共和党(アメリカ合衆国)(読み)きょうわとう(英語表記)Republican Party

翻訳|Republican Party

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

共和党(アメリカ合衆国)
きょうわとう
Republican Party

民主党と並ぶアメリカ合衆国の二大政党の一つ。ホイッグ党Whig Partyなどの流れをくみ、1854年に結党された。共和党結党当時から現在まで150年以上にわたり、アメリカ大統領はかならず共和民主、どちらかの政党に所属している。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

歴史

共和党は結党当時、北部基盤とする奴隷制反対を訴えた政党である。南北戦争直前の1860年の大統領選挙でリンカーンが共和党としては初めての大統領に選ばれた。南北戦争の勝利以降、20世紀初めまで共和党優位の時代が続く。とくに、南北戦争以後、1932年の大統領選挙まで、G・クリーブランドとW・ウィルソンの2人の民主党大統領を除いて共和党が大統領職を独占していた。南北戦争以降、共和党は奴隷制反対の政党から、保護関税と金本位制度を政策の中心とする、資本家の利益を推進する「親ビジネス」の政党に変貌(へんぼう)していった。第30代大統領J・C・クーリッジの「アメリカの国民のビジネス(本分)はビジネスを行うことだThe chief business of the American people is business.」という演説がその象徴だろう。

 しかし、クーリッジに続いて大統領となったH・フーバーの在任時に起こった1929年の大恐慌から共和党の命運が変わる。大量の失業者を前にフーバーは政府による経済の介入を控える政策を堅持し、失業者の増加を許すなか、議会主導で決まった保護貿易政策の徹底でさらに墓穴を掘った。

 1932年の大統領選挙では、政府の強いリーダーシップで民間経済を支えていくニューディール政策を打ち出した民主党のフランクリンルーズベルトが圧倒的な得票で勝利した。この選挙をきっかけに共和党はその後長きにわたり、劣勢となっていく。1933年3月から1995年1月の62年の間で共和党が議会で多数派となったのは、下院では4年、上院では10年でしかなかった。大統領職についても2期を務めたアイゼンハワーレーガンもいたが、この期間で共和党が大統領職を担ったのは24年間にとどまっていた。

 ただ、アメリカ南部の保守化に伴い、1970年代ごろから共和党勢力の伸長が目だっていく。とくに伝統的な価値体系を重視する南部のキリスト教福音派の影響が大きかった。もともと南部では長年民主党支持が強かったが、公民権運動や女性解放運動をアメリカ東部の民主党が主導したこともあり、南部における民主党からの離脱が目だっていった。それとともに南部の保守的な民主党議員「サザン・デモクラットSouthern Democrats」にかわる形で、共和党議員が福音派からの支持を集めていった。さらに北東部を中心に1980年代までは存在した「ロックフェラー・リパブリカンRockefeller Republicans」とよばれる共和党内の穏健派が、引退するか、民主党に議席を奪われるかしていった。このように共和党に対してしだいに保守派からの支持が純化していった。一方でリベラル派からの支持は、民主党に集まる形で現在の政治的分極化につながっている。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

共和党の特徴

現在、保守派の多くは、「政府の経済活動や私生活への干渉をできるだけ少なくすべきである」という「小さな政府」を基本的な政治的信条としている。民主党支持者が訴える政府の積極的なリーダーシップによる政策は、保守派にとっては税金をむだ遣いする「大きな政府」志向にすぎない。また、公民権運動や所得再分配を政府の過度な介入とみることから、保守派に人種マイノリティではなく、白人が多いのも特徴である。減税や規制緩和を期待する富裕層の共和党支持が厚いのはいうまでもない。

 自由貿易を重視する共和党支持者がかつては多かったが、トランプ政権に象徴されるようにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に強く反発し、特定の国家からの輸入品については高い関税をかける保護主義的な貿易を志向するように大きく変貌している。これには支持層の変化も大きい。グローバル化で雇用が海外に流出しているのに加え、増え続ける移民に雇用を奪われたと感じる白人ブルーカラー層を取り込むことで共和党の支持層の裾野(すその)を広げており、トランプ政権はこの層に配慮した政策を行ったといえる。白人ブルーカラー層は、2009年から始まったティーパーティ運動に加わっており、2016年大統領選挙でのトランプ現象を生んだ一因となった。アメリカの人口動態の急激な変化に対する反作用の象徴がトランプという存在であるといっても過言ではないだろう。

 また、キリスト教的な伝統生活を志向するキリスト教福音派は現在、共和党のもっとも強固な支持層として一枚岩になっている。福音派キリスト教的な倫理感を重視するために、彼らは同性婚反対、妊娠中絶反対を強く訴えており、共和党の政治家もこれに呼応している。

 福音派の分布と重なるように、地理的に共和党支持が多いのは南部、中西部諸州である。共和党候補への投票が過半数を上回る州(赤い州red states)の代表が、テキサス州、アラバマ州、ルイジアナ州、ユタ州、アラスカ州などである。ただ、多くの州ではたとえ南部でも都市部は移民の流入などで民主党支持が増える傾向にある。たとえばジョージア州のように、州全体では共和党、都市部では民主党と政党支持が異なるケースも生まれている。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

共和党の今後

テキサス州では移民の増加などもあり、都市部では共和党の支持が強固とはいえないようになりつつある。共和党のなかにはより移民に寛容な政策を打ち出していかなければ時代に追いつけなくなってしまうという声があるなか、人種マイノリティのうち、反共産主義という信条からキューバ本国から移ってきたか、その子孫であるキューバ系の人々からは共和党への支持が厚い。現在の政治的分極化は拮抗(きっこう)状況にあり、政党支持の態度も移民の世代によって異なることも想定されるため、今後の長期的な政党支持の動向はまだ予断を許さない。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

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