[1]
[一] 打消の意を含む接続助詞「で」に、係助詞「も」の付いたもの。動詞の未然形に付く。…なくても。また、「言わでものこと」のように、「でも」のあとに「あるべきこと」「よいこと」などを略して、「言わなくてもよいこと」の意を表わすことがある。
※枕(10C終)一「霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに」
[二] 断定の助動詞の連用形「で」に、係助詞「も」の付いたもの。…であっても。
※
平家(13C前)一〇「なに事でもおぼしめさん御事をばうけ給はって申せ」
[三] 格助詞「で」に、係助詞「も」の付いたもの。…においても。
※平家(13C前)七「弓矢とりはいささかの所でも思ひでの詞をば、かねてつがひおくべきで候ける物かな」
※
浄瑠璃・心中天の
網島(1720)中「売り買い高い世の中でも、金とたわけは沢山なと」
[2] 〘接続〙 (「
それでも」の略) 前の事柄に対し、後の事柄が反対・対立の関係にあることを示す。また、相手のことばを受けて、不満を示したり反論したりする時に用いる。だけど。
※洒落本・遊子方言(1770)更の体「『気を短くせずと、もちゐと、ゐなんし』『でもあまり、おもしろないぞ』」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「多くもない貯叢(たくはへ)をゲッソリ遣ひ減らして、今は残り少なになる。デモ母親は男勝りの気丈者」
[3] 〘副助〙 ((一)が一語化したものという) 体言あるいは体言と同資格の語、体言に「が」「を」以外の格助詞の付いたもの、接続助詞「て」などをうける。
(イ) 特にそれと限定するのではなく、一例として挙げる。…か何か。→補注(2)。
※虎明本狂言・餠酒(室町末‐近世初)「ざうたんに申いって、おちゃでも申さいで、おのこりおほい」
※洒落本・娼註銚子戯語(1780)「『ねなすんな』『おきてすわってでもいやしゃう』」
(ロ) (「なに」「だれ」「いつ」「どこ」などの語について) すべての場合を肯定することを表わす。「なんでも食べられます」「だれでもいい」「どこへでも行く」など。なお、「なぜでも」「どうしてでも」は、理由を問われて答えを拒否するのについて用いる。
(ハ) (軽重優劣いずれの方向にも) 極端な場合を提示し、他の場合は勿論である、の意を言外に表わす。…でさえ。
※歌舞伎・傾城暁の鐘(徳川文芸類聚所収)(1708)中「世に出なば百両でもださふ程に」
※野菊の墓(1906)〈伊藤左千夫〉「奥の間の最も煙に遠いところでも、〈略〉板の木目も判らぬ程黒い」
[4] 〘接頭〙 (「あれでも」の意からという) 職業や身分などを表わす語に付き、未熟なもの、信頼できないもの、無価値なものの意を表わす。「でも医者」「でも客」「でも坊主」など。
※落語・閉込み(1897)〈三代目柳家小さん〉「泥棒でもさして見様と云ふのでデモ泥棒と云ふので御坐います」
[補注](1)(一)の用法で、(二)と(三)との境界は必ずしも明らかにはし難い。
(2)(三)(イ)の用法で、特にどれと指定しないで、漠然と例示する場合には、必然的に軽いものが提示されることが多く、自然と価値の低いものという感じを伴う。