回・廻(読み)まわる

精選版 日本国語大辞典 「回・廻」の意味・読み・例文・類語

まわ・る まはる【回・廻】

〘自ラ五(四)〙
① 物体が中心を軸として回転する。また、物が円の形を描いて動く。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「若戸枢転(マハら)ずは、皮を著くること聴す」
② 周囲にそって動く。
※平家(13C前)七「此山は四方巖石であんなれば、搦手よもまはらじ」
③ 遠い道を取って行く。回り道をする。
※歌謡・閑吟集(1518)「はしへまはれば人がしる。湊の川の塩がひけがな」
④ あちこちと歩く。めぐり歩く。
※御伽草子・猿源氏草紙(室町末)「汝は洛中をまはり、隠れもなき鰯売」
⑤ 途中で立ち寄る。寄り道をする。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「夫から雑司谷から堀の内へ廻(マハ)って今帰ったぜ今」
⑥ 順番や時期などがめぐってくる。
※咄本・軽口露がはなし(1691)二「『伊勢講にて御座候』『それは御太義』といふに、『されば貴様のお薬と同事にて、よくまはり候』」
⑦ それまでとは別の立場にかわる。
※姉弟と新聞配達(1923)〈犬養健〉一「寝かしつける役目を、〈略〉若い看護婦さんに頼んで、自分は料理方にまはるのだが」
⑧ (「目が回る」の形で) 目まいがする。目がくらむ。
※藪の鶯(1888)〈三宅花圃〉一「やたらにお引張回し遊ばすものですから…あの目がまはるやうで厶りますんで」
⑨ 物がすみずみまで行きわたる。薬・酒などがからだに行きわたって効があらわれる。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第三五「穐の風頃やうすか替ったは さては薬もまはったる月」
⑩ よく動く。よく動いて役に立つ。
※雑俳・住吉御田植(1700)「ころころと・はじめはまはる奉公人」
浄瑠璃信州川中島合戦(1721)三「まはらぬ舌にせきかけせきかけくりかけて」
⑪ 配慮などが行き届く。「手が回らない」「気が回る」
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉一〇「土地が豊饒になってくると智恵のまはること」
⑫ 利益を生む。利得になる。
※浮世草子・好色一代男(1682)七「小判がしの利は何程にまはる物ぞ」
⑬ 真情をつくす。相手の気持に違わぬように立ちはたらく。特に遊里で、客によく勤める。
※評判記・難波物語(1655)「人めもはばからず、〈略〉まはりてみするたぐひをいふ也」
⑭ 金や物のやりくりができる。間に合う。
※談義本・根無草(1763‐69)前「葬礼をかき入石塔を質に置ても、思ふ様にまはらざれば」
⑮ やりくりが苦しくなる。
人情本春色梅児誉美(1832‐33)四「むだ金が際限もなく入ったゆゑ、大分内証がまはったそうさ」
⑯ (「焼きがまわる」の意か) にぶくなる。ぼける。
歌舞伎梅雨小袖昔八丈(髪結新三)(1873)二幕「源七もゆるんだとか廻(マハ)ったとか、人に言はれにゃあならねえから」
⑰ (時計の針が円を描いて動く意から) ある時刻が過ぎる。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「まだ漸く三時半すこし廻はった計り」
⑱ 他の動詞の連用形に接続して、そのあたりを…する、あちこち…する意を表わす。
古事談(1212‐15頃)一「自執弓走廻敺雑人
太平記(14C後)三一「廻文を以て東八箇国を触廻(フレマハ)るに」

まわし まはし【回・廻】

〘名〙 (動詞「まわす(回)」の連用形の名詞化)
[一] 物をまわしたり、めぐらしたりすること。また、物事をそのように取り扱うこと。
① 金銭の融通、やりくり。また、金銭を運用して、利益のあがるように計ること。
日葡辞書(1603‐04)「Mauaxino(マワシノ) ヨイヒト」
② 会合などを輪番で行なうこと。
※咄本・醒睡笑(1628)六「老僧・小僧・児・若衆いひ合はせて、随意講のまはし始まれり」
③ 罪人を引き回すこと。
※歌舞伎・夢結蝶鳥追(雪駄直)(1856)三幕返し「この兇状は廻(マハ)しの上三日晒しの板附と」
④ 回り舞台の、回転する部分。
※歌舞伎・関原神葵葉(1887)五幕「三成は下手廻(マハ)しの外に佇み居る」
⑤ 人や物を必要とするところへ動かし送ること。また、予定などをあとへずらすこと。
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉三三「休日を翌日廻しと云ふことにして貰はう」
⑥ 謡曲の節の一つ。一音の母音をとくに長めに変化をつけて謡う節。まわし節。
[二] 身にまいたり、まとい着たりするもの。
① ふんどし。下帯(したおび)。また特に、相撲の力士が腰につける布帛。
※俳諧・鸚鵡集(1658)一「藤布は柳こしにもまはし哉〈友清〉」
※洒落本・通気粋語伝(1789)三「『〈略〉まわしは出来たか』『〈略〉此秋角力(すもう)の間にあはせたふござります』」
② 着物の上に引き回して着る袖のない男性用外套。二重まわし。《季・冬》
※風俗画報‐二二号(1890)器財門「まはしの立派なるは〈略〉多くは二重外套に代へぬ」
[三] 遊里で用いられる語。
① 一人の遊女が、二人以上の客をかけもちにすること。また、その客。まわし客。
※洒落本・道中粋語録(1779‐80頃)「廻(マア)しといふ所かいの」
② 「まわしかた(回方)」の略。
※咄本・かの子ばなし(1690)中「あまり度々なるゆへまはしもはらを立て」
③ 上方で、私娼である白人(はくじん)の元締。客があれば人繰りをして白人を茶屋へまわし、送り迎えをする者。
※浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)四「衣類等の入目、廻(マハ)しと申男が手前より取替ぬれば」
④ 江戸吉原で専用の部屋を持たず、一つの部屋を入れ替わって使った遊女で、多くは、新造の期間中のもの。
⑤ 三味線などを持って、芸者に従って行く男。箱。箱回し。箱屋。回し男。
※歌舞伎・五大力恋緘(1793)三幕「オオこの彌助が廻(マハ)しこそして居れ」

まわ・す まはす【回・廻】

〘他サ五(四)〙
① 輪のようにまるく回転させる。〔観智院本名義抄(1241)〕
※名語記(1275)三「わらはべのこまつぶりまはす時」
② まわりをとり巻くようにする。周囲にめぐらす。
※宇治拾遺(1221頃)九「屏風を立てまはして」
③ 広く行き渡らせる。すみずみまで及ぼす。
※源氏(1001‐14頃)賢木「いと急にのどめたる所おはせぬおとどの、おぼしもまはさずなりて」
④ 順々に送り渡す。次から次へと送る。
※日葡辞書(1603‐04)「クヮイブン ヲ mauasu(マワス)
⑤ 人や物を必要とする場所へ動かし送る。また、使い道を変えて他に移す。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「それより車まはさせ給て」
※倫敦消息(1901)〈夏目漱石〉二「此留学費全体を投じて衣食住の方へ廻せば」
⑥ 金銭などを運用する。
※仮名草子・悔草(1647)中「ぶけんなといへば、人の物にてまはすといへり」
⑦ 謡曲で、一音のうちの母音をのばして、音に段をつけて謡う。〔わらんべ草(1660)〕
⑧ 自分の思うままに人を使う。
※浮世草子・好色盛衰記(1688)五「あの女にまはさるる女郎、いとしやといへば」
⑨ 人形をつかう。人形をあやつる。
※俳諧・鷹筑波(1638)二「清水やうしろさまにも首を次 四条川原でまはす人形〈一徳〉」
⑩ つけまわす。どこまでも跡をつける。
※談義本・艷道通鑑(1715)三「彌七を廻しては抱たがる」
⑪ 酒、醤油(しょうゆ)などを水増しする。
※黄表紙・八代目桃太郎(1784)「頭からしほに、水をまはしたやうな物にて」
⑫ 酒などがからだに行きわたるようにする。
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)初「此間久アしく止て居いしたから、直に廻(マハ)されまさアなヨ」
⑬ 江戸初期、遊里で、客が遊女を思うままに従わせること。
※評判記・吉原すずめ(1667)見たての事「金銀だにあれは、いかやうにまはすべきも、じゆうなりとおもひて」
⑭ (「気をまわす」の略) 心をめぐらす。邪推する。
※浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)道行「ヱヱ廻すは廻すは、どれおれが毒味してやろ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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