[1] 〘自サ四〙 (
尊敬語動詞「ます」に、
接頭語「い」の付いたもの)
[一]
①
存在を表わす「あり(有)」「お(を)り(居)」の、存在主を敬っていう尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。おわす。おわします。ます。
※
古事記(712)下・
歌謡「やすみ
しし 我が大君の 獣
(しし)待つと 呉床
(あぐら)に伊麻志
(イマシ)」
※拾遺(1005‐07頃か)雑賀・一一七三「千年
(ちとせ)へん君しいまさばすべろ木の天の下こそうしろやすけれ〈
清原元輔〉」
② 所有を表わす「あり(有)」の、所有主を敬っていう尊敬語。おありである。おありになる。
※岩淵本願経四分律平安初期点(810頃)「如来は慈悲いマす」
③ 「いく(行)」「く(来)」の、動作主を敬っていう尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
※古事記(712)中・歌謡「階(しな)だゆふ 楽浪道(ささなみぢ)を すくすくと 我が伊麻勢(イマセ)ばや 木幡(こはた)の 道に 逢はしし嬢子(をとめ)」
※
落窪(10C後)二「『こちいませ』と呼び給へば、ふとよりたる」
① (形容詞・形容動詞の
連用形、
断定の
助動詞「なり」の連用形「に」(または、それらに
助詞「て」の付いたもの)につく)
叙述の意を添える「あり」の尊敬語。(…て)いらっしゃる。(…で)いらっしゃる。
※古事記(712)上・歌謡「汝
(な)こそは 男
(を)に伊麻世
(イマセ)ば〈略〉
若草の妻持たせらめ」
※観智院本三宝絵(984)序「解深(さとりふかく)慈び広く伊坐(イマ)す仏」
② (動詞の連用形に付く) 動作の
継続の意を添える「あり」、経過・移動の意を添える「いく(行)」「く(来)」の尊敬語。(…て)いらっしゃる。(…て)おいでになる。
※古事記(712)下・歌謡「其(し)が花の 照り伊麻斯(イマシ) 其が葉の 広(ひろ)り伊麻須(イマス)は 大君ろかも」
[2] 〘自サ変〙 (「います〔自サ四〕」が、中古になって活用を変化させたもの。中古になって下二段活用の「います」が発生し、四段活用の「います」と併用されたものともいう)
[一]
① (一)(一)①に同じ。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「我子のいませんかたには、いづちもいづちもいかざらむ」
② (一)(一)②に同じ。
※観智院本三宝絵(984)上「又、神通の力伊坐して、妙へに
衆生の心を随へ給ふ」
③ (一)(一)③に同じ。
※竹取(9C末‐10C初)「此の人々の、
年月をへて、かうのみいましつつ宣ふ事を思ひ定めて」
[二] 補助動詞として用いる。
① (一)(二)①に同じ。
※大和(947‐957頃)三八「
壱岐(ゆき)の守
(かみ)のめにていますとて」
② (一)(二)②に同じ。
※竹取(9C末‐10C初)「されば帰りいましにけり」
[3] 〘他サ下二〙 (「います〔自サ四〕」を下二段に活用させて、使役性の
他動詞としたもの)
[一] 「あらしむ」「行かしむ」などの、使役する対象を敬っていう。いらっしゃるようにさせる。おいでにならせる。
※
書紀(720)敏達一三年是歳(前田本訓)「仏の殿を宅の東の方に経営
(つく)りて彌勒の
石像を
安置(ませまつ)る。三の尼を屈請
(イマセ)て大会の
設斎(をかみ)す」
[二] 動詞の連用形について、補助動詞として用いる。(…て)いらっしゃるようにさせる。
※
万葉(8C後)二・一九九「言
(こと)さへく 百済
(くだら)の原ゆ
神葬(かむはぶり) 葬
(はぶ)り伊座
(イませ)て」
[語誌](1)奈良時代は一般に用いられたが、平安時代には和文にあまり見られず、
漢文訓読文に用いられている。
(2)訓読文では、「有り・居り」の尊敬語としてだけ用いられていて、意味が縮小されている。まれに和文に見えるときは、軽い非難や揶揄が込められていたり、田舎びて、古風で形式的な語として扱われたりしていて、敬度は類義語の「おはす」より低い。