夏炉冬扇(読み)カロトウセン

デジタル大辞泉 「夏炉冬扇」の意味・読み・例文・類語

かろ‐とうせん【夏炉冬扇】

《「論衡逢遇の「なほ夏を以て炉を進め、冬を以て扇を奏するがごとし」から》時期外れで役に立たない物事のたとえ。冬扇夏炉
[類語]遅い手遅れ寒に帷子かたびら土用に布子十日の菊六日の菖蒲あやめに合わぬ花生まれた後の早め薬証文の出し後れ後の祭り争い果ててのちぎり木喧嘩けんか過ぎての棒ちぎり最早もはや早早はやばや早早そうそう早め尚早もうはや早くも今やすでにとっくにとうにとうの昔とっくの昔つとに先刻後悔先に立たずこのに及んで今さら覆水盆に返らず

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精選版 日本国語大辞典 「夏炉冬扇」の意味・読み・例文・類語

かろ‐とうせん【夏炉冬扇】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「論衡‐逢遇」に見えるたとえで、夏のいろりと冬のおうぎの意から ) 無用の物事のたとえ。冬扇夏炉。夏炉。
    1. [初出の実例]「予が風雅は夏炉冬扇のごとし。衆にさかひて用(もちゐ)る所なし」(出典俳諧・韻塞(1697)許六離別詞)

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四字熟語を知る辞典 「夏炉冬扇」の解説

夏炉冬扇

時期はずれな無用の物事、役に立たないもののたとえ。

[使用例] ことに時候を論ぜざる見世物と異なりて、かれ演芸はおのずから夏炉冬扇のきらいあり。その喝采やんやは全く暑中にありて、冬季は坐食す[泉鏡花*義血侠血|1894]

[使用例] 文学がある意味で、たしかに芭蕉のいう「夏炉冬扇」であることは否めない[中野好夫*孤高の精神|1941]

[使用例] もし、実際的な働きを期待する文学があれば、それは、政治的色彩の有無にかかわらず、また作者にその意図があるとないとにかかわらず、プロパガンダ(宣伝)文学である。芸術はつねに、無用の用、夏炉冬扇を認めるところにおいて成立する[外山滋比古日本語個性|1976]

[解説] 暑い夏に火鉢を使い、寒い冬に扇を持ち出すのは、時季外れで間が抜けています。「夏炉冬扇」は、そんな役立たずのものごとを指します。
 このことばの元になる文章は、漢代の「ろんこう」にあります。
 当時、一般の人は、「夏炉冬扇」のようなことをやっていては出世できない、と考えていました。でも、「論衡」の著者は、むしろ逆のことを主張します。
 「夏の火鉢は湿気を乾かすし、冬の扇は火をおこす。出世できるかどうかは、結局、主君ウマが合うかどうかだ」。つまり、いい主君に巡り会えば、「夏炉冬扇」でも役に立つわけです。
 ただ、今日では、やはり役立たずのものごとを指します。当時の一般人の感覚のほうが、私たちには合うようです。
 「夏炉冬扇」と言えば、松尾芭蕉の文章が有名です。芭蕉は、自分の俳諧を「夏炉冬扇」のような無益なものだと考えました。例文の[孤高の精神][日本語の個性]も、これを踏まえています。

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改訂新版 世界大百科事典 「夏炉冬扇」の意味・わかりやすい解説

夏炉冬扇 (かろとうせん)

芭蕉の俳諧観,風雅観を端的に示すものとして,蕉風俳諧の俳論でよく用いられる成語。1693年(元禄6)5月執筆の俳文〈柴門(さいもん)の辞〉に,芭蕉は〈予が風雅は夏炉冬扇の如し。衆に逆ひて用ふる所なし〉と述べている。王充の《論衡》に〈無益の能を作(な)し,補ふこと無き説を納(い)るるは,猶ほ夏を以て炉を進め,冬を以て扇を奏(すす)むるが如し。亦た徒らなるのみ〉とあるによる。自分の俳諧は世間無用のものであるが,それゆえに功利性や俗性を超越しているという信念を示すもの。
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