問・訪(読み)とう

精選版 日本国語大辞典 「問・訪」の意味・読み・例文・類語

と・う とふ【問・訪】

〘他ワ五(ハ四)〙
[一] (問) 他にものを言いかけたり、調べたりする。
① 話しかける。もの言う。
古事記(712)中・歌謡「さねさし 相模(さがむ)の小野に 燃ゆる火の 火中(ほなか)に立ちて 斗比(トヒ)し君はも」
※大唐西域記長寛元年点(1163)七「獼猴と白象と此に於て相ひ問(トハ)く」
② 質問する。問いたずねる。また、判断を求める。
※古事記(712)下・歌謡「道斗閇(トヘ)ば 直(ただ)には告(の)らず 当芸麻道(たぎまち)を告る」
古今(905‐914)雑下・九三七「宮こ人いかにととはば山たかみはれぬ雲ゐにわぶとこたへよ〈小野貞樹〉」
③ (「占(うら)を問う」などの形で) うらなってみる。うらないの結果をもとめる。
万葉(8C後)一三・三三一八「何時(いつ)来まさむと 玉桙の 道に出で立ち 夕占(ゆふうら)を 我が問(とひ)しかば」
④ 訊問する。詰問する。罪を取り調べる。問いただす。
※古事記(712)上「又曷(いづ)れの神を遣はしてか、天若日子が淹留(ひさしくとど)まる所由(ゆゑ)を問(とは)む」
⑤ 追及する。罪や責任を、その人について追及するのにいう。「反逆罪に問われる」「委員長の責任を問う」
⑥ (打消の語を伴って用いる) 問題にする。あることについて、それを区別の基準にする。「年齢・学歴・経験を問わず」「男女を問わない」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉二三遠近の差は少い。又此場合に問(ト)ふ所でも無い」
[二] (訪) 目的をもってある人や場所をたずねる。
① 捜しに行く。たずね求める。
※古事記(712)下「天皇崩(かむあが)りまして後、天の下治(し)らす可き王(みこ)(ましま)さず。是に日継(ひつぎ)知らす王を問(とふ)に」
② 訪問する。おとずれる。
※万葉(8C後)八・一六五九「真木の上に降り置ける雪のしくしくも思ほゆるかもさ夜問(とへ)吾が夫(せ)
※古今(905‐914)秋上・二〇五「ひぐらしの鳴く山ざとの夕ぐれは風よりほかにとふ人もなし〈よみ人しらず〉」
③ 求婚する。
※古事記(712)下・歌謡「下(した)どひに 我が登布(トフ)妹を 下泣きに 我が泣く妻を」
※新古今(1205)秋下・四四六「よもすがらつまとふ鹿の鳴くなへにこはぎが原の露ぞこぼるる〈藤原俊忠〉」
④ 見舞う。機嫌安否をたずねる。
源氏(1001‐14頃)夕顔「とはぬをもなどかととはでほどふるにいかばかりかは思ひ乱るる」
※新古今(1205)哀傷・八四六「とへかしなかたしく藤の衣手に涙のかかる秋のねざめを〈藤原通俊〉」
⑤ 弔問する。とむらう。
※伊勢物語(10C前)七七「それうせたまひて、安祥寺にてみわざしけり〈略〉山のみなうつりてけふにあふ事は春の別れをとふとなるべし」
謡曲松風(1423頃)「亡き跡弔(と)はれ参らせつる」
[補注]「と」は上代では、(一)、(二)①は甲類音(「万葉集」では乙類も)であるが、(二)②は乙類音。本来同語であったものが意味分化したとする説もあるが、「質問する」意味の場合は甲類、「訪問する」意味の場合は乙類と、本来は意味の違いにより別語として区別されていたものが音と意義類似から混用されるようになったものか。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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