大鏡(12C前)五)
      2. (ロ) あること、あるものを選びとる。「休憩にする」「私は紅茶にする」「そろそろお茶にしよう」
    3. ( 形容詞の連用形、助詞「に」「と」などのあとに付けて ) ある状態だと見る。そう考える、感じる。
      1. [初出の実例]「われはもや安見児得たり皆人の得難(えがて)に為(す)といふ安見児得たり」(出典:万葉集(8C後)一・九五)
      2. 「ちごをわりなうらうたきものにし給ふ御心なれば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)松風)
    4. ( のうち、特に ) ある物を作る。
      1. [初出の実例]「この平張(ひらばり)は川にのぞきてしたりければ」(出典:大和物語(947‐957頃)一四七)
      2. 「然れば、衣食極て難く成て、若し求め得る時は自(みづから)して食ふ」(出典:今昔物語集(1120頃か)一六)
    5. ある様子・状態を表わす。
      1. [初出の実例]「うるはしきすがたしたるつかひにもさはらじ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「見て見ぬ風をしてゐるらしい」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
    6. ある位置、方向にあるように保つ。
      1. [初出の実例]「もとより究竟の城也。盤石峙ちめぐって四方に峯をつらねたり。山をうしろにし、山をまへにあつ」(出典:平家物語(13C前)七)
      2. 「客の頭髪の上にバリカンを手にした職人が人の通る通りを振返った」(出典:あきらめ(1911)〈田村俊子〉二)
    7. 身につける。
      1. [初出の実例]「鉢巻をして鎌倉と書かかり」(出典:雑俳・柳多留‐五三(1811))

為の語誌

( 1 )「ある」が存在性を叙述するのに対して、「する」は最も基本的に作用性・活動性を叙述すると見られる。
( 2 )活用について( イ )口語の未然形には、打消の「ず」「ぬ」が付くときの形「せ」のほか、打消の「ない」が付くときの形「し」がある。また、使役や受身が付くとき、多く「させる」「される」となるが、その「さ」も未然形として扱うことが多い。( ロ )打消の「ず」が付くとき、「せ」でなく「し」となる場合もある。「浮雲〈二葉亭四迷〉三」の「軽躁な者は軽躁な事を為まいと思ったとて、なかなか為(シ)ずにはをられまい」、「足袋の底〈徳田秋声〉四」の「顔を赧(あか)めることすらしずに」など。( ハ )命令形は、古くから「せよ」が使われて今日に至っているが、室町時代ごろから「せい」が、江戸時代以降は「しろ」が使われるようになる。また、これらの命令形は、放任の意にも用いられることがある。→せよしろ( ニ )過去の助動詞「き」へ続ける場合は変則で、終止形「き」には連用形の「し」から、連体形「し」および已然形「しか」には未然形の「せ」から続く。すなわち、「しき」「せし」「せしか」となる。
( 3 )複合形について( イ )名詞や、形容詞・動詞の連用形などに付いて複合動詞を作る。「恋する」「心する」(和語)、「決する」「害する」(一字の漢語)、「研究する」「演説する」(二字の漢語)、「善くする」「全うする」(形容詞連用形)、「尽きす」「絶えす」(動詞連用形)など。( ロ )明治期には、西洋由来の外来語の動詞などに「する」が付けられるようになり、「スリイプする」「プレイ(放蕩)する」「ボルロウ(借用)する」〔当世書生気質坪内逍遙〉〕などが見られる。( ハ )昭和初期に「科学する心」という表現が問題にされたことがあるが、これは「科学」を動作性のないものとして、「する」との複合を不適当とする論であった。( ニ )一字の漢語に複合する際、「する」がザ行になるものがある。「命ずる」「応ずる」「案ずる」「減ずる」など。また、口語として「察しる」「命じる」「案じる」などのように、一段活用に転じても用いられる。( ホ )形容詞から派生した動詞では、「うとみす→うとんず」「かろみす→かろんず」などが主として漢文訓読体で用いられ、和文体の「うとむ」「かろむ」などに対応する。
( 4 )動詞の連用形に助詞「は」「も」「ぞ」「や」「など」「でも」「さえ」などを添えたもの、動詞の連用形を重ねたもの、並列を表わす「なり」「たり」を添えたもの、などの下に付けて叙述を助ける働きをする場合も多い。
( 5 )下に助詞の「て」が付いた形「して」は、動詞としての実質的な意味がほとんどなくなって用いられる場合が多い。「して」のほか、「ずして」「として」「にして」「をして」「からして」「よりして」などの形をとる。→して
( 6 )「文殊楼の軒端のしろじろとしてみえけるを」〔平家‐二〕のように、接続助詞の「して」が状態性を表わす副詞に続くことはしばしば見られるが、この「し」がサ変動詞として活用するようになり、中世では、「日もてらぬときは海棠の花がいっきりとする」〔中華若木詩抄‐下〕という例が見られる。近世に入ると、「むっとする」、「はっとする」、「そはそはする」など「する」の複合語多数用いられるようになる。


ため【為】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 助詞「が」「の」の付いた体言、または用言の連体形に接続し、形式名詞として用いることが多い。「に」を伴うこともある。
    1. 「ため」の上にくる言葉が、下にのべる恩恵、利益を受ける関係にあることを示す。…の利益となるように。また、利益。利得。便益。
      1. [初出の実例]「御足跡作る 石の響きは 天に到り 地(つち)さへ揺すれ 父母が多米(タメ)に 諸人の多米(タメ)に」(出典:仏足石歌(753頃))
    2. ( 利益を期待するところから転じて ) 行為などの目的を表わす。めあて。…という目的で。
      1. [初出の実例]「龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来む丹米(たメ)」(出典:万葉集(8C後)五・八〇六)
    3. 「ため」の上の語が、下の事柄と、かかわりをもつことを示す。…にとっては。…に関しては。
      1. [初出の実例]「仮令後に帝と立ちて在る人い、立ちの後に汝乃多米仁(いましのタメに)礼無くして従はず、なめく在らむ人をば」(出典:続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月九日・宣命)
      2. 「世の中にさらぬ別れのなくも哉千世もといのる人の子のため」(出典:伊勢物語(10C前)八四)
    4. 「ため」の上の語が、その行為をこちらに及ぼした主体であることを示す。下に受身表現を伴うことが多い。…の行為によって。…によって。
      1. [初出の実例]「此の鳥(きし)下来(とひきた)り天稚彦の為(たメ)に射(い)られ其(そ)の矢(や)に中(あた)りて」(出典:日本書紀(720)神代下(寛文版訓))
    5. 「ため」の上の語が、下の事柄の理由や原因になっていることを示す。ゆえ。わけ。せい。
      1. [初出の実例]「人に捨られて寒の為に死ぬべかりき」(出典:今昔物語集(1120頃か)二)
  3. [ 二 ] 修飾語を受けない用法。
    1. 利益となること。また、利益になることを言ってやること。忠言。忠告。また、その人を思っているように見せかけて言うこと。おためごかし。
      1. [初出の実例]「コレワ votame(ヲタメ) デ ゴザル」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「もしこなたの説せらるる所と違ひまして、見て為(タメ)にわるいやら」(出典:坐談随筆(1771))
    2. 下心(したごころ)。利己的な目的。→ためにする
    3. 数字の「四」をいう、露天商・賭博・盗人仲間の隠語。〔隠語輯覧(1915)〕
      1. [初出の実例]「先づ商売に必要な一二三から始めるかナ。一ヤリ、二フリ、三カチ、四タメ、五シズカ」(出典:わが新開地(1922)〈村島帰之〉六)

【為】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 行ない。行為。
    1. [初出の実例]「抑も過去の満足に安んずるは智ある国民の為(ヰ)にあらず」(出典:戦後の文学(1895)〈内田魯庵〉)
  3. 箏の琴の第一二番弦の名。→斗為巾(といきん)。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
  4. 尺八の語。明暗流で、尺八の第三・第四・第五の三孔を開く指法。琴古流および都山流では「ひ」という。

しる【為】

  1. 〘 他動詞 サ行上一 〙 「する(為)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「病を問はせられうとしられたれば皆辞退してゆかれぬ程に」(出典:四河入海(17C前)一〇)
    2. 「モシそのあかいくしはいくらしるのし」(出典:滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)七)

す【為】

  1. 〘 自動詞 他サ行変格活用 〙する(為)

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普及版 字通 「為」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

(旧字)爲
人名用漢字 12画

[字音] イ(ヰ)
[字訓] なす・つくる・おもう・まねる・ため

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 会意
象+手。〔説文〕三下に「母猴なり」とし、猴(さる)の象形とするが、卜文の字形に明らかなように、手で象を使役する形。象の力によって、土木などの工事をなす意。

[訓義]
1. なす、なる、もちいる、おさむ。名詞として、しわざ、わざ。
2. つくる、施す。
3. ~を~となすを、思考の上に及ぼして、おもう、いう。
4. 模倣的な行為に及ぼして、まなぶ、まねる。
5. 同一の関係を示す動詞、たり。
6. 介詞として、ため、ために。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕爲 母猴なり。ナス・ス・スルトコロ・セヌカ・シカスル・ツクル・シワザ・ヲコス・タスク・エラブ・マナブ・マネス・タリ・タメニ・タツ/以爲 オモヘラク・オモミル・―トオモヘリ・オモヒテ/無爲 アヂキナシ/爲 イカバカリ・イカスルヲカ/奚爲 イカガ/何爲 イカシテカ 〔字鏡集〕爲 ス・イハク・タリ・シワザ・タスク・ナス・シロシ・ヲコス・タメニ・シケ・ハタ・タツ・シク・オモフ・ヌル・マナブ・スル・ヲサム・ナリ・ツクル・タメ

[声系]
〔説文〕に譌・僞(偽)・など爲声十一字を収める。爲hiuai、僞ngiuai、譌nguaiは声義が近い。それで為・偽を通用することもあり、〔詩、唐風、采〕「人の爲言」は「譌言(くわげん)」、また〔書、尭典〕の「南僞」を〔史記〕に引いて「南爲」に作る。

[語系]
爲hiuai、曰hiuat、以・于jia、於aは声近く、通用することがある。

[熟語]
為我・為学・為間・為己・為言・為後・為国・為詐・為作・為寿・為政・為善・為人
[下接語]
以為(おもえらく)・云為・営為・何為(なんすれぞ)・敢為・行為・作為・施為・所為・人為・擅為・天為・当為・無為・有為

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