太刀(読み)タチ

デジタル大辞泉 「太刀」の意味・読み・例文・類語

たち【太刀/大刀】

《「断ち」の意》
長大な刀剣総称短小の「かたな」に対していう。
刃を下に向けて腰につり下げる長大な刀剣。刃を上に向けて帯にさす「かたな」に対していう。
[補説]本来は平安中期ごろまでの直刀ちょくとうは「大刀」、それ以降の反り刀は「太刀」と書いて区別する。
[類語]けんつるぎ刀剣大刀だいとう名刀宝刀軍刀牛刀日本刀青竜刀サーベル銃剣手裏剣真剣小刀しょうとう短刀懐刀ふところがたな懐剣脇差し小柄匕首あいくちどす人斬り包丁快刀業物木刀木剣木太刀竹光長刀なぎなた

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精選版 日本国語大辞典 「太刀」の意味・読み・例文・類語

たち【太刀・大刀】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 長大な刀の総称。短小の「かたな」に対していう。
    1. [初出の実例]「や雲立つ 出雲梟師(たける)が 佩ける多知(タチ) 黒葛(つづら)多巻(さはま)き さ身無しにあはれ」(出典:日本書紀(720)崇神六〇年七月・歌謡)
  3. 刃を下に向けて腰につり下げる長大な刀の称。刃を上に向けて帯に差す「かたな」に対していう。儀仗の太刀、兵仗の太刀それぞれに各種類がある。
    1. 太刀<b>②</b>〈兵仗の太刀〉
      太刀〈兵仗の太刀〉
    2. [初出の実例]「たちを抜き、きらめかして、かたはしより追ひはらひて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)あて宮)
    3. 「我は元来太刀も刀も持ず、只人の太刀を我物と憑(たのみ)たるに」(出典:太平記(14C後)二)
  4. たちうお(太刀魚)」の略。〔弘治二年本節用集(1556)〕

太刀の語誌

( 1 )「十巻本和名抄‐五」の記載によると、「たち」は片刃の大刀、「かたな」は片刃の小刀、「つるぎ」は両刃のものを指したらしいが、上代では、「たち」は両刃・片刃にかかわらず長刀を総称していったらしい。
( 2 )平安時代以降、反刀(そりがたな)が用いられるようになるとともに、「たち」は「大刀」から「太刀」と書かれるようになり、さらに近世以降は、刃を上にして帯にさす打刀(うちがたな)が流布し、その二腰を大刀・小刀と称したので、それとの混同を防ぐため、「たち」は太刀と書くのが慣例になった。
( 3 )現在、古墳時代以後、奈良時代までの直刀(ちょくとう)を「大刀」、平安以降の反刀(そりがたな)を「太刀」と書いて区別している。

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改訂新版 世界大百科事典 「太刀」の意味・わかりやすい解説

太刀 (たち)

鞘(さや)に足金物(あしがなもの)を設け,帯取(おびとり)の緒をつけて,刃を下に向けて腰につるすのを太刀の特色とする。奈良時代から平安時代の初期には大刀または横刀と書いて〈たち〉と読ませ,後世は太刀と書くのが常である。太刀身も作銘(さくめい)は佩表(はきおもて)に入れるのを常とするから,外装がなくとも,刃を上に向けて腰に差す打刀(うちがたな)の類とは容易に識別することができる。太刀の種類は礼典用の儀仗(ぎじよう)と軍陣用の兵仗(ひようじよう)に大別されるが,つねに新様式の発達にともなって,軍陣用も旧様式は形式的となり,儀仗化している。古く古墳出土の遺品は,把(柄)頭(つかがしら)に手だまりを大きくこしらえるのを特色とし,頭椎(かぶつち)といって柄頭を立体的に大きくふくらませたものと,環(鐶)頭(かんとう)といって環としたものと,方頭,円頭,圭頭などに分けられる。奈良時代には柄に鮫皮(さめかわ)をきせて鞘に漆を塗り,金銀飾の長金物(なががなもの)を入れた唐大刀(からだち)とその略式である唐様(からよう)の大刀が行われ,平安時代になると唐大刀は飾太刀(かざだち)とよばれて儀仗の最高級となり,その略式は細太刀とよばれて帯剣を許された公卿の儀仗となった。兵仗は柄を毛抜形にすかしたのが特色で,衛府(えふ)の武官常用として衛府(よう)の太刀といい,公卿も非常の際の実用としてこれを野太刀(のだち)ともいった。また儀仗用の太刀の緒の平緒(ひらお)に対して,兵仗用は革緒(かわお)を用いるので革緒の太刀ともいった。鎌倉時代になって武士は柄,鞘,金具をすべて黒塗りとした黒漆(こくしつ)の太刀,その足金物だけを銀とした足白(あしじろ)の太刀,柄,鞘にかけて覆輪(ふくりん)をかけた長(なが)覆輪の太刀,兵具(ひようぐ)用の鋂(くさり)を使用した兵具鋂の太刀,薄金(うすがね)をらせんに巻いた蛭巻(ひるまき)の太刀,籐(とう)を巻いた籐巻の太刀などを用いて,衛府の太刀はまったく儀仗化した。室町時代になると革包(かわつつみ)や錦包として,柄と足金物の部分を糸巻とするのが流行して,兵具鋂は儀仗化した。室町時代の末期になると,打刀が太刀にかわってさかんになり,蒔絵(まきえ)の糸巻の太刀は,贈答用として儀礼化した。
執筆者: 太刀の中身,すなわち日本刀の一種類として単独に太刀という場合は,2尺(約60cm)以上の長さのものをいう。刃を下にして佩用(はいよう)するため,その外側となる面(佩表)に銘を切るのを通例としている。一般に太刀は反りが高く,2尺5寸前後の長さが多いが,2尺以下のものは小太刀,3尺以上のものを大太刀とよんだ。原則として太刀は鎌倉末期に始まり,室町初期まで用いられ,中期以後は打刀が主流となる。
装剣金具 →日本刀
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太刀」の意味・わかりやすい解説

太刀
たち

日本刀の一様式。身につける場合、鞘(さや)に設けた2個の足金物(あしがなもの)につけた帯取(おびどり)の緒(お)で腰に吊(つ)るし、このとき一般に刃が下向きになるのが特色で、刃を上にして腰帯に直接差す後世の刀(打刀(うちがたな))と相違する。太刀は刃長60センチメートル(2尺)を超え、通常は70センチメートル(2尺3寸)以上のものが多いが、60センチメートル前後のものを小太刀(こだち)、とくに寸法の長いものを大(おお)太刀という。また太刀は一般に元で大きく反り、刀身の先端の幅が元幅より著しく狭い湾刀(わんとう)形をしているが、日本刀の鎬造(しのぎづくり)湾刀の太刀様式が完成したのは平安中期ごろと推定されており、それ以前の古墳時代、奈良、平安初期を通じて用いられた直刀(ちょくとう)に対しては「大刀(たち)」の文字が用いられる。なお太刀とは元来は刀身の入った刀装を称したのであるが、現在では刀身そのものをいい、刀装に対しては太刀拵(ごしらえ)とよぶ場合が多い。

 太刀は大別して儀式・典礼用の儀仗(ぎじょう)と、戦陣用の兵仗(ひょうじょう)に区別される。儀仗には飾剣(かざたち)、細太刀(細剣)、衛府(えふ)太刀、野剣(のだち)などがあり、金銀鈿荘(でんそう)飾剣、樋螺鈿(ひらでん)細剣、毛抜形(けぬきがた)衛府太刀、平文(ひょうもん)野剣などと呼称される。武家などが一般に用いた兵仗には黒漆(こくしつ)太刀がもっとも多く、金具まで黒く塗った黒造(くろづくり)太刀もある。ほかに柄(つか)と鞘の一部分(渡巻(わたりまき))を組糸で巻いて仕上げた糸巻太刀も多くみられ、梨地(なしじ)や沃懸(いかけ)地の鞘塗のものは、金梨地家紋蒔絵(まきえ)糸巻太刀、沃懸地螺鈿糸巻太刀などとよばれる。兵庫鎖太刀は兵仗であったが、鎌倉後期になるともっぱら社寺への奉納用となっている。室町中期(15世紀)になると、従来の騎馬戦から徒歩(かち)集団戦へと戦闘形式が変わるにつれて打刀が発達し、太刀は日本刀の主流の座を去った。

[小笠原信夫]


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百科事典マイペディア 「太刀」の意味・わかりやすい解説

太刀【たち】

日本刀

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防府市歴史用語集 「太刀」の解説

太刀

 刀[かたな]のことです。平安時代より前は「大刀」と書きますが、それ以後は「太刀」と書きます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太刀」の意味・わかりやすい解説

太刀
たち

」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の太刀の言及

【大刀】より

…しかし,一方では大刀と書いて〈つるぎ〉と読むこともあって,記紀では大刀と剣との形の区別は厳密でない。また,古墳時代から奈良時代までの,主として直刀に属するものを〈大刀〉と書き,平安時代以降の外反り(そとぞり)刀を〈太刀〉の文字であらわすのが習慣であるが,考古学用語としては,古墳時代の内反りの素環頭(そかんとう)大刀も,便宜上〈大刀〉と書いている。あるいは,刃を下向きにして腰に下げるものを〈たち〉とし,刃を上向きにして帯に差すものを〈かたな〉と呼ぶと説明するが,4~5世紀の大刀の佩用方法は明確でないから,これは6~8世紀の大刀と後世の日本刀との相違を述べたものにすぎない。…

【日本刀】より

…剣の場合は長さは切先から区までの距離,また,左右相称形なので反りはない。〈太刀(たち)〉〈刀〉〈脇指(わきざし)〉〈短刀〉などの種別は上記の長さの相違によっている。すなわち長さが2尺以上あるのが太刀と刀,1尺以下のものが短刀,その中間のものが脇指である。…

※「太刀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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