(読み)した(英語表記)tongue

翻訳|tongue

精選版 日本国語大辞典 「舌」の意味・読み・例文・類語

した【舌】

〘名〙
脊椎動物の口腔(こうこう)底に突き出ていて、食物を食道へ送りこむ肉質の器官。魚類では筋肉がなく運動性がなく、時に舌上に歯がある。両生類以上の動物では筋肉や腺があり、可動性に富む。人間では、味覚を感じる細胞が分布し、唾液腺が開口する。咀嚼(そしゃく)運動とともに発声にも密接な関係をもつ。べろ。
播磨風土記(715頃)宍禾「大きなる鹿、己が舌を出して、矢田の村に遇へりき」
② 舌状をしているものの総称。→した(簧)。「鐙(あぶみ)の舌」
※応永本論語抄(1420)八佾第三「木にて舌をしたるを木鐸と云」
③ ことば。また、話すこと。弁舌。
※源氏(1001‐14頃)常夏「したの本上にこそは侍らめ。〈略〉いかで、このした疾(と)さ、やめ侍らむ」
※平家(13C前)一一「舌のやはらかなるままに、君の御事な申しそ」
※みだれ髪(1901)〈与謝野晶子〉春思「酔に泣くをとめに見ませ春の神男の舌のなにかするどき」
④ (①に形が似ているところから) 江戸時代、一両小判をいう。
※滑稽本・大千世界楽屋探(1817)下「此物前にはすくなずくなも舌五枚(シタごめへ)〈金五両をいふ〉は呉ようと思ひの外」
⑤ 天秤(てんびん)の中央にあって重量のつりあいを示すところ。針口。
懇親会(1909)〈森鴎外〉「更に其上へ少しばかり法馬(おもり)を載せたからと云って、天秤の舌には格別影響しないのである」

ぜつ【舌】

〘名〙
① 舌(した)
正法眼蔵(1231‐53)自証三昧「乃至眼耳鼻舌身意、根・識・塵等もかくのごとし」 〔詩経‐小雅・雨無正〕
② 鐸(たく)の内部につるした小片。
③ (「くぜつ(口舌)」の略) 男女間で言い争いをすること。また、口先でうまくそそのかし、くどくこと。
※洒落本・淫女皮肉論(1778)深川の密談「舌(ゼツ)でいかずはおまへの奥の手、泣いてだましてやりなさい」
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「シチヲン〈略〉 Iet(ゼツ)〈略〉シタ」

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デジタル大辞泉 「舌」の意味・読み・例文・類語

ぜつ【舌】[漢字項目]

[音]ゼツ(呉) [訓]した
学習漢字]6年
〈ゼツ〉
した。「舌苔ぜったい舌端
口でしゃべること。「舌戦舌代口舌こうぜつ・くぜつ饒舌じょうぜつ毒舌筆舌弁舌長広舌
〈した(じた)〉「舌先舌鼓猫舌
[難読]百舌もず

した【舌】

口腔底から突出している筋肉性の器官。粘膜に覆われ、非常によく動き、食物の攪拌かくはん嚥下えんげを助け、味覚・発音をつかさどる。べろ。
話すこと。言葉遣い。弁舌。「を振るう」
雅楽器の篳篥ひちりきのリード。2寸(約6センチ)ほどに切ったあしの一端をつぶして吹き口とし、他の一端に和紙を巻いて管に差し込んだもの。蘆舌ろぜつ
[類語]べろ

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改訂新版 世界大百科事典 「舌」の意味・わかりやすい解説

舌 (した)
tongue

脊椎動物の口腔底にあり,食物摂取に役立つ器官。魚類の舌は両生類以上の舌の舌根にあたる部分のみからなり,内部に筋肉を欠きほとんど動かない。水中で摂取された餌は舌の助けがなくても容易に嚥下されるからである。陸生脊椎動物の舌には舌根のほかに筋肉,腺を備えた舌体が加わり可動で餌をとらえるのに役立つ。水生の両生類では魚類と同様に舌体を欠くから,舌の進化は陸上生活への一適応と考えられる。多くの無尾類(カエル)では,舌の基部が下顎の先にあり,先端は後方を向いてたたまれている。採餌時には,舌体内の筋が硬直し,舌は固い棒状となり下顎先端の基部を中心に外方に反転して口腔からとび出す。舌の表面は腺から分泌された粘液で覆われ,餌に付着する。ついで舌下筋の収縮により舌は餌とともに口腔内にひきこまれるが,これら一連の動作は0.15秒ほどの短時間内に行われる。爬虫類以上では舌は触覚・味覚・発音器官としての働きももつ。
執筆者:

口腔の底部後方より突出している大きな高まりで,その表面は粘膜で覆われ,内部は,多くの脂肪細胞を含んだ結合組織により多くの小さな筋肉の束に分かれている。舌筋とよばれるこれらの筋肉は七つあり,すべて横紋筋で,それらが舌内部でいろいろな方向に走っているために,口腔内を自由に動かすことができる。そのために食物をとり込んだり,こねまぜるときに重要な働きをするとともに,声を出すときに,舌の位置をかえることによりいろいろな音を発することができる。舌の前方約2/3を舌体部,その先端を舌尖とよぶ。後方1/3は舌根部とよび口腔の底部に付着している。舌体部と舌根部の境界には舌尖に向かって開いたV字形の舌分界溝がみられる。日本人での平均的な舌の大きさは,長さが約7cm,幅約4.7cm,厚さ約2cmである。舌根部表面にはリンパ球が密集してできた舌小胞(舌扁桃)といわれる小さな粘膜の高まりがたくさんみられる。このような組織は,口蓋扁桃咽頭扁桃とともに口腔から咽頭への移行部をぐるりととり囲んだように配置されていて,細菌等の感染に対する防波堤の役目を果たしているともいえよう。舌体部表面の粘膜には,無数の舌乳頭papillae lingualesとよばれるかたい小さな突起があり,そのため表面はざらざらとした感じをしている。この舌乳頭には四つの種類がある。(1)糸状乳頭 舌体部背面全面に広く分布してビロードのような感じを与えている。細長く,高さは0.7~3.0mmで,その先端はさらに多くの突起に分かれている(二次乳頭)。先端は角化している。(2)茸状(じじよう)乳頭 高さが低く(0.5~1.5mm),先端がふくらんでキノコ状を呈する。舌体部背面とくに舌尖に多く糸状乳頭の間に散在している。表面が角化していないため二次乳頭中の血管が透けて赤みを帯びて見える。子どもでは味覚をつかさどる味蕾みらい)が存在していることがある。(3)有郭乳頭 舌分界溝の前に1列に並んで8~15個みられる。幅1.0~2.0mm,高さ0.5~1.0mmの大きい乳頭である。この乳頭の壁面には味蕾が発達している。味蕾に分布している知覚神経によって舌のもつ重要な機能である味覚がつかさどられている。(4)葉状乳頭 舌の側縁後方部に平行して並んでいる。味蕾が上下に走る溝に面する壁面に存在する。しかし,成人ではこの味蕾は減退し,小児や動物ではよく発達している。これら4種の乳頭を舌背部にもつ舌の粘膜表面には,舌腺とよばれる小唾液腺が散在し,これらの腺からの分泌液により粘膜表面が湿潤となっている。舌は消化器系の門戸に位置しているために,消化器系のいろいろな病気の徴候が舌の色調,湿潤度等に反映して,診断上の重要な情報を提供してくれる。また発生の途上で舌の形の異常や運動の障害などが起きてくると下顎の形や大きさ,顔貌等の成長発育にも大きな影響があらわれ,いくつかの先天異常の原因になっている。なお,舌の病気には舌炎舌癌などがある。
 →味覚
執筆者:

弁論を技術(アルス)の女王とみたキケロは,肺から口の裏に1本の動脈が走っていて心に発した言葉を声にかえ,舌が歯や口腔をたたいて明りょうな音声の流れにすると考えた(《神の本性について》)。またレオナルド・ダ・ビンチは脳底からの神経が舌全体に分布するとし,舌には24の筋が6群となって舌を多様に働かすと考えた(《手記》)。人間の舌と言語との連想は緊密で,ギリシア語glōssa,ラテン語lingua,英語tongue,ドイツ語Zungeその他多くの言葉に舌と言語の両意がある。転じて会話能力と舌との結びつきも深く,〈舌がまわる〉〈舌がなめらか〉〈舌足らず〉などの日本語の表現はその一例である。

 中国戦国時代の策謀家張儀は盗みの疑いをかけられて笞刑を受け,帰宅して妻になじられた際,舌がまだ残っていれば十分だとうそぶいたという(《史記》)。弁舌をこととする縦横家にふさわしい逸話である。舌は雄弁とともに噓言の象徴でもあり,仏教の八大地獄のうち,第五の大叫喚地獄には四大地獄に堕ちるべき罪に加えてうそをついた罪のある亡者が堕ちる。この地獄の内の受鋒苦(じゆぶく)では罪人は熱した鉄針で唇と舌を貫かれるし,受無辺苦(じゆむへんく)では地獄の鬼によって熱い鉄鋏で舌を抜かれる。舌は再び生え,直ちに繰り返し抜かれる等の責苦にあうとされる。仏教でいう十悪のうち,うそをつく,二枚舌をつかう,悪口を言う,無駄口をたたくの四つが舌または口に関係し,《大集経》によれば阿弥陀仏はこの四つの過ちを犯さぬようにと広く長い舌(広長舌。長話をする意で使われる〈長広舌をふるう〉の長広舌はこれが転じたもの)を得た。これは顔を覆い,耳や髪の生え際から梵天までも達する大きさに加えて,その上に五つの模様があり,動かせば五色の光が出て仏の周りを七周するという(《往生要集》)。リンパ管腫などによる先天異常として大舌症macroglossiaがあるが,仏の舌と異なって伸縮性はない。源信によれば,仏の舌の先の両側には二つの宝珠があって不死の唾液を舌根部に注ぎ優れた味覚を作るという。また,荘周の哲学を井蛙の譬(せいあのたとえ)とともに魏の牟(ぼう)に説かれた公孫竜は〈舌挙而不下(したあがりてくだらず) 乃逸而走(すなわちいっしてはしれり)〉という(《荘子》)。“舌を巻いて”遁走したはじまりである。

 犬は水分蒸泄のために舌を出すが,人が舌を出すときは多くの民族で愚弄や軽蔑の表現であり,ただチベットでは尊敬の挨拶となり,ニュージーランドのマオリ族では歓迎の意を表すという。舌そのものが感情を示す例である。

執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「舌」の意味・わかりやすい解説


した

脊椎(せきつい)動物の口腔底(こうこうてい)から突出した肉質の器官で、触覚や味覚の感覚器官であるほか、食物の攪拌(かくはん)、嚥下(えんげ)、あるいは発声にも関係する。魚類の舌は筋肉を欠くため動かず、口腔底の半月状突起にすぎない。この部分は両生類以上の舌根部に相当し、舌弓(第2内臓弓)より分化する。魚類では味覚器は舌に限らず、口腔内に広く分布する。両生類以上になると、顎弓(がっきゅう)(第1内臓弓)上方の口腔底が左右より膨らみ中央で癒合した舌体部が、舌根部に加わる。普通、舌とよばれるのはこの両方の部分である。カエルでは舌の後端が口腔底につかずに下顎の先にあり、先端が後方に畳まれている。餌(えさ)をとるときには、リンパ液の働きで舌を前方に突出させる。爬虫(はちゅう)類と哺乳(ほにゅう)類では、舌の下側に筋肉が発達するようになり、餌の捕獲や嚥下を助け、さらに舌の形をいろいろと変えて発声に変化を与えられるようになる。ただしカメ類、ワニ類、それにクジラ類の舌は運動性に乏しく、これらの動物は舌を出すことができない。逆によく発達した例としては、食虫類や、花粉を餌とするコウモリ類がある。ヘビ類やトカゲ類の舌の先端は二またに分かれており、舌を出してから引っ込めることにより、先端ににおい物質を付着させ、これを口腔内のヤコブソン器官の開口部にあてがって嗅覚(きゅうかく)に利用している。多くの哺乳類は舌を毛づくろいのために使う。鳥類の舌は槍(やり)の穂先のような形をしており、舌体部の発達は悪く筋肉を欠いている。ただし例外はキツツキ類で、長い舌をすばやく突き出し、木の中の虫などをとらえるのに役だてている。

 舌の表面には舌乳頭(ぜつにゅうとう)とよばれる突起がある。舌乳頭には糸状乳頭、茸状(じじょう)乳頭、有郭乳頭、葉状(ようじょう)乳頭の4種があり、それぞれ分布が異なる。糸状乳頭は先端が角質化し、櫛(くし)の歯の役割をする。有郭乳頭と葉状乳頭を取り巻く深い溝の壁には、味覚器である味蕾(みらい)が発達している。舌根部の表面には、リンパ球が集まってできたリンパ結節があり、総称して舌扁桃(ぜつへんとう)とよばれる。舌扁桃は口蓋扁桃(こうがいへんとう)や咽頭扁桃(いんとうへんとう)とともに口腔から咽頭への入口を囲むようになっている。なお、無顎類(円口類)にも舌とよばれる器官があり、表面には角質の歯があって、やすりのように食物をこすり取って摂取するのに使われるが、他の脊椎動物の舌と相同ではない。

[和田 勝]

ヒトにおける構造と機能

ヒトの舌は口腔底(こうくうてい)から口腔に突出した横紋筋の塊で、表面は粘膜に覆われており、味覚、そしゃく、嚥下、発声に役だっている。日本人の舌の大きさの平均は次のように報告されている。(1)長さ=男7.3センチメートル、女7.2センチメートル、(2)幅=男4.9センチメートル、女4.5センチメートル、(3)厚さ=男2.2センチメートル、女2.1センチメートル(国友鼎による)。舌全体は舌根、舌体、舌尖(ぜっせん)の3部分に分けられる。舌の大部分は舌体であるが、舌の上面を舌背(ぜつはい)とよび、その中央部には前後に走る浅い舌正中溝という溝がみられる。舌背の後方には、前方に向かって開放しているV字形の溝(分界溝)があり、これが舌体と舌根との境になっている。また、分界溝の中央後方には舌盲孔(ぜつもうこう)という凹(くぼ)みがある。これは、胎生期に存在した甲状腺管(こうじょうせんかん)という咽頭と甲状腺を連ねた管が閉じて退化したのち、咽頭の管の起始部が残ったものである。舌の下面では、正中部と口腔底の粘膜とをつないでいる舌小帯というヒダ(襞)がみられる。

 舌背と側面の表面の粘膜には多数の細かい舌乳頭という小突起が存在しているため、舌表面の感じは粗く、ざらざらとしている。これらの乳頭は重層扁平(へんぺい)粘膜上皮からできているが、その土台となっているのは粘膜上皮下の結合組織である。舌乳頭のうち、舌背に広く分布しているのが糸状乳頭(細長く約0.5~3.0ミリメートル)で、先端部は角化している。ヒト以外の動物では糸状乳頭はブラシのように整然と配列しており、食物をとりやすくしている。舌尖には茸状(じじょう)乳頭が分布し、糸状乳頭よりはやや短い(0.5~1.5ミリメートル)。この乳頭には角化現象がみられないため舌表面は平滑な感じとなる。舌の側縁では葉状乳頭が配列し、これが存在する部分を葉状部とよんでいる。葉状乳頭の側面では上皮内に多数の味蕾が存在し、味覚の受容器となっている。ヒトでは発達が悪く減少しているが、サル、ウサギなどではよく発達している。分界溝の前には、この溝に沿っていぼ状に一列に配列する有郭乳頭がある。幅は約2ミリメートル前後で、数は7から15くらいである。有郭乳頭は丘状に盛り上がり、周囲には溝があり、この側面上皮内には多数の味蕾が存在する。有郭乳頭の下部結合組織には神経が豊富で、味蕾とあわせて味覚のための重要な働きをしている。

 舌根部には多数のいぼ状の高まりがある。これは舌扁桃とよばれるリンパ球が密集して形成されたリンパ節で、抗体産生に関与する。

 舌個体を構成している筋を舌固有筋(内舌筋)とよび、頭蓋骨(とうがいこつ)のいろいろの部分から出て舌へとつながる筋を外舌筋とよぶ。舌固有筋は、縦走・横走・垂直に走る横紋筋線維束が脂肪細胞に富んだ疎性結合組織と組み合わされたもので、舌の滑らかな、自由な運動に役だっている。外舌筋(オトガイ舌筋・茎突舌筋・舌骨舌筋)は、舌の突出、後退、屈曲などの運動をつかさどる。舌に関与する内舌筋、外舌筋は舌下神経の支配を受けている。舌の知覚神経は、舌の前3分の2部分には舌神経(三叉(さんさ)神経第3枝の枝)、舌の後ろ3分の1部分には舌咽神経と迷走神経が分布する。知覚には味覚線維と痛覚・一般知覚線維が含まれている。舌にも小唾液腺(しょうだえきせん)が分布しており、舌の表面を絶えず湿らせている。

 舌の機能障害に味覚消失がある。顔面神経の一部が障害をおこすと障害側の舌の前3分の2の味覚がなくなり、舌咽神経に障害がおこると、障害側の舌の後ろ3分の1の味覚が消失する。また、一側の舌下神経が障害をおこすと同側の舌筋の麻痺(まひ)とともに、舌を前に突き出す運動の際、舌は麻痺側に曲がる。このほか、消化器疾患や熱病などにかかると、舌粘膜に白色や褐色の被膜が生じることがある。これを舌苔(ぜったい)とよび、上皮細胞、リンパ球や食物の残りかすなどによってできる。

[嶋井和世]


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百科事典マイペディア 「舌」の意味・わかりやすい解説

舌【した】

脊椎動物の口腔底にある味覚器官。魚類や水生両生類ではほとんど動かない。陸生脊椎動物では筋肉や腺がよく発達し,餌をとらえるのに役立つ。また触覚・発音器官としての働きももつ。ヒトの舌では,後方の口腔底につく部分は舌根,前方のよく動く部分は舌体と呼ばれ,その境界の上面には逆V字形の分界溝という溝がある。舌の筋肉は骨格筋で縦横・上下に走る筋束と,周囲の骨から起こって入りこんだ筋束からなり,そのため舌はその形と位置を自在に変えることができて,食物の咀嚼(そしゃく),嚥下(えんげ)に役だつとともに,声に変化を与える。粘膜の背面および側面には多くの舌乳頭という小突起があり,舌の表面の摩擦を大にするとともに,味覚を感受する味蕾(みらい)をそなえる。また舌根には多数の丘状の隆起をなすリンパ小節の集りがあり,舌扁桃と呼ばれる。舌粘膜は健康な際は湿ってうるおいがあるが,種々な病気の際はかわいたり,舌苔(ぜったい)という膜がついたりして,その色や状態が病気の診断の助けとなる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「舌」の意味・わかりやすい解説


した

(1) tongue 脊椎動物の口腔底にある筋性の器官で,食餌,触覚,味覚などに関係する。魚類では内部に筋肉がなく,運動性を欠き,なかには歯を有するものもある。両生類では魚類の舌に筋肉,腺をそなえ可動的な舌体という部分が付加されているが,ワニ類,カメ類,鳥類では可動性は乏しい。哺乳類では粘膜におおわれ,背面および側縁に多くの乳頭がある。ヒトでは,口腔の後部から突出する横紋筋性の高まりで,食物の摂取や発音に重要な働きをするとともに,その粘膜には味覚を感じる諸構造がある。舌の前方の広い部分を舌体,後部を舌根といい,舌の上面にあるV字形の分界溝が舌体と舌根との境界になる。舌の内部は7つの舌筋から成り,疎性結合組織によって多くの小束に分れているので,柔らかく,自由に動くことができる。舌の上面には舌乳頭という多数の小突起があるため,粗面となっており,これらの乳頭の中には味蕾という感覚器がある。 (2) lingua 昆虫でも,口器がなめる型に変形している場合 (ハエなど) ,一部分が舌と称される部分となって,なめ取る仕事をする。

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栄養・生化学辞典 「舌」の解説

 口腔底後部から出ている主に筋肉で構成されている突出物.食物を摂取したり,咀嚼したり,飲み込んだり,発音にかかわったり,味を感じたりする機能をもつ.

 食物のえん(嚥)下,味覚の受容などの機能をもつ口内の器官.筋肉組織からなり粘膜に覆われている.

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【鐸】より

…青銅製の〈かね〉の一種。中国では有柄有舌の〈かね〉をさす。すなわち,筒状の身(かねの本体)の閉じた方の端に長い柄が直立し,他端は開いたまま終わる。…

※「舌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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