デジタル大辞泉
「太」の意味・読み・例文・類語
ふと【太】
1 太いこと。太っていること。
「庄野の―の、およねが俵腰に食ひついて」〈浄・丹波与作〉
2 「太棹」の略。
3 名詞の上に付いて、太い意を表す。「太腹」「太物」
4 神や天皇などに関する名詞や動詞の上に付いて、壮大である、りっぱな、などの意を表す。「太敷く」「太知る」「太玉串」
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
ふと・い【太】
〘形口〙 ふと・し 〘形ク〙
[一]
物体の周囲やさしわたしが長く、
体積・面積が大きい。
①
棒状のものの径が大きい。また、線状のものの幅が大きい。
※蘇悉地羯羅経延喜九年点(909)「過ぎて太(いと)長く〈略〉太(いと)麁(フトカラ)ざらむ」
② 体の肉づきがよい。肥えている。
※能因本枕(10C終)六〇「おとなだちたる人は、ふときよし」
③ 声や息の容量が大きい。
低音で
音量が豊かである。
※二人比丘尼色懺悔(1889)〈尾崎紅葉〉
自害「白く━太
(フト)き息を吐く濁声
(だみこえ)」
※雑俳・智慧くらべ(1868)「太(フト)ふ成り・煙の細ひ銀子かしや」
⑤ 非常に大きい。はなはだしい。甚大だ。
※御伽草子・猿源氏草紙(室町末)「ただふとく物を思ふと見えたり」
⑥ 射芸で、張った弓のつると弓との
間隔が広いことをいう。
⑦ 物の目などがあらい。目がつんでいない。
※
随筆・皇都午睡(1850)三「細いと云をこまかい、太ひを荒ひ」
① 大胆で、物事に恐れず、動揺しない。落ち着きがあって安定している。
※
万葉(8C後)二・一九〇「真木柱太
(ふとき)心はありしかどこの吾が心しづめかねつも」
② 横着である。ずうずうしい。ずぶとくふてぶてしい。ふらちだ。
※俳諧・毛吹草(1638)五「
竹の子をぬすむもふとき心哉〈光有〉」
③
歌論で、歌が堂々として雄大である。男性的でたくましい美を示し、「たけたかし」に近い。高体・高歌・長高様というのにもほぼ等しい。
※
無名抄(1211頃)「春・夏はふとく大きに、秋・冬は細くからび、恋・旅は艷に優
(やさ)しくつかうまつれ」
[
補注]
上代には、
語幹「ふと」が「ふとしく」「ふとのりと」など、神やそれに準ずるものに関する名詞や動詞に上接するところから、
賛美の意が込められていたと考えられる。しかし、中古になると、例えば「能因本枕」では、「黒き髪の筋ふとき」を「いやしげなる物」とするごとく、醜い物として描写する例も出てくる。
ふと‐さ
〘名〙
ふと【太】
[1] 〘語素〙 (
形容詞「ふとい」の語幹相当部分)
① 神や天皇などに関する名詞・動詞などの上に付けて、壮大である、立派に、などの意を添え、これを賛美する意を表わす。「ふとのりと」「ふとたすき」「ふとしる」など。
② 名詞の上に付けて、太い意を表わす。「ふと腹」「ふと物」など。
[2] 〘名〙
① 太っていること。また、太った者。
※
浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「庄野のふとのお米
(よね)が俵腰に喰ひ付いて」
※父親(1920)〈里見弴〉「一生、重い太棹(フト)の撥を持ち続けた」
ふと‐・む【太】
[1] 〘自マ四〙 太くなる。すらりとしなくなる。ぎこちなくなる。
※ささめごと(1463‐64頃)下「此旨わきまへぬ好士は、くだけちぢみふとみたれども、結構の句をのみむねと思へり」
[2] 〘他マ下二〙 太くする。〔日葡辞書(1603‐04)〕
ふとり【太】
〘名〙 (動詞「ふとる(太)」の連用形の名詞化) 太ること。成長して大きくなること。
※俳諧・天満千句(1676)一〇「米俵蔵より外にあまるらん〈西似〉 近年鼠にふとりかついた〈西花〉」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報