日本の食生活史の中できわめて重要な位置をしめてきた大豆の発酵調味料。中国で古くからつくられ,6世紀の《斉民要術(せいみんようじゆつ)》に詳しい記載のある醬(しよう)や豉(し)に起源をもつ。
→醬(ひしお)
日本へは朝鮮半島経由でみそ玉(朝鮮のメジュ)と称する餅麴(へいきく)を使用するものと,直接大陸から径山寺(きんざんじ)みそのように撒麴(ばらこうじ)を使用するものとが伝来した。令制下の宮内省大膳職に属する醬院では,宮廷用の醬,豉とともに〈未醬〉と呼ぶ発酵食品がつくられており,これがみその始まりであろうと考えられている。平安京の東の市には〈未醬〉の店があって市販もされていた。今日のみその文字は平安末期成立の《扶桑略記》に初めて登場する。みそ玉醸造方式は現在の愛知,三重,岐阜の3県における豆みそ醸造に発展し,さらに米こうじあるいは麦こうじを加えて日本独自の米(麦)みそを創造することになった。工業的に生産されるようになったのは,江戸時代に入ってからで,1645年(正保2)に仙台伊達藩の〈御塩噌蔵〉で製造が開始された。豆みそはこれよりも早く1625年(寛永2)三河で製造が開始されたとされる。その後,みそ醸造は全国的に普及し,製造所は第2次大戦末期には5500以上に達し,各地の原料需給事情,気候風土,食習慣などの諸条件により,それぞれの地方特有のみそを創出し,その結果多品種,多銘柄のみそが生産されるようになった。
普通みそと加工みそに大別され,一般にみそという場合は前者を指す。みそは原料によって,米みそ,麦みそおよび豆みそに分ける。原料は,米みそが米,大豆および食塩,麦みそが麦(大麦か裸麦),大豆および食塩,豆みそは大豆と食塩であるが,種こうじを少量の香煎(こうせん)にまぜて使うことがある。米みそや麦みそは甘みそと辛みそに分け,さらに色調によって白,淡色,および赤色に分ける。また,産地によって仙台,佐渡,信州,津軽,府中などに分ける。それらを表1に一括する。また,特殊なみそとして,栄養強化みそ(カルシウム,ビタミンB1,B2およびAなどを含む),減塩みそ(低ナトリウム食品の一種で,塩分だけが普通みその50%以下),およびハトムギみそのような雑穀みそもある。加工みそは普通みそを原料とし,魚貝類や鳥獣肉,あるいは野菜類などを加え,砂糖,水あめなどの調味料を加えて煮て練り上げたものである。そのほか,径山寺みそ,ひしお(醬)みそなど脱皮大豆,大麦,野菜および食塩を用いて水あめなどで調味した醸造なめみそもある。
→嘗味噌(なめみそ)
種類によって製法が異なるが,代表的な米みその場合は次のようになる。米は精米を用い,精選し,水洗い後浸漬(しんし)する。翌朝,水を切り,蒸す。蒸米は放冷し,種こうじを散布し,30℃で約40時間培養し,米こうじを製造する。大豆は精選し,水洗い後浸漬する。翌朝,水を切り加圧がまを用いて0.8kg/cm2の圧力下で30分前後蒸す。淡色のみその場合には,蒸さないで水煮する。蒸し煮した大豆をつぶし,放冷後,米こうじと塩とを合併,混合し,少量の種水(殺菌水にあらかじめ培養しておいた酵母や乳酸菌を加えて調整する)を加えて,全体を十分均質になるよう混合し,発酵槽に入れて,発酵させる。発酵温度は25~30℃が適温である。発酵期間はみその種類によって異なるが,25~30℃に保った場合には2~3ヵ月で主発酵は終了する。とくに加温することなく天然醸造方式によった場合には,1~3月に仕込み,9月ごろには主発酵が終わる。発酵の完了したみそは,みそこし機でこして,こしみそとするものが多い。麦みそ製造の方法は,米みその場合の米の代りに麦(大麦か裸麦を約70%歩留りで精麦したもの)を置き換えたものである。豆みそは原料の大豆をすべてこうじにするもので,まず精選,洗浄した大豆を水に浸漬して吸水させるが,吸水の程度は完全吸水の60%程度にとどめ,水切り後,加圧下で蒸す。蒸豆をつぶし,みそ玉製造機で玉をつくり,これに種こうじ(香煎に混合したもの)を接種し,豆こうじをつくる。このこうじに塩を合わせ,水を加えて仕込む。発酵は25~30℃で,3ヵ月以上を要する。原料の配合はおおむね表2のようになるが,米みその場合はこの配合比率を適宜変えることによって,多くの種類の米みそをつくることができる。
1983年のみその生産量は57万4000t,うち米みそは79%,麦みそは11%,そして豆みそ(調合みそも含む)は10%を占める。使用された原料は大豆18万1000t(うち輸入は16万2000t),脱脂大豆300t,米10万5000t,麦2万5000t,食塩7万1000t(食糧庁調査)となっている。そのほかに自家自給みそが6万4000t(1982,農水省,農家生計費統計)程度つくられている。消費の大部分は国内消費で,輸出は1708t,5億0600万円(1982,みそ輸出通関実績),おもな輸出先はアメリカ,シンガポール,台湾,イギリス,カナダ,オランダ,オーストラリアである。1980年時点でみその売上げは約1300億円であり,即席みそ汁は約160億円である。
執筆者:海老根 英雄
みそは,江戸時代に入ってしょうゆが普及するまでは最も用途の広い調味料であり,調味の基礎となるものを意味する〈下地(したじ)〉の語も,しょうゆ出現以前にはみそを指していた可能性がある。企業的生産の行われる以前から自家醸造は盛んに行われており,経済力のあるところでは原料配合の異なる,さまざまな種類のものをつくっていたことが《多聞院日記》などでうかがうことができる。みその使い方にはさまざまなくふうがこらされ,微妙に異なる味の創出が試みられたようで,《料理物語》(1643)には生垂(なまだれ),垂(たれ)みそ,煮貫(にぬき)の名が見える。生垂はみそ1升を水3升でといて袋に入れ,したたり落ちる液汁をとったもの,垂みそはみそ1升に水3升5合を入れて煮たて,3升ほどに煮詰めて生垂同様にこしとったもの,煮貫は生垂に鰹節(かつおぶし)を入れ,煮たててこしとったものとされている。みそ汁が文献に見られるのは室町期のことになるが,《延喜式》には未醬が〈汁物料〉にも使われていたことが見え,実際には室町期以前からみそ汁はつくられていたと思われる。ぬかみそ(ぬかみそ漬)は,今では漬物用にぬかと塩を合わせただけのものになっているが,かつては増量材としてぬかを加えてつくったみそで,別名を五斗みそ,後藤みそといい,みそ汁などに使われていた。
現在でもみそはさまざまな料理に使用されている。みそ汁はいうまでもなく,野菜や魚,あるいは牛肉などを漬けるみそ漬は独特のうまみと保存性をつくり出す。酢と合わせた酢みそ,それにからしやショウガを加えたからし酢みそやショウガ酢みそは,イカ,マグロ,貝類,ネギ,ウド,ワカメなどをあえてよく,ユズ,サンショウ,ゴマをすりまぜたユズみそ,木の芽みそ,ゴマみそなどは豆腐,サトイモ,こんにゃくの田楽,アユやヤマメの魚田(ぎよでん),あるいはダイコンやカブのふろふきに用いられる。みそ煮はイワシ,アジ,サバなどに適し,なべ物ではカキの土手なべ,ハマグリのはまなべ,イノシシのぼたんなべ,馬肉のさくらなべに用いる。焼きみそは小皿や杉板に塗りつけて火であぶる。飛驒名物の朴葉(ほおば)みそもその一種で,鶏肉,たけのこ,シイタケなどを刻んでみそにまぜ,ホオノキの葉にのせて炭火で焼く。和菓子には白みそを使ったみそあんが,正月の花びら餅や5月の柏餅に使われている。
執筆者:鈴木 晋一
だれでもが自慢したがることを,特定の一人だけが誇ることを手前みそというのは,かつてみそは家単位に作っていたので,それぞれ味が違っており,自分の家のみそがいちばんうまいと考えやすかったためである。また,家ごとに伝承されるみそは,家族の生命を養うたいせつな食物でもあったから,それが腐ると死者が出るという俗信も各地にある。沖縄本島北部の山原(やんばる)地方では,新築した家屋に移るとき,まず最初に運び出すのがみそと塩であったことからわかるように,みそを家の象徴とする観念があった。みその原料である豆や麦は,畑作農耕を基盤にしていることから,畑作信仰と関連ある要素をうかがうことができる。例えば,みそのにおいを山の神が好むといい,山の神祭にみそ田楽やみそをぬって焼いた御幣餅を作るところは多い。また,死者に供える膳にみそをそえたり,野辺送りから帰ったときの清めにみそを使うなど,塩ときわめて近い関係で考えられているところもある。
→塩
執筆者:坪井 洋文
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大豆を原料とする発酵食品で,江戸時代になって醤油が普及する以前は,調味料のなかで最も重要であった。元来は醤(ひしお)の一種で,室町時代以降にそのうちの固形分が味噌に,液汁分が醤油へと分化していった。かつては自家製造が盛んで,味噌玉として家の梁上に長期間保存し,飢饉に対する備えとしても重要だった。その家独特の味わいがあったところから,自慢をすることを「手前味噌」という。また火事のときには蔵の目張りに味噌を使うことも行われた。焼いたときの香ばしい香りも好まれ,焼き味噌だけで副食とすることもある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報
…微生物の働きにより食品を生産する産業で,清酒,ビールなどの酒造業と,しょうゆ(醬油),みそ,食酢などの和風調味料の製造業とに大別することができる。酒造業は一つの産業として独立して扱うことができるため,ここではそれ以外の醸造業について述べる。…
…〈麻婆豆腐〉は経済的な家庭料理として日本で有名であり,〈榨菜青椒牛肉糸〉(ピーマン,ザーサイと牛肉のせん切りいため),〈辣子鶏丁〉(鶏肉のトウガラシいため)とともに代表的家庭料理である,〈樟茶鴨〉(アヒルの山椒風味いぶし焼き揚げ)は四川料理の宴会にはなくてはならない一品である。
【日本の中国料理】
中国と日本の関係は記録の上では3世紀の《三国志》の《魏志倭人伝》に始まるが,その後,遣隋使や遣唐使らによって,文字,宗教,文化,芸術のほか,食生活の面ではみそ,納豆(浜納豆),豆腐,しょうゆ,酒,酢,麵類,点心類(ようかん,ういろう,まんじゅう)などが伝えられている。すしも古代中国に由来するといわれる。…
※「味噌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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