グリーン(Graham Greene)(読み)ぐりーん(英語表記)Graham Greene

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

グリーン(Graham Greene)
ぐりーん
Graham Greene
(1904―1991)

イギリスの小説家。ロンドン北西バーカムステッドの生まれ。オックスフォード大学卒業後新聞記者となる。カトリック教徒の婚約者の影響を受けてカトリックに改宗。1929年、密輸業者の世界を背景に暴力と良心の問題を追究する『もう1人の自分』でデビュー、作家生活に入る。彼は現代の政治的動乱の中心地を次々に舞台にしながら、映画やスリラー小説の手法を取り入れた。ベストセラーの『スタンブール特急』(1932)のほか、『ここは戦場だ』(1934)、『英国が私を作った』(1935)、『拳銃(けんじゅう)売ります』(1936)、『恐怖省』(1943)などがこの系列の初期作品。次に38年の野心作『ブライトン・ロック』によって世俗的倫理と宗教的倫理の鋭い対立を描き、現代でもっとも注目されるカトリック作家の一人となる。『権力栄光』(1940)、『事件核心』(1948)、『情事の終り』(1951)、『燃えつきた人間』(1960)などが彼の代表作で、罪人こそが真の信仰者であるという宗教的逆説を徹底して展開したため、教会当局との間にしばしば問題を起こした。その後のグリーンはカトリック教義を正面から扱うことがまれになり、世界中の内乱革命戦争の地域を舞台に独自の皮肉でペシミスティックな人間観を核にした作品を書くようになった。『おとなしいアメリカ人』(1955)、『ハバナの男』(1958)、『喜劇役者』(1966)、『名誉領事』(1973)、喜劇的な『叔母との旅』(1969)、スパイものの『ヒューマン・ファクター』(1978)、核競争を風刺した『ジュネーブのフィッシャー博士あるいは爆弾パーティー』(1980)など。短編作家としても優れ、ほかに5編の戯曲、自伝的断編『ある種の生涯』(1971)がある。

[海老根宏]

『野崎孝・田中西二郎訳『グレアム・グリーン選集』全15巻(1955・早川書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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