覆水盆に返らず(読み)フクスイボンニカエラズ

デジタル大辞泉 「覆水盆に返らず」の意味・読み・例文・類語

覆水ふくすいぼんかえらず

太公望せいに封ぜられたとき、離縁して去った妻が復縁を求めて来たが、盆の水をこぼし、この水をもとにもどせたら求めに応じようと言って復縁を拒絶したという「拾遺記」中の故事から。前漢朱買臣の話として同様の故事が見られる》
一度別れた夫婦の仲はもとどおりにならないことのたとえ。
一度したことは、もはや取り返しがつかないことのたとえ。
[類語]最早もはや早早はやばや早早そうそう早め尚早もうはや早くも今やすでにとっくにとうにとうの昔とっくの昔つとに先刻後悔先に立たずこのに及んで手遅れ後の祭り生まれた後の早め薬証文の出し後れ争い果ててのちぎり木喧嘩けんか過ぎての棒千切り十日の菊六日の菖蒲あやめに合わぬ花夏炉冬扇寒に帷子かたびら土用に布子今さら

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精選版 日本国語大辞典 「覆水盆に返らず」の意味・読み・例文・類語

ふくすい【覆水】=盆(ぼん)に返(かえ)らず[=収(おさ)め難(がた)し]

  1. ( 周の呂尚(太公望)が読書にふけってばかりいるので、妻は離縁をして去った。後に呂尚が斉に封じられると再縁を求めてきたが、呂尚は盆から水をこぼし、その水をもとにもどしたら求めに応じようといったという故事から ) 一度離別した夫婦の仲は元にはもどらないということ。転じて、一度してしまったことは取り返しがつかないことをたとえていう。〔譬喩尽(1786)〕 〔李白‐白頭吟〕

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故事成語を知る辞典 「覆水盆に返らず」の解説

覆水盆に返らず

一度離縁した夫婦の仲は、元には戻らないことのたとえ。転じて、一度してしまったことは取り返しがつかないことのたとえ。

[使用例] お才を扱うては外に手に取るべき女子も無く、今は見るも否なる吾妻の嚊の方は断縁にして、今度れては二度目の覆水盆にかえるまじきお才様の大切さに、一切余所の浮気を断ちて[尾崎紅葉*三人妻|1892]

[使用例] 人間はミレンですよ。覆水を盆にかえそうとしたり、盆にかえりうるものと希望をすてなかったり、ね[坂口安吾*街はふるさと|1950]

[由来] 「野客叢書―二八」によれば、紀元前一一世紀ごろ、周王朝の創建功績のあったりょしょう(太公望)のエピソードから生まれたことば。呂尚がまだ貧しかったころ、妻は彼を見限って出て行ってしまいました。ところが、呂尚が周の国で高い地位に就いたとたん、彼女は戻ってきて復縁を求めます。すると、呂尚は水の入った容器を傾けて中の水を地面にこぼし、「覆水は定めて収めがたし(こぼれた水は元には戻せないとしたものだよ)」と言って、復縁の意志がないことを示したということです。

[解説] ❶元の夫が出世したとたん、よりを戻そうとするなんて、自分勝手もいいところ。呂尚の対応は冷静ですが、それだけに強い怒りが伝わってきます。❷夫婦関係について使うのが本来の用法ですが、最近では、広く「取り返しがつかない」という意味で用いる方が一般的になっています。これも、夫婦のあり方が変化したことのあらわれでしょうか。❸漢字「盆」がもともと指しているものは、大きな洗面器のような器。ここもその例。いわゆる「お盆」ではないので、注意が必要です。

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ことわざを知る辞典 「覆水盆に返らず」の解説

覆水盆に返らず

器をひっくり返してこぼした水は二度と元どおりにできないように、一度離縁した夫婦の仲は元には戻らない。転じて、一度してしまったことは取り返しがつかないというたとえ。

[解説] 殷の末期、呂尚(太公望)が読書にふけってばかりいるので、妻は離縁して去った。後に周の軍師に迎えられ、斉を領地として与えられると、元の妻から復縁を求められたが、呂尚は盆から水をこぼし、その水をもとにもどしたら求めに応じようといったという故事によることば。なお、この「盆」は、食器などを載せる盆ではなく、素焼きで浅めの容器をさします。

〔英語〕It is no use crying over spilt milk.(こぼれたミルクを嘆いてもしかたがない)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「覆水盆に返らず」の意味・わかりやすい解説

覆水盆に返らず
ふくすいぼんにかえらず

いったん盆からこぼれた水はふたたび盆に返ることはないとの意で、一度離別した夫婦は元の鞘(さや)に収まることはないことや、一度しでかしてしまったことは取り返しがつかないことのたとえとして用いられる。中国、周の呂尚(りょしょう)(太公望)は読書に熱中して暮らしを顧みないので、妻の馬は愛想を尽かし、離縁をして家を出てしまったが、のちに呂尚が斉(せい)に封ぜられると、復縁を求めてやってきた。すると呂尚は一盆の水をとり、それを傾けて水を地上にこぼして、元のとおりに水を盆に戻すことができたなら、希望に応じようといった、とある『拾遺記』などの故事による。

[田所義行 2023年2月16日]

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