核分裂(原子核)(読み)かくぶんれつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「核分裂(原子核)」の意味・わかりやすい解説

核分裂(原子核)
かくぶんれつ

ウラントリウムプルトニウムのような重い原子核が、二つ以上の原子核に分裂することをいう。大部分は2個の原子核に分裂するが、3個に分裂する例も報告されている。核分裂は1938年にドイツのO・ハーンらにより発見され、分裂のときに放出される莫大(ばくだい)なエネルギーを利用して、のちに原子力が開発された。

 原子核に中性子陽子、γ(ガンマ)線などを当てると、原子核は励起し、分裂がおこりやすくなる。ウラン235が中性子を吸収してウラン236の励起状態となり、約10-7秒(1000万分の1秒)後に核分裂し、二つの核分裂破片と2、3個の中性子を発生する。発生した中性子を利用して核分裂を持続(臨界状態)させることができ、原子炉はこのような核分裂の連鎖反応を利用してエネルギーを取り出す装置である。また、この技術を兵器に応用して原子爆弾が開発された。一つの核分裂につき約200メガ電子ボルトのエネルギーが放出されるが、その83%は核分裂破片の運動エネルギーであり、残りは即発γ線、中性子、核分裂破片からのγ線やβ(ベータ)線、あるいはニュートリノのエネルギーである。核分裂破片の大部分は放射能をもつので、別名「死の灰」とよばれている。

 核分裂により80種以上の核種を生じるが、その質量数は72~160にわたっている。ウランやプルトニウムの熱中性子による核分裂では、核分裂破片の質量数が約90と140のところにピークを示す非対称分裂であり、中性子のエネルギーを高くすると対称分裂の割合が多くなり、14メガ電子ボルトの中性子では、熱中性子の場合に比べ約100倍多くなる。核分裂破片の放射能の半減期は、1秒以下のものから百万年以上という長いものまであり、原子炉の安全性に重要な影響を与える。原子炉で冷却材喪失事故が起き、冷却能力が失われると、炉心は放射能の崩壊熱で溶融温度にも達する(炉心溶融)。

[桜井 淳]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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