風流(ふりゅう)(読み)ふりゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「風流(ふりゅう)」の意味・わかりやすい解説

風流(ふりゅう)
ふりゅう

日本芸能史および芸能上の用語。祭礼風流、延年(えんねん)の風流、狂言風流、民俗芸能の風流などがある。古く中国では遺風、余沢(よたく)(『後漢書(ごかんじょ)』王暢伝)を意味したが、日本では風流士と書いてみやびお(『万葉集』巻2)と訓(よ)んだように、みやびやかの意に用い、平安時代には奇巌怪石風流(『中右記(ちゅうゆうき)』)とか金銀錦繍(きんしゅう)風流美麗(同)とか、明媚(めいび)なありさまや華麗な意匠、装いをさすようになった。平安末ごろになると、「京中児女、風流を備え、鼓笛を調え、紫野社に参る」(『百練抄(ひゃくれんしょう)』)とか、「傘のうへに風流の花をさし上(略)乱舞(らっぷ)のまねし」(『梁塵秘抄口伝集(りょうじんひしょうくでんしゅう)』)とか、芸能にも用いられるようになった。これらは1154年(久寿1)4月の京都の今宮神社のやすらい花の祭りを描写したもので、疫神鎮送芸能の姿である。「ふうりやうのあそび」「神あそび」とも記され、かつてない歌いぶり、囃(はや)しぶり、踊りぶりであった。ふりう(『能因集(のういんしゅう)』『増鏡(ますかがみ)』)の表記も定着していた。

[西角井正大]

祭礼の風流

神が社(やしろ)から御旅所(おたびしょ)に渡る神幸祭(しんこうさい)の練り行列。神輿(みこし)、鉾(ほこ)、山、風流傘、神主、馬長(うまおさ)、奉供人(ぐぶにん)、奉納芸能者などが飾り立て、着飾って練り歩く。見られる祭り、見る祭り、すなわち祭礼は国風貴族文化と御霊(ごりょう)信仰の確立した平安朝中ごろには早くも頂点に近づき、『吉記(きっき)』には1176年(安元2)の賀茂(かも)祭使の行列について、おもだった人物の名、装束のようす、乗馬の毛色、牛馬のこしらえまで細かく記録されている。稲荷(いなり)祭については『新猿楽記(しんさるがくき)』に猿楽者が演じたさまざまな滑稽物真似(こっけいものまね)が記され、『雲州消息(うんしゅうしょうぞく)』には「散楽之態(さんがくのわざ)」が記されている。祭礼の風流という伝統をもっとも後世に残し、広く影響を与えたのは祇園祭(ぎおんまつり)で、疫神祭の代表的存在である。社伝では869年(貞観11)の初発で、66本の鉾を立て神輿が神泉苑(えん)に神幸した。山鉾は平安中期に一度出てただちに中止、南北朝時代末に再初発、応仁(おうにん)の乱で退転、乱後の1500年(明応9)に再興した。今日の姿とほとんど変わるところがない。山鉾は御霊鎮送趣向の典型である。

[西角井正大]

延年の風流

延年は寺院の大法会(ほうえ)後の遊宴、神社祭典の後宴として平安末から室町時代にかけて盛行したもので、舞楽のほかに多少演劇的な開口(かいこう)、当弁(とうべん)、連事(つらね)、大風流(だいふりゅう)、小風流(こふりゅう)の5種類の芸態をもつ。風流は漢土の故事や名所を主題として漢文で綴(つづ)られ、大風流は大王が登場して物語を表す仮装の人物を導き出し話題を進め舞楽で納め、小風流は脇役(わきやく)の誘(おこつり)(呼び出しの謡)で仮装(風流衆)を呼び出して舞曲で納める。奈良県桜井市の談山(だんざん)神社に大24曲、小15曲の台本が残る。宮城県栗原(くりはら)市金成(かんなり)の小迫(おばさま)の延年(重要無形民俗文化財)の馬乗(ばじょう)渡しは、題材は那須与一(なすのよいち)だが延年の風流に通ずる。

[西角井正大]

狂言風流

翁猿楽(おきなさるがく)の祝言性を強調するため、狂言方が仮面や作り物をかぶり豪華な扮装(ふんそう)で登場する特殊な狂言。能楽大成の前・後と成立について両説あるが、延年の風流の影響を受けた。格が重く、演出上も演者の数からも問題が多く、上演の機会は少ない。現行は和泉(いずみ)流で『御賀(おが)の松』ほか30番、大蔵(おおくら)流で『松竹(まつたけ)』ほか9番。千歳(せんざい)掛りと三番叟(さんばそう)掛りの別がある。

[西角井正大]

民俗芸能の風流

飾装、仮装をして鉦(かね)、太鼓、笛などで囃し、歌い、踊る、おもに集団的なものである。疫神祭、念仏、田楽(でんがく)の芸態に起源をもつとみられ、盆踊り、踊念仏(己の後生祈願)、念仏踊(亡者慰霊)、虫送り、雨乞(あまごい)踊、太鼓踊、浮立(ふりゅう)、剣舞(けんばい)、迎講(むかえこう)、仏舞(ほとけのまい)、小歌踊、綾(あや)踊、棒踊、奴(やっこ)踊、願人(がんにん)踊、祭礼囃子(ばやし)、太鼓打芸など多くの民俗芸能が風流に属している。東日本に散在する三匹獅子舞(さんびきししまい)、鹿(しし)踊もこの属である。

[西角井正大]

 2009年(平成21)神奈川県三浦市の小歌踊「チャッキラコ」が単独でユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。2022年(令和4)にはこれを拡張して24都府県の41件が一括登録されることとなり、登録名称も「風流踊」に変更された。

[編集部 2024年2月16日]

『本田安次著『田楽・風流1』『語り物・風流2』(1967、1970・木耳社)』


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