デジタル大辞泉
「移」の意味・読み・例文・類語
い【移】
律令制で、直属関係にない役所の間で取り交わした公文書。送る側の役所の名称に次いで「移」と書き、その下に相手方の名称を書いた。移文。
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うつし【移】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「うつす(移)」の連用形の名詞化 )
- ① 事物、心などを別の所に動かすこと。「口うつし」「心うつし」「袖うつし」などのように、名詞に付けて造語要素として使う場合が多い。
- ② 草木の花の汁などを、紙にすりつけて、その色をしみこませること。また、その染料や紙。うつしばな。うつしがみ。
- [初出の実例]「秋の露は移(うつし)にありけり水鳥の青葉の山の色づく見れば」(出典:万葉集(8C後)八・一五四三)
- ③ 薫物(たきもの)や花の香を、衣服などにしみこませること。また、その香。
- [初出の実例]「あをにびのれうのはかま、〈略〉今日のうつしは、ざかう、薫物、薫衣香」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
- ④ 「うつしぐら(移鞍)」「うつし(移)の鞍」の略。
- [初出の実例]「ふきあげの浜にて得給へりしつるぶちにまさる御馬なし、それにうつし置きて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)内侍督)
- ⑤ 「うつしうま(移馬)」の略。
- [初出の実例]「中将、うつしに乗りて、車の轅近く添ひて立つ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)内侍督)
- ⑥ 木製の椀。御器(ごき)。〔日葡辞書(1603‐04)〕
- ⑦ 植物「つゆくさ(露草)」の異名。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕
- [初出の実例]「うつし 草の名、此花を紙につくれば其色うつる故名とす。つゆ草」(出典:浜荻(久留米)(1840‐52頃))
うつろいうつろひ【移】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「うつろう(移)」の連用形の名詞化 )
- ① 居場所をかえること。家うつり。転居。
- [初出の実例]「須磨の御うつろひのほどに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
- ② 物事の状態が移り変わっていくこと。また、盛りを過ぎて衰えること。
- [初出の実例]「これこそあらはなるうつろひなれ。左大将殿のいかめしうて二方もてかしづき給ふに、おのれが劣るべき」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上上)
い【移】
- 〘 名詞 〙 令制で、直属関係にない官司間で取り交わす公文書。被官の司は解(げ)をもって所管に申し、所管から他司に向かってこの文書を出す。
- [初出の実例]「美濃国司移、造東大寺司」(出典:石崎直矢氏所蔵文書‐天平勝宝八年(756)正月一一日・美濃国司移案)
- [その他の文献]〔唐六典‐尚書省・都事〕
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普及版 字通
「移」の読み・字形・画数・意味
移
常用漢字 11画
[字音] イ
[字訓] うつす・うつる
[説文解字]
[字形] 会意
禾(か)+多。〔説文〕七上に「禾、相ひ倚移するなり」とし、多声とするが、声義ともに適当でない。〔左伝、哀六年〕に、楚王の災禍を令尹(れいいん)に移す(えい)という祟(たたり)よけの話があり、移殃(いおう)を原義とする字と思われる。禾は禾穀、多は肉の象。この両者を供えて祀り、災異を他に転移することをいう。
[訓義]
1. 災異を他に移す、うつす、うつる。
2. 転ずる、動く。
3. 去る、遺る、離す。
4. 易(か)える、変える、代える。
5. 侈・(し)に通じ、侈(おご)る、(おお)きい意に用いる。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕移 ウツル・ウツス・メグル・ナビカス・ノガル・ノブ・カハル・ノコル・ネガフ・オホキナリ 〔字鏡集〕移 ウツス・ウツル・メグル・メクラス・カハル・カヘル・ノガル・ヤスシ・ネガフ・ノブ・ヲホキナリ・ナビカス・ノコル
[語系]
移・施jiaiは同声、(延)jianも声義近く、延久の意がある。またzi、侈・thjiai、施sjiaiと通用し、侈大の意がある。
[熟語]
移易▶・移禍▶・移貫▶・移換▶・移▶・移記▶・移▶・移居▶・移挙▶・移檄▶・移告▶・移根▶・移裁▶・移徙▶・移志▶・移時▶・移日▶・移住▶・移書▶・移植▶・移心▶・移籍▶・移置▶・移牒▶・移鼎▶・移天▶・移転▶・移動▶・移入▶・移風▶・移文▶・移報▶・移民▶
[下接語]
倚移・逶移・回移・帰移・神移・推移・遷移・奪移・転移・符移・変移・流移
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
移 (い)
古代に公式令で定められた公式様文書(くしきようもんじよ)の一つ。中務,式部等八省間および直接の統属関係にない官司相互に用いられた文書である。様式は初行に〈移〉の字をはさんで差出官司名と宛先官司名を書き,本文書止めは通常〈故移〉で,官司間が〈因事管隷〉する(仕事上仮に管轄下に入っている)場合は〈以移〉とし,日付の次に当該官司の長官,日下(につか)に主典が署名した。統属関係にないといっても,省被管の寮司が直接他省(司)に移を送ることはできず,まず所管省に上申して,その省より他省(司)に移を伝達するのが原則であった。僧綱,三綱が諸司と往復する文書は,この移の様式によって,移字を牒の字に代える規定であった(移牒)。移は奈良時代にはよく用いられ,正倉院文書に多くみられるが,律令制の衰退とともに使用も減り,互通文書としては僧綱等と官司間で用いられた移様式の牒が一般化し,移は平安末期以降はみられなくなった。
→牒
執筆者:飯倉 晴武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
移
い
大宝令(たいほうりょう)・養老(ようろう)令に規定のみえる文書様式で、上下支配関係のない役所間で出す文書。省と省、国と国、同省内の寮と寮、また独立官庁である春宮坊(とうぐうぼう)、衛府(えふ)などと省の間、このほか、寺院・造寺司(ぞうじし)などと省・寮との間で使われた。移はたとえば、始めに「刑部省移式部省(ぎょうぶしょういすしきぶしょう)」と書き、本文の終わりを「故移(ことさらにいす)」または「以移(もっていす)」で結んだ。寮が他省に事を伝える場合は、上級の省に解(げ)を出し、その省がその事柄を移で他省に伝えた。移は平安時代に衰えた。
[百瀬今朝雄]
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移【い】
律令制下の公文書で,直属関係にない官司が相互に取りかわす文書。たとえば兵部(ひょうぶ)省が民部省に文書を出す場合にこれを用い,紙面に〈兵部之印〉をおす規定であった。平安時代以降移の代りに牒(ちょう)が用いられるようになった。
→関連項目古文書
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移
い
律令制下の公文書形式の一つ
所管関係のない役所相互の連絡のために出されたもので,正倉院文書に多い。令外官 (りようげのかん) などが生み出された平安時代には所管関係が乱れ,移はすたれて,もっぱら牒 (ちよう) が用いられた。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
移 (ウツシ)
植物。ツユクサ科の一年草,薬用植物。ツユクサの別称
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の移の言及
【古文書】より
…これが案文であり,案文の作成には,おおむねつぎの五つの場合が考えられる。(1)法令・命令などを下達し,または正文の内容を第三者に連絡する場合,(2)訴訟の証拠書類として作成する場合,(3)所領・所職を分割移転する場合,(4)正文の紛失に備えてあらかじめその控えを作成しておく場合,(5)正文の紛失,あるいはそれが失効したとき,所定の手続を経て正文に代わる写し(これを紛失状という)を作成する場合である。これが狭義の,したがって厳密な意味の案文であるが,これ以外に草稿・控えを含めて案文という場合があり,これが広義の意味での案文である。…
※「移」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」