[1] 〘自サ変〙 す 〘自サ変〙 なんらかの動きやけはいが現われる。
① (からだや心のある状態、また、ある外界の刺激や自然現象などが)起こる。また、起こったのが感じられる。
※万葉(8C後)一五・三六二四「われのみや夜船は漕ぐと思へれば沖への方に楫(かぢ)の音須(ス)なり」
※浮雲(1887‐89)〈
二葉亭四迷〉二「些し頭痛がするから」
② ある状態になる。また、ある状態である。
※万葉(8C後)一五・三七八一「旅に之(シ)て物思ふ時にほととぎすもとなな鳴きそ吾が恋まさる」
※行人(1912‐13)〈
夏目漱石〉帰ってから「とうとう
根気負がして黙って仕舞った」
③ (「…む(ん)とす」「…う(よう)とする」などの形で) もう少しで、ある作用が起こりそうな状態になる。また、もう少しであることをしそうな状態になる。
※
古事記(712)中・歌謡「
狭井河よ 雲立ち渡り 畝火山 木の葉さやぎぬ 風吹かむと須
(ス)」
※平家(13C前)二「入道かたぶけうどするやつがなれるすがたよ」
④ (時を表わす語のあとに付けて) 時間がたつ。「もう一週間もすれば」「しばらくすると」
※
史記抄(1477)一五「後三日か五日かして其人を挙て此官に除せられよ、我は退べし」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「暫らくしてから『まづ兎も角も』と気を替へて、懐中して来た翻訳物を取出して読み初めた」
⑤ (金額などを表わす語のあとに付けて) …の金額である。…の価値がある。「千円する本」「いくらした?」
※虎明本狂言・
粟田口(室町末‐近世初)「かみにつつみても、万疋もする物じゃと云程に、心得てかうてこひ」
[2] 〘他サ変〙 す 〘他サ変〙
① ある動作や行為を行なう。
※古事記(712)下・歌謡「呉床居(あぐらゐ)の 神の御手もち 弾く琴に 儛(まひ)須流(スル)女 常世にもかも」
※源氏(1001‐14頃)浮舟「あさましういみじけれど、声をだにせさせ給はず」
(イ) ある状態、あるものにならせる。
※万葉(8C後)五・八一七「梅の花咲きたる園の青柳はかづらに須(ス)べく成りにけらずや」
※大鏡(12C前)五「男ならば、大臣の子とせよ。女ならば、わが子にせん」
(ロ) あること、あるものを選びとる。「休憩にする」「私は紅茶にする」「そろそろお茶にしよう」
③ (形容詞の連用形、助詞「に」「と」などのあとに付けて) ある状態だと見る。そう考える、感じる。
※万葉(8C後)一・九五「われはもや安見児得たり皆人の得難(えがて)に為(す)といふ安見児得たり」
※源氏(1001‐14頃)松風「ちごをわりなうらうたきものにし給ふ御心なれば」
④ (①のうち、特に) ある物を作る。
※大和(947‐957頃)一四七「この平張(ひらばり)は川にのぞきてしたりければ」
※今昔(1120頃か)一六「然れば、衣食極て難く成て、若し求め得る時は自(みづから)して食ふ」
⑤ ある様子・状態を表わす。
※竹取(9C末‐10C初)「うるはしきすがたしたるつかひにもさはらじ」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「見て見ぬ風をしてゐるらしい」
⑥ ある位置、方向にあるように保つ。
※平家(13C前)七「もとより究竟の城
也。盤石峙ちめぐって四方に峯をつらねたり。山をうしろにし、山をまへにあつ」
※あきらめ(1911)〈
田村俊子〉二「客の頭髪の上に
バリカンを手にした職人が人の通る通りを振返った」
⑦ 身につける。
※雑俳・柳多留‐五三(1811)「鉢巻をして鎌倉と書かかり」
[語誌](1)「ある」が存在性を叙述するのに対して、「する」は最も基本的に作用性・活動性を叙述すると見られる。
(2)活用について(イ)口語の
未然形には、打消の「ず」「ぬ」が付くときの形「せ」のほか、打消の「ない」が付くときの形「し」がある。また、使役や受身が付くとき、多く「させる」「される」となるが、その「さ」も未然形として扱うことが多い。(ロ)打消の「ず」が付くとき、「せ」でなく「し」となる場合もある。「浮雲〈二葉亭四迷〉三」の「軽躁な者は軽躁な事を為まいと思ったとて、なかなか為
(シ)ずにはをられまい」、「足袋の底〈徳田秋声〉四」の「顔を赧
(あか)めることすらしずに」など。(ハ)
命令形は、古くから「せよ」が使われて今日に至っているが、室町時代ごろから「せい」が、江戸時代以降は「しろ」が使われるようになる。また、これらの命令形は、放任の意にも用いられることがある。→
せよ・
しろ。(ニ)過去の
助動詞「き」へ続ける場合は変則で、
終止形「き」には連用形の「し」から、
連体形「し」および已然形「しか」には未然形の「せ」から続く。すなわち、「しき」「せし」「せしか」となる。
(3)複合形について(イ)名詞や、形容詞・動詞の連用形などに付いて
複合動詞を作る。「恋する」「心する」(和語)、「決する」「害する」(一字の漢語)、「研究する」「演説する」(二字の漢語)、「善くする」「全うする」(形容詞連用形)、「尽きす」「絶えす」(動詞連用形)など。(ロ)明治期には、西洋由来の外来語の動詞などに「する」が付けられるようになり、「スリイプする」「プレイ(放蕩)する」「ボルロウ(借用)する」〔
当世書生気質〈
坪内逍遙〉〕などが見られる。(ハ)昭和初期に「科学する心」という表現が問題にされたことがあるが、これは「科学」を動作性のないものとして、「する」との複合を不適当とする論であった。(ニ)一字の漢語に複合する際、「する」がザ行になるものがある。「命ずる」「応ずる」「案ずる」「減ずる」など。また、口語として「察しる」「命じる」「案じる」などのように、一段活用に転じても用いられる。(ホ)形容詞から派生した動詞では、「うとみす→うとんず」「かろみす→かろんず」などが主として漢文訓読体で用いられ、和文体の「うとむ」「かろむ」などに対応する。
(4)動詞の連用形に助詞「は」「も」「ぞ」「や」「など」「でも」「さえ」などを添えたもの、動詞の連用形を重ねたもの、並列を表わす「なり」「たり」を添えたもの、などの下に付けて叙述を助ける働きをする場合も多い。
(5)下に助詞の「て」が付いた形「して」は、動詞としての実質的な意味がほとんどなくなって用いられる場合が多い。「して」のほか、「ずして」「として」「にして」「をして」「からして」「よりして」などの形をとる。→
して。
(6)「文殊楼の軒端のしろじろとしてみえけるを」〔平家‐二〕のように、
接続助詞の「して」が状態性を表わす副詞に続くことはしばしば見られるが、この「し」がサ変動詞として活用するようになり、中世では、「日もてらぬときは海棠の花がいっきりとする」〔中華若木詩抄‐下〕という例が見られる。近世に入ると、「むっとする」、「はっとする」、「そはそはする」など「する」の複合語が多数用いられるようになる。