長野県と岐阜県にまたがる活火山。標高は3067メートル。1991年に少量の火山灰を噴出する小規模噴火があり、2007年にも火山性地震が多発し小規模な噴火が起きた。「平常」を表す1だった噴火警戒レベルは14年9月27日の噴火直後に3の「入山規制」に。17年に1の「活火山であることに留意」(新呼称)へ下がった。今年2月、火山性地震が増加したことから、17年8月以来の「火口周辺規制」を示すレベル2になったが、6月に再びレベル1に引き下げられている。
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長野・岐阜県境にそびえる複式の成層火山。木曽御嶽(きそおんたけ)ともいう。中央火口丘の剣ヶ峰(けんがみね)が最高峰で標高3067メートル。外輪山(摩利支天(まりしてん)山、継母(ままはは)岳)、寄生火山(継子岳、三笠(みかさ)山)、噴火口跡(一ノ池~五ノ池)などが南北に連なり、これらを総称して御嶽山とよぶ。頂上周辺の一ノ池から五ノ池のうち、二ノ池と三ノ池はつねに水をたたえているが、一の池は涸(か)れていることが多い(北東側の火口壁が欠けて水は二の池へ流出している)。二ノ池は日本最高位にある湖沼で(2908メートル)、三ノ池は高山湖としては日本で第3位の深さである(13.3メートル)。六合目あたりまでは雑木やカラマツが多いが、2100メートルあたりから天然のヒノキ、コメツガ、カラマツの美林になり、八合目にはお花畑がある。雄大な裾野(すその)はスキー場、キャンプ場、別荘地などに開発されているが、開田(かいだ)高原や寒原(さむはら)高原、御嶽高原などが中心で、御嶽高原から北西の山寄りには田ノ原天然公園(2190メートル)もあって高山植物が多く、遊歩道もある。黒沢付近のブッポウソウ繁殖地は国指定天然記念物。
また、山体は御嶽教の霊地として古くから信仰の対象になっている。江戸中期までは尾張(おわり)藩が森林保護を名目に一般人の登山を禁止していたが、天明(てんめい)・寛政(かんせい)年間(1781~1801)ごろ初めて一般人の登山が認められ、中部、関西、関東方面から信者のグループである御嶽講の登山が盛んになった。登山道沿いに七合目あたりまで講ごとに霊場(墓地)を設け、そこへ各人が死後霊が納まる場所として霊神碑を建立している。その数はおよそ2万基といわれ現在も建てられている。登山道は王滝口、黒沢口、開田口、岐阜県の濁河(にごりご)温泉口などがあり、長野県側はJR中央本線木曽福島駅からバスを利用する。なお、信者が口々に「六根清浄(ろっこんしょうじょう)お山は晴天、懺悔(さんげ)懺悔守らせたまえ」と唱えるのは、心身を清め、その功徳によって無事に登山できるように祈るもの。
[小林寛義 2018年8月21日]
東日本火山帯に属する活火山で、玄武岩~流紋岩からなる。中央火口丘の剣ヶ峰は安山岩。まず更新世(洪積世)中期に成層火山ができ、約10万年休眠後、いまから約8万年前に大噴火してカルデラを生じ、以後、更新世末ないし現世初頭まで噴火活動を反復し、その末期に「五峰五湖」と称される一連の火口(湖)を生成した。当時死火山と思われていたが、1979年(昭和54)に突然小規模な水蒸気噴火が発生した。この噴火は「死火山」という用語を廃止するきっかけとなった。その後の地質調査で、最近7500年間(有史を除く)に少なくとも15回もの噴火があることが明らかになった。
1991年(平成3)、2007年(平成19)にも小規模な噴気活動が発生し、2008年には、気象庁により噴火警戒レベルが導入され、レベル1「平常」に指定された。また2009年には、火山噴火予知連絡会により「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある47火山」の一つとして選定され、常時観測火山として活動状況が24時間体制で監視されることとなった。2014年9月中旬、火山性地震が一時的に増加したが、その後減少。地殻変動を伴わなかったため、警戒レベルは引き上げられなかった。しかし、9月27日11時52分に水蒸気噴火が発生。9月27日12時36分噴火警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられた。噴火の規模としては1979年の噴火と同様に小規模であったが、山頂付近では大きな噴石が飛散し、多数の登山者が巻き込まれた。噴火に伴い、低温の火砕流も発生し、噴煙は一時7000メートルの高さに達した。死者数58名、行方不明者数5名(2015年11月6日時点)。2014年10月以降は、噴火は発生しておらず、弱い噴煙活動や地震活動が続いてはいるものの火山活動は低下していることから、2015年6月、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)に引き下げられた。その後も噴煙活動や山頂直下付近の地震活動は緩やかに低下し、火山活動が静穏化したため、2017年8月には噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)に引き下げられている。
[諏訪 彰・中田節也 2018年8月21日]
『横内斉著『木曽御岳』(1955・木曽御嶽観光連盟)』▽『島田安太郎著『御嶽山』(1982・千村書店)』
長野・岐阜両県境,飛驒山脈の最南端に位置する複合成層火山。標高3067m。木曾の御嶽山として知られる。山頂部は俗に五峰五湖と称し,中央火口丘の剣ヶ峰を最高点に北から継子岳,摩利支天山,継母岳,王滝頂上の4峰が連なって外輪山をなし,旧火口は五つの火口湖(一ノ池~五ノ池)となっている。そのうち二ノ池と三ノ池は常時水をたたえ,二ノ池は日本最高位(2908m)の湖沼,三ノ池は高山湖としては第3位の深さ(13.3m)である。御嶽火山は,第三紀の初めころから噴火が始まり,古生層や中生層の基盤を貫いて噴出したもので,何回かの噴火を繰り返して第三紀末に現在のような火山原形がつくられた。噴火の順序は,(1)摩利支天,(2)二ノ池と三ノ池,(3)中央火口丘の一ノ池火口と四ノ池である。そのうち溶岩の噴出量が最も多かったのは摩利支天山で,広範囲に溶岩が流出し,御嶽火山の大部分を構成している。また外輪山の南東中腹の三笠山,小三笠山は,三ノ池の噴火活動と同時期の寄生火山である。1979年10月28日の御嶽山の噴火は有史以来の事で,地獄谷に新火口を開いている。
高峻で雄大な御嶽山の山容は古来山岳信仰の対象となり,最高峰剣ヶ峰に御嶽神社奥社があり,祠や石像が安置されている。御嶽信仰の盛期は江戸時代の1790年代以降であったが,明治に入って女人禁制の解除,中央本線の開通(1910)や中山道の改修などのほか1891年のW.ウェストンの御嶽登山が契機となって登山にスポーツの要素が多くなり,多くの登山者がこの山を訪れるようになった。とくに王滝口七合目の田ノ原(2200m)までバス路線が開通し(1967),観光地としての性格は一段と強まった。とはいっても依然として信仰の山であり,白衣に身を固めて金剛杖をつき〈六根清浄〉を唱えながら登る光景は今日も続いている。登山路は王滝道,黒沢道,開田道,濁河温泉道の4コースがある。中でも王滝口と黒沢口は一合目ごとに山小屋があり,その沿道にはおびただしい石造物がまつられている。
標高2500m以上の高山帯は一面ハイマツにおおわれ,すそ野の下部はヒノキやサワラなどの美林があり,とくにヒノキは日本三大美林として著名で国有林である。広大なすそ野は周辺の村の採草地や牧場として利用されていたが,現在はスキー場,キャンプ場,別荘団地の開発が進められて観光地化が急速に進展している。南東麓には,御嶽湖の名で親しまれている愛知用水牧尾ダムがある。これは1961年に水資源開発公団が建設したもので,有効貯水量6800万m3のロックフィル式の多目的ダムである。堰堤から上流へ延々8kmにおよぶこの人造湖には遊覧船が浮かび,湖上からの御嶽山の眺めは新しい観光資源となっている。
執筆者:上野 福男
木曾御嶽山はもとは各地に分布する国御嶽(くにみたけ)の一つとして,蔵王権現がまつられ,道者の登る山とされていた。江戸時代中期に尾張の覚明行者,江戸の普寛行者の2人によって,黒沢口,王滝口の登山道が整備され,それまで75日間の精進潔斎を行った者でないと登ることができなかったものが軽精進だけで登れるようになった。それ以降,覚明,普寛の系譜に属する行者達によって各地に講が結成され,全国的に普及したのである。明治期には下山応助の努力によって神道十三派の一つ御嶽教会が設立された。木曾御嶽山信仰の特色はそれを母体として新宗教が形成されたことをはじめ,山中に数万にものぼる霊神碑が立てられていること,〈御座〉をたて託宣をする習俗が顕著であることにある。霊神碑は功績のあった行者を霊神としてまつるもので,霊魂が山に帰り大神に仕えるという考え方にもとづき山中に行者名を記した碑が多数立てられている。
執筆者:宮本 袈裟雄
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(2014-9-30)
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