やく【役】
〘名〙
① 国家が
人民に課した
労役。公役
(くやく・こうえき)。
賦役(ぶやく・ぶえき)。えだち。えき。
※宇治拾遺(1221頃)四「篤昌を役に催しけるを」
※玉塵抄(1563)二〇「牌をかいて高う舟にさしあげてとをったぞ、舟の
やくなどをのがれたか」
③ 江戸時代、
伝馬役・助郷役・百姓役など
課役の略。
※地方凡例録(1794)五「鎰役之事鎰役と云は、古昔は総て役を掛るに物の訳定らざるを、石高免状と云事もなく」
※宇津保(970‐999頃)国譲下「公卿たちに、やくつかうま
つらせん」
※
洒落本・傾城買四十八手(1790)やすひ手「おめへがたのむつごとをきく役
(ヤク)だね」
※
源氏(1001‐14頃)須磨「しほ垂るることをやくにて
松島に、年ふるあまもなげきをぞつむ」
⑥
能楽や
演劇などで各役者の受け持って扮する役目。芸の担当。
※申楽談儀(1430)
勧進の舞台、翁の事「面箱のやく 幼きには
斟酌せさすべし」
※洒落本・南極駅路雀(1789)「『ゑてになるといつでもあれよ』〈略〉ゑてといふはやくになっているといふ事也」
え‐だち【役・
】
〘名〙 (
動詞「え
だつ(役)」の連用形の名詞化。
古くは「えたち」か)
① 古代、
大和政権が人民に課した労役。特に令制においては歳役
(さいえき)、雑徭
(ぞうよう)をいう。
※書紀(720)仁徳一一年是歳(前田本訓)「新羅人朝貢
(みつきたてまつ)る。則ち是の
(エタチ)に労
(つか)ふ」
② (戦争に徴発されることから転じて) 戦争。戦役。
※書紀(720)神武即位前戊午年一〇月(北野本訓)「先
(ま)づ八十梟
(やそたける)を国見丘に撃て破
(やぶ)り斬
(き)りつ。是の
(エダチ)に、天皇志
(みこころさし)必ず克
(か)ちなむといふことを存
(たも)ちたまへり」
えき【役】
〘名〙
① 人民を強制して公用に使うこと。夫役(ぶやく)。やく。えだち。
※古今著聞集(1254)一六「其比までは、府の役力なしとて、きらはざりけれども」
② 割り当てられたつとめ。役目。職務。やく。
※浮世草子・近代艷隠者(1686)三「かりにも権を厚くするは、皆民に上たる役(ヱキ)にして、人を治むる為にあり」
③ (人民を徴発する意から) 戦争。
※紫(1901)〈与謝野鉄幹〉日本を去る歌「二十七八年の役
(エキ)何んが故に父祖の子孫を殺して、高麗半島の山河 空しく北夷の蹂

に委
(い)したる」 〔春秋左伝‐桓公一三年〕
え‐だ・つ【役】
〘自タ四〙 (古くは「えたつ」か) 公用の夫役に従事する。
[補注]「色葉字類抄」に「

エウ エダツス 労民調也」とあるのは「エダツ」と「エダス」を併記した形であろう。「古事記」の「為役」「役」などが「エタチ」と訓まれているが、確実な用例を見出しにくい。
え‐だ・す【役】
※高山寺本名義抄(鎌倉初)「

エタス」
※観智院本名義抄(1241)「繇 エタス」
えき‐・する【役】
〘他サ変〙 えき・す 〘他サ変〙 使役する。使う。
※応仁略記(1467‐70頃か)下「禁裏仙洞は定て陣屋と成て、南蛮の異類玉殿を

す」
えた・む【役】
〘他マ四〙 使役する。仕事をさせる。
※大唐西域記長寛元年点(1163)七「猨狐は志を同じくし各能く心を役(エタメり)」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「役」の意味・読み・例文・類語
やく【役】
1
㋐受け持ちの任務。役目。「仲裁の役を買って出る」
㋑組織の中で、責任のある地位・職務。「役に就く」
2 演劇などで、俳優が扮する人物。配役。「せりふのある役がつく」「役になりきる」
3 花札・マージャン・トランプなどで、ある条件がそろって特定の点数などを加える権利が生じること。また、そのような札や牌の組み合わせ。「高い役で上がる」
4 もっぱらのつとめ。唯一の仕事。
「そこはかなきことを思ひつづくるを―にて」〈更級〉
5 官が人民に課す労役。公役。夫役。
「かやうの―に催し給ふはいかなることぞ」〈宇治拾遺・四〉
6 物品に課す税。
「山中の関にて―をせよといふ」〈咄・醒睡笑・七〉
[類語]役目・役割・役所・お役・役回り・ひと役・勤め・用・任・任務・義務・責任・責務・本務・使命・役儀・分・本分・職分・職責・責め・課業・日課
え‐だち【▽役】
1 税の一種として公用の労働に従事すること。え。夫役。
2 《人民が徴発されて戦争に従軍する意から》戦争。戦役。役。
「新羅の―に由りて、天皇を葬ること得ず」〈仲哀紀〉
え【▽役】
古代、人民に割り当てられた肉体労働。夫役。えだち。「えよぼろ(役丁)」のように他の語と複合した形で用いられる。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
役
やく
中世~近世の人身的労役賦課および奉仕の総称。労役の内容から軍役・陣夫役・人足役・伝馬役,労役の担い手から大名役・侍役・百姓役・町人役・職人役,負担の枠組・単位から国役(一国平均役)・郡役・所役・村役・町役,負担の基準から軒役・高役などの用例があげられる。当該社会の主要な構成員は,所属する社会集団を介して役を負担しつつ,社会の中に身分として公的に位置づけられたが,役はこうした位置およびそれに付随する職務(役務)などをも同時に含意することになる。この用例としては,役人・役所・役割などがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
やく【役】
〈役〉は古くは〈エ〉と訓まれ,統治権力による人民の賦課,公用の課役・天役を意味していた。調(つき)が物品による税であるのにたいして,役(え)は労力によるものであり,両者を含めて〈課役(えつき)〉といった。この役(え)と役(やく)の関連(いずれも漢音)は不明だが,平安時代以降は,役(やく)の用例が多く,その範囲も公用の夫役ばかりでなく,支配―被支配の関係を含まない一般的な役割,役目を意味する言葉としても用いられている。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
役
えき
古来,中国で支配者が被支配者に課した無償の労力奉仕
徭役 (ようえき) は中央の土木建設工事に従事するものであったが,そのうち雑徭 (ざつよう) は,地方の土木工事のほか,臨時の労働を強いた。職役 (しよくえき) は徴税・警防などの労役奉仕で,特に中央政府の命令による割当てを差役といった。この運用のしかた(役法)は,つねに民衆との間に多くの問題を発生させた。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
世界大百科事典内の役の言及
【課役】より
…〈かやく〉ともいう。課は割り当てて徴収する,役は労役に徴発する意味の動詞,名詞で,これを組み合わせて公課の主体を指称した。その内容は租(丁あたり粟2石)と調(丁あたり絹2丈,あるいは麻布2丈5尺,それに付属物として絹糸,綿(まわた)あるいは麻糸が加わる)および役(年間20日間の力役,中央政府が徴発し主都の建設,土木工事等に使われる)の3種よりなる。…
【課役】より
…〈かやく〉ともいう。課は割り当てて徴収する,役は労役に徴発する意味の動詞,名詞で,これを組み合わせて公課の主体を指称した。その内容は租(丁あたり粟2石)と調(丁あたり絹2丈,あるいは麻布2丈5尺,それに付属物として絹糸,綿(まわた)あるいは麻糸が加わる)および役(年間20日間の力役,中央政府が徴発し主都の建設,土木工事等に使われる)の3種よりなる。…
※「役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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