聖人(読み)せいじん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

聖人(せいじん)
せいじん

中国における理想の人格をいう。聖の字は、耳を意符(いふ)、呈を声符(せいふ)とする。未来を告げる声を聞く耳の持ち主、超人である。だから自然に推戴(すいたい)されて帝王の地位につく。堯(ぎょう)、舜(しゅん)、禹(う)、湯王(とうおう)、文王(ぶんおう)、武王(ぶおう)などである。また聖人は文明の創始者でもある。伏羲(ふくぎ)、神農(しんのう)、周公などがそれである。孔子は帝王ではなかったが、最高の徳を身につけた人だから、弟子たちは孔子を聖人とよぶ。宋(そう)の道学者は、聖人になることを修養の窮極目標とした(『宋史』張載伝)。つまり聖人とは最高の人格の例示である。しかも中国にはキリスト教的人格神がいないから、聖人は神の代替でもある。カトリックの聖者(セイント)が神によく仕えた人であって神そのものでないのと、やや違う。[本田 濟]

宗教における聖人

宗教では、それぞれの立場から、宗教的な「聖」なる価値を体現した人のことを聖者ないし聖人という。その価値の内容は宗教によって多少の違いはあるが、この世的な自己中心の立場を離れて自己を見つめ、同時に、人間を超えたより大いなる生命や力の世界を直感して、生の営みに意味をみいだそうとする成熟した情操の持ち主、という点ではほぼ一致している。
 ローマ・カトリック教会では、中世以降、教えのために身を犠牲にした殉教者など、伝道に英雄的な徳行があった人物を審査して聖人saintに列せしめている。「福音書(ふくいんしょ)」関係のマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネや、「書簡」の筆者のパウロ、ペテロら聖書関係の人たち、アウグスティヌスやトマス・アクィナスらの宗教思想家、修道院の聖者フランチェスコ、東洋伝道のザビエル、またバレンタインデー(2月14日)のバレンティヌスや、1597年(慶長2)に日本で殉教した26人も聖人に名を連ねている。聖人は公式の崇敬を受け、祝日も定められており、また、洗礼を受けて信徒となるときに聖人の名をとって洗礼名としたり、教会堂や病院などに聖人の名をつけたり、願い事をする場合に聖人に代願を依頼したりすると、厄除(やくよ)けになったり効果があるという守護聖人の信仰もあって、聖人は広く民衆の崇敬を受けている。
 仏教でも、宗教上の偉人として神聖視され崇拝される人格という意味での聖人としては、教祖仏陀(ぶっだ)をはじめ、龍樹(りゅうじゅ)らの宗教的理想の体現者、慈悲の心の厚かった行基(ぎょうき)など、また各宗派の開祖などがあげられる。聖人(しょうにん)、上人(しょうにん)ということばがある。知徳の高い人に対する敬称で、聖人は上人よりも優れた人という感覚である。聖人は仏、菩薩(ぼさつ)の敬称で、上人は徳行の優れた高僧の敬称であるともいう。浄土真宗で、法然(ほうねん)と親鸞(しんらん)を聖人、列祖を上人と区別するほかはとくに決まりはなく、浄土宗や日蓮(にちれん)宗の系統で、高徳の僧侶(そうりょ)の敬称となっている。[冨倉光雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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